AIインフラ投資、ROI達成は3割未満——Gartner調査

AIインフラ投資、ROI達成は3割未満——Gartner調査

2026年、AI投資に対する説明責任の時代が始まっている。Gartnerの最新調査が突きつけた数字は、その現実を映し出している。


ITインフラ領域で成功するAIプロジェクトは28%

Gartnerが2025年11月〜12月に実施した調査の結果は、AIへの期待と現実の乖離を端的に示している。ITインフラ・オペレーション(I&O)部門のマネージャー782人を対象にしたこの調査で、AIの導入がROI(投資対効果)を完全に達成したと答えたのはわずか28%にとどまった。

一方で、5件に1件のプロジェクトは完全な失敗に終わっている。57%のI&Oリーダーが、自部門でのAI適用において少なくとも1回の失敗を経験したと回答した。「成功」と呼べるのは3割未満、「完全な失敗」が2割——この数字が、AI投資の現在地を示している。

AIインフラプロジェクトの成果分布
ROI完全達成 投資対効果を実現
28%
部分的成功・進行中 一定の成果または継続中
52%
完全な失敗 5件に1件
20%
出典:Gartner(2025年11〜12月調査、I&Oマネージャー782人対象)

Gartnerのリサーチディレクター、メラニー・フリーズは失敗の原因について次のように指摘する。

AIが複雑なタスクを即座に自動化し、コストを削減し、長年の運用課題を解決してくれると思い込んでいた。期待が現実的に設定されず、結果がすぐに出ないと、信頼が失われ、プロジェクトは停滞する。

「野心的すぎる」か「スコープが不明確」——20%の失敗率を生んでいるのは、この2つのパターンだ。組織のオペレーションにフィットしないAIは、そもそもROIを生み出せない。

失敗が集中する「自律系AI」の領域

I&Oリーダーが最も頻繁に失敗を経験している領域は、自動修復(auto-remediation)、自己修復インフラストラクチャ、そしてエージェント主導のワークフロー管理だ。いずれも「AIに任せれば勝手にやってくれる」という期待が先行しやすい分野である。

フリーズは失敗率の高さについて、こう補足する。

20%の失敗率は、野心的すぎるか、スコープが不明確なAIイニシアチブによって引き起こされている。組織のオペレーションにフィットしないAIは、ROIを生み出せない。

失敗の直接原因として挙げられたのは、スキルギャップとデータ品質・可用性の問題が各38%で同率トップAIを動かす技術も、AIを育てるデータも、両方が不足している企業が多いことを示している。

AI失敗プロジェクトの直接原因
スキルギャップ AI人材・技術の不足
38%
データ品質・可用性 学習データの質・量の問題
38%
出典:Gartner(失敗を経験したI&Oリーダーへの調査、同率トップ)

一方で、成功率が比較的高い領域もある。ITサービス管理(ITSM)やクラウドオペレーションへの生成AI適用では、53%のI&Oリーダーが成功を報告した。技術的に成熟し、ユースケースが明確な領域では、まだAIが機能する余地がある。

80%超の企業が「生産性向上ゼロ」を報告

Gartnerの調査結果は、より広範なAI投資の困難を示すデータと符合する。

全米経済研究所(NBER)が2026年2月に発表した調査では、米国・英国・ドイツオーストラリアの約6,000人の経営幹部のうち、80%以上が「AIは雇用にも生産性にも影響を与えていない」と回答した。AIを導入している企業は約70%に達しているにもかかわらず、だ。

経営幹部自身のAI利用時間は週平均わずか1.5時間。4人に1人はAIを業務で一切使っていない。導入はしたが、使いこなせていない——そんな企業像が浮かび上がる。

CIOに迫る「2026年前半」のデッドライン

Dataiku社がHarris Pollに委託した600人のCIO調査は、さらに切迫した状況を明らかにした。取締役会からのROI実証圧力が2024年以降増加していると答えたCIOは98%。71%が「2026年前半までに目標を達成できなければAI予算は凍結または削減される」と考えている。

興味深いのは、74%のCIOが「過去18ヶ月以内に行った主要なAIベンダー/プラットフォームの選択を後悔している」と答えた点だ。62%はCEOから直接、ベンダー選定について疑問を呈されたことがあるという。

AIへの期待と現実のギャップは、単なる技術的課題ではない。経営層の信任、予算、そしてキャリアが賭けられた問題へと変質している。

40年前の「ソロー・パラドックス」が再び

1987年、ノーベル経済学賞を受賞したロバート・ソローは、こう述べた。

コンピュータの時代はいたるところで見られるが、生産性統計には見当たらない。

1970年代から80年代にかけて、企業はコンピュータに莫大な投資を行った。しかし生産性成長率はむしろ低下し、1948〜73年の2.9%から、73年以降は1.1%へと落ち込んだ。「ソロー・パラドックス」と呼ばれるこの現象は、変革的技術の効果が統計に表れるまでに長い時間がかかることを示していた。

生産性が急上昇したのは1990年代後半。コンピュータ導入から約20年後のことだった。

Apolloのチーフエコノミスト、トルステン・スロークは2月のブログで、ソローの言葉をAIに置き換えた。

AIは雇用データにも、生産性データにも、インフレデータにも見当たらない。

40年前のパラドックスが、形を変えて繰り返されている。

AI投資の現実を示す主要調査
調査 Gartner NBER Dataiku
対象 I&Oマネージャー
782人
経営幹部
約6,000人
CIO
600人
調査時期 2025年
11〜12月
2026年
2月発表
2025年
12月〜2026年1月
主要結果 ROI達成
28%
生産性影響なし
80%超
予算凍結リスク
71%
補足 完全失敗
20%
AI導入率
約70%
ROI圧力増
98%
各調査の対象国:Gartner=グローバル、NBER=米英独豪、Dataiku=グローバル

Gartner自身が語る「幻滅の谷」

Gartnerは2026年1月の予測で、2026年のAI総支出額を2兆5200億ドル(約403兆円)と見積もった。同時に、AIは2026年を通じて「幻滅の谷」(Trough of Disillusionment)にあると位置づけている。

ROIの予測可能性が向上するまで、AIは真にスケールアップできない。

Gartnerの言葉を借りれば、企業がAIを購入するのは「ムーンショット的な新規プロジェクト」としてではなく、「既存のソフトウェアベンダーから売りつけられる」形が主流になる。実験から説明責任へ——AIはそのフェーズに入った。


1987年、コンピュータは「変わるはずなのに変わらない技術」だった。2026年、AIは同じ批判にさらされている。歴史は繰り返すのか、それとも今回は違うのか。答えを出すのは統計であり、まだその数字は出ていない。


参照元

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