AIを使う人は増えた。信じる人は増えなかった
アメリカ人の4人に3人がAIを信頼していない。それでも利用者は増え続けている。矛盾に見えるこの数字が映し出す、人間とテクノロジーの複雑な関係。
アメリカ人の4人に3人がAIを信頼していない。それでも利用者は増え続けている。矛盾に見えるこの数字が映し出す、人間とテクノロジーの複雑な関係。
「使うけど信じない」という不信任投票
アメリカ人のAI利用率が上がり続けている。にもかかわらず、信頼は一向に追いついてこない。
クイニピアック大学が2026年3月30日に公表した全米世論調査が、その断絶を数字で突きつけた。約1,400人の成人を対象にしたこの調査で、76%がAIの生成する情報を「ほとんど信頼しない」か「たまにしか信頼しない」と回答。「ほぼ常に信頼する」はわずか3%だった。
それでいて、AIを「一度も使ったことがない」と答えた人は27%にまで減っている。2025年4月時点の33%から、1年足らずで6ポイントの下落だ。リサーチ目的のAI利用は37%から51%へ急伸し、データ分析も17%から27%に跳ね上がった。
| 項目 | 2025年4月 | 2026年3月 | 変化 |
|---|---|---|---|
| AI未使用率 | 33% | 27% | ▼6pt |
| リサーチ利用 | 37% | 51% | ▲14pt |
| データ分析利用 | 17% | 27% | ▲10pt |
| 害>善(日常) | 44% | 55% | ▲11pt |
| 雇用減少予測 | 56% | 70% | ▲14pt |
| 自職に懸念 | 21% | 30% | ▲9pt |
| 規制不十分 | 69% | 74% | ▲5pt |
出典:クイニピアック大学世論調査(2026年3月30日公表)|AI不信頼率(76%)は前年とほぼ変化なし
クイニピアック大学のチェタン・ジャイスワル准教授はこう指摘する。「利用と信頼の矛盾は衝撃的だ。51%がリサーチにAIを使い、ライティングや仕事にも活用している。しかし、AI生成情報をほぼ常に信頼するのはたった21%だ」
使いはするが、信じてはいない。これは消極的な採用というより、かなり不健全な構図ではないだろうか。
クイニピアック大学のチェタン・ジャイスワル准教授はこう指摘する。「利用と信頼の矛盾は衝撃的だ。51%がリサーチにAIを使い、ライティングや仕事にも活用している。しかし、AI生成情報をほぼ常に信頼するのはたった21%だ」
不信任のまま依存が進む——この構図がどこに行き着くのかは、まだ誰にも見えていない。
Z世代が最も悲観的という逆説
雇用への影響に対する懸念が、この1年で急速に深まっている。
AIの進歩が雇用機会を「減らす」と答えた人は70%に達し、前年の56%から14ポイントも悪化している。逆に「増える」と答えた人は13%から7%に半減した。
注目すべきは世代間の温度差だ。AIツールに最も精通しているはずのZ世代(1997〜2008年生まれ)が、雇用減少を予測する割合で全世代トップの81%を記録した。「デジタルネイティブ」として育ち、AIの能力を最もよく知っているからこそ、自分たちのキャリアの足場が崩されつつあることに敏感なのだろう。
この世代の不安には裏付けがある。労働調査会社Revelio Labsのデータによれば、アメリカのエントリーレベル(新卒・初級職)の求人数は2023年初頭から約35%も減少した。月間10万件以上の求人が消えた計算になる。

Anthropicのダリオ・アモデイCEOも2026年1月、AIがホワイトカラーの初級職の50%を1〜5年で奪う可能性があると警告する2万字の論考を発表している。

クイニピアック大学のタミラ・トリアントロ准教授は「若い世代はAIツールへの親しみが最も深いのに、雇用市場への見方は最も暗い。AIへの精通と楽観が、逆方向に動いている」と分析する。
