30秒から3分へ──Google Lyria 3 Proが突きつけるAI音楽の現在地

Googleが音楽生成AI「Lyria 3 Pro」を発表した。30秒しか作れなかった前世代から一気に3分へ。だが、この進化の裏側には、音楽業界全体を揺さぶる問いが潜んでいる。

30秒から3分へ──Google Lyria 3 Proが突きつけるAI音楽の現在地
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Googleが音楽生成AI「Lyria 3 Pro」を発表した。30秒しか作れなかった前世代から一気に3分へ。だが、この進化の裏側には、音楽業界全体を揺さぶる問いが潜んでいる。


Lyria 3 Proは何が変わったのか

Google DeepMindの最新音楽生成モデルLyria 3 Proが、6つのプラットフォームで一斉に展開を開始している。前モデルのLyria 3が2026年2月に登場してからわずか5週間。生成できる楽曲の長さは30秒から最大3分へ、実に6倍の飛躍だ。

だが、本質的な変化は「長くなった」ことではない。Lyria 3 Proは楽曲の「構造」を理解する。イントロ、ヴァース、コーラス、ブリッジといった楽曲のパーツをプロンプトで指定でき、複雑な展開やトランジションにも対応する。これまでのAI音楽生成が「ひとつながりの音の塊」を吐き出していたとすれば、Lyria 3 Proは最大3分の楽曲を組み立てようとしている。

Geminiアプリでは有料サブスクライバー限定で提供され、AI Plusが1日10曲、Proが20曲、Ultraが50曲の生成制限が設けられている。無料ユーザーはアクセスできない。企業向けにはVertex AIでパブリックプレビューが始まり、開発者にはGoogle AI StudioおよびGemini APIを通じてLyria RealTimeとともに提供される。

Google Vids、そして2月に買収したばかりの ProducerAI (旧Riffusion)にも統合済みだ。とくにProducerAIは、テキストプロンプトで新しい楽器やエフェクトを生み出す「Spaces」機能を備え、プロの音楽制作者向けのエージェント型体験を目指している。

Googleが選んだ「ライセンス重視」の道

AI音楽の世界で最も燃えやすいのは、著作権の問題だ。Googleはこの火種に対して明確なスタンスを打ち出している。

Lyria 3 Proの学習データには、YouTubeやGoogleが利用規約・パートナー契約・適用法に基づいて使用権を持つ素材を使用したとしている。アーティスト名をプロンプトに入れても「模倣」はせず、あくまで「広いインスピレーション」として処理する。生成されたすべての楽曲には、AI生成コンテンツを識別する電子透かし技術 SynthID が埋め込まれる。

グラミー賞受賞プロデューサーのヤング・シュピールブルクがGoogle DeepMindの短編映画のスコアにLyriaを使用し、DJのフランソワ・Kもリリース予定の楽曲制作に参加するなど、プロのクリエイターとの協業も進めている。

ただし、この「責任ある開発」というナラティブは、すでに法廷で試されている。3月6日(現地時間)、インディーズのミュージシャンらがGoogleを提訴した。訴状は118ページにおよび、Googleが許可なくYouTubeから4,400万件以上のクリップと28万時間分の音楽をコピーしてLyria 3の学習に使用したと主張している。Googleの「正当な権利で使用した」という説明と、アーティスト側の「無断で搾取された」という主張。どちらの言い分が正しいかは、まだ法廷の外にいる我々にはわからない。


AI音楽市場の「勢力図」が書き換わりつつある

Lyria 3 Proの投入は、AI音楽生成の競争環境を一変させる可能性がある。

現在この分野をリードしているのはSunoだ。2026年2月時点で有料会員200万人、年間経常収益(ARR)は3億ドル(約477億円)に達し、評価額は24.5億ドル(約3,895億円)。Udioと並んでAI音楽の代名詞的存在だが、両社とも大手レコードレーベルからの著作権侵害訴訟に直面してきた。Sunoはワーナー・ミュージックと和解しライセンス契約を結んだが、ユニバーサルとソニーからの訴訟は継続中だ。

Googleの差別化ポイントは、ライセンスデータへの依拠と、6つのプラットフォームを横断するエコシステム展開にある。Geminiアプリの消費者層、Vertex AIの企業層、ProducerAIのクリエイター層。APIレベルでのアクセスを提供することで、サードパーティが自社アプリにAI音楽生成を組み込める──これは現時点でSunoやUdioが提供していない配信戦略だ。

毎日5万曲が「生まれる」時代に

Lyria 3 Proの登場が意味するのは、AI音楽生成の「使い物になる閾値」がまたひとつ下がったということだ。

Spotifyでは毎日推定5万曲のAI生成楽曲がアップロードされ、昨年だけで7,500万曲が「スパム」として削除された。Deezerに至っては1日あたり6万曲以上のAI生成トラックが届き、その約70%の再生が不正と判定されている。

ソニーは先週、アーティストを偽装した13万5,000曲以上のAI楽曲をSpotifyから削除要請したばかりだ。こうした洪水の中で、Googleは「責任あるAI音楽」を標榜する。SynthIDで透かしを入れ、アーティストの模倣を避け、学習データの正当性を主張する。だが、ツールが便利になればなるほど、それを悪用する者も増える。3分の高品質な楽曲が簡単に生成できるようになったとき、ストリーミングプラットフォームに流れ込むAI楽曲の質と量はさらに跳ね上がるだろう。

正直なところ、Lyria 3 Proの技術的進歩は素直にすごい。5週間前に30秒だったものが3分になり、しかも楽曲構造を理解している。だが「すごい」と「問題がない」はまったく別の話だ。


音楽は誰のものか

AIが3分の「曲」を作れるようになった。作曲の民主化と呼ぶ人もいれば、搾取の自動化と呼ぶ人もいるだろう。

Googleは「AIは人間の創造性を強化するもの」と繰り返す。それは理想としては美しい。だが、毎日5万曲のAIスパムが流れ込むプラットフォームで、人間のミュージシャンがロイヤリティプールを奪い合っている現実の中で、その言葉がどこまで響くかは別の問題だ。

半年後、この技術がどう使われているか──楽しみでもあり、少し怖くもある。


参照元


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