AMD「RDNA 4m」が3つに増えた──GFX1171・GFX1172が示すZen 6 APUの輪郭
AMDの次世代APU向けGPUアーキテクチャ「RDNA 4m」に、新たなターゲットが2つ追加された。3種類のGPU IDが意味するのは、単なるバリエーション展開ではないかもしれない。
AMDの次世代APU向けGPUアーキテクチャ「RDNA 4m」に、新たなターゲットが2つ追加された。3種類のGPU IDが意味するのは、単なるバリエーション展開ではないかもしれない。
RDNA 4mファミリーにGFX1171とGFX1172が追加
AMDのオープンソースコンパイラ基盤であるLLVMに、GFX1171とGFX1172という2つの新しいGPUターゲットが追加されている。Linux専門メディアPhoronixがLLVMの保留中のプルリクエストを報じたもので、どちらも既存のGFX1170と同じ「RDNA 4m」セクションの下に配置されている。
注目すべきは、3つのターゲットが現時点で同一のコードパスとISAを共有していることだ。機能的な差異はドキュメント上に一切記載されていない。にもかかわらず、AMDがわざわざ別々のターゲットIDを振っているのは、将来的に異なるシリコンや構成を想定しているからだろう。
過去のRDNA世代を振り返れば、この動きは珍しくない。RDNA 3ではGFX1100からGFX1103まで4つのターゲットが定義され、それぞれがNavi 31、Navi 32、Navi 33、そしてAPU向けのPhoenixに対応した。今回も同様に、複数の製品バリアントへの布石と見るのが自然だ。
Phoronixは、RDNA 4mがMedusa Point APU向けだけでなく、GFX117xターゲットの増加によって他の製品にも広がる可能性を指摘している。
GitHubに投稿されたプルリクエスト #187735では、20のファイルが変更されており、Clang、LLVMバックエンド、テストケースに至るまで網羅的な追加が行われている。単なる実験的な追加ではなく、本格的な有効化作業であることが読み取れる。
「RDNA 4m」とは何か──GFX11なのにRDNA 4を名乗る理由
RDNA 4mの最大の特異性は、その命名にある。AMDのGPUアーキテクチャでは、RDNA 3がGFX11ファミリー、RDNA 4がGFX12ファミリーに対応する。GFX1170〜1172はGFX11の一員でありながら、「RDNA 4m」というブランドを冠している。
この矛盾には技術的な裏付けがある。2月にGFX1170が最初に追加されて以降、VideoCardz.comが報じた後続パッチでは、RDNA 4由来の重要な機能が段階的に移植されていることが明らかになった。具体的には、FP8/BF8データフォーマットへの変換サポート、WMMA(Wave Matrix Multiply-Accumulate)命令、SWMMAC命令といった、AI・機械学習ワークロード向けの行列演算機能だ。
これらはまさにRDNA 4(GFX12)のディスクリートGPUで採用されている機能群であり、AMDのMLベースアップスケーラー「FSR 4」の動作に不可欠な要素でもある。つまりRDNA 4mは、RDNA 3.5のベースアーキテクチャにRDNA 4の「頭脳」を移植したハイブリッドだ。
FP8(8ビット浮動小数点)は、ニューラルネットワークの推論を低精度で高速に実行するためのデータ形式。RDNA 4でネイティブサポートされ、FSR 4の画質向上に直結する技術だ。
正直なところ、「RDNA 3.5+」でも「RDNA 3.75」でもなく 「RDNA 4m」 と名付けたAMDのマーケティング判断には、したたかさを感じる。消費者に対して「RDNA 4の血を引いている」と印象づけたいのだろう。
Medusa Point APUの全体像──Zen 6世代の布石
RDNA 4mの搭載先として最も有力視されているのが、AMDの次世代モバイルAPU「Medusa Point」だ。Zen 6アーキテクチャを採用し、2027年の投入が見込まれている。
出荷マニフェスト情報などを総合すると、Medusa Pointの主力構成はRyzen 5/7クラスで、4つのクラシックZen 6コア、4つの高密度Zen 6cコア、2つの低消費電力コアという合計10コアのハイブリッド構成になる。統合GPUはRDNA 4mベースで8CU。現行のStrix Point(RDNA 3.5、最大16CU)からCU数は半減するが、FSR 4対応という武器を手にすることになる。
上位のRyzen 9クラスでは、デスクトップ向けと共通の12コアCCDを追加したMCM(マルチチップモジュール)構成で最大22コアという噂もある。一方、さらに上のMedusa HaloはRDNA 5とLPDDR6メモリを搭載し、真の世代交代を担う。
つまりAMDのGPU戦略は明確に二分されている。メインストリームのMedusa PointにはRDNA 4mで 「FSR 4が動く最低限」 を確保し、ハイエンドのMedusa HaloにはRDNA 5で本格的な性能向上を届ける。
AMD adds RDNA 4M GPU targets “GFX1171” and “GFX1172,” hinting at next-gen Zen 6 APU graphics.https://t.co/P0P8rWcPhY
— Wccftech (@wccftech) March 24, 2026
3つのGFX117xターゲットが存在する理由としては、TDP帯ごとの最適化(28W vs 45W)、CU数の違い、あるいはSoC統合の形態差が考えられる。ただし、AMDはGFX1170、GFX1171、GFX1172のいずれについても、出荷製品との紐付けを公式には認めていない。
FSR 4対応の意味──8CUでも戦える理由
Medusa Pointの統合GPUが8CUにとどまるという情報は、一見すると後退に映る。だが、FSR 4への対応は、この「少ないCU」を補って余りある可能性を持つ。
FSR 4はAMDがRDNA 4アーキテクチャと同時に発表したMLベースのアップスケーラーで、従来のFSR 3.1から画質が大幅に向上している。公式にはRDNA 4のFP8命令セットが必須とされているが、RDNA 4mがまさにそのFP8をサポートすることで、APUでもFSR 4が動作する道が開ける。
これはモバイルゲーミング市場、とりわけ携帯型ゲーム機で大きな意味を持つ。IntelのPanther LakeはXeSS 3によるAIマルチフレーム生成を統合GPUで実現しており、AMDが統合GPUでFSR 4に対応できなければ競争力を失う。
8CUという控えめなスペックでも、FSR 4の補正能力があれば実用的なゲーミング体験を維持できるかもしれない。
ただし注意点がある。現在コミュニティが非公式にRDNA 2/3向けに動作させているFSR 4はINT8版であり、FP8版とは低解像度での画質に差がある。RDNA 4mのFP8ネイティブ対応は、この品質差を解消する正規ルートとなる。
3つのターゲットが問いかけるもの
GFX1170が1つだけなら「Medusa Point