興味深いのは、雇用市場全体への危機感と「自分の仕事」への危機感にギャップがあることだ。雇用者のうち、AIで自分の職が不要になると懸念する人は30%。前年の21%から上昇したとはいえ、70%の「雇用は減る」とは大きな開きがある。「嵐は来るが、自分は濡れない」——この認知の歪みが、いつまで持つかは誰にもわからない。
興奮6%、懸念80%の落差
利用率の上昇とは裏腹に、AIに対する感情は冷え切っている。
AIに「とても興奮している」と答えた人はわずか6%。逆に80%が「とても懸念」か「やや懸念」を選んだ。55%が日常生活でAIは「善より害をもたらす」と考えており、前年の44%から11ポイントも悪化した。
この1年間にアメリカで何が起きたかを振り返れば、数字の悪化は驚くに値しない。大手テック企業による大量解雇。AIチャットボットに起因する精神疾患や自殺事案の報道。電力網を圧迫するデータセンターの建設ラッシュ。「便利だが怖い」から「怖いし、もう身近にある」へ——感情の相転移が起きている。
データセンターの建設も住民の反発に直面している。自分のコミュニティにAIデータセンターが建設されることに65%が反対を表明。反対理由の上位は電気料金の高騰(72%)と水の使用量(64%)だ。AI産業がもたらす「見えないコスト」を、地域住民は肌で感じ始めている。
医療スキャンの読影でAIが人間より正確だと証明された場合でも、81%は「AIと人間の両方の判断を組み合わせたい」と回答した。AIだけに任せたいのは3%に過ぎない。正確さが証明されてもなお「人間の目」を求めるこの感覚が、現在の信頼の欠如を端的に物語っている。
規制の空白と透明性の不在
不信の根は、技術そのものだけでなく、その背後にいる人間にも向いている。
企業がAI利用について十分に透明でないと答えた人は76%。政府のAI規制が不十分だと感じている人は74%に上り、前年の69%からさらに上昇した。テクノロジーそのものの不完全さだけでなく、それを推進する側の不誠実さが、不信を増幅させている構図だ。
象徴的なのが「AI開発は自分の利益を代表する人々に率いられているか」という問いへの回答だ。「代表している」と答えた人はわずか5%。47%が明確に否定し、46%は「判断するだけの知識がない」と答えた。つまり、AIの恩恵を信じている人よりも、AI開発の方向性を理解すらできないと感じている人の方が圧倒的に多い。
トランプ政権が3月20日に公表したAI政策フレームワークは、州レベルの規制を抑制し、企業側の自主規制を重視する「ライトタッチ」路線を打ち出した。しかし調査が示すのは、アメリカ国民の多数が求めているのはその逆——より強い規制と、より高い透明性だ。
政治広告におけるAI生成画像・音声についても、45%が「使用の開示を義務付けるべき」、38%が「全面禁止すべき」と回答。規制不要と考える人は11%にとどまった。
ジャイスワル准教授は調査結果をこう総括した。「アメリカ人はAIを全否定しているわけではない。しかし警告を発している。不確実性が大きすぎる。信頼が少なすぎる。規制が少なすぎる。雇用への恐怖が大きすぎる」
依存と不信の間で
この調査が描き出すのは、「嫌いだけど手放せない」関係に入りつつある社会の姿だ。
AIを使う人が増えれば、信頼も追いかけるように上がる——テック業界が前提としてきたこの楽観論は、少なくとも今のアメリカでは成り立っていない。利用が広がるほど、かえって不信が深まるという逆のダイナミクスが起きている。
これはAI技術そのものの問題であると同時に、AI企業のコミュニケーションの失敗でもある。利便性を売りながら、リスクを十分に説明せず、事故が起きれば後手に回る。その繰り返しが、数字となって表れた。
1年後、この数字がどちらに振れているかで、AIと社会の関係の行方が見えてくる。
参照元
#AI #世論調査 #雇用 #AIデータセンター #クイニピアック大学 #Z世代 #AI規制 #AI信頼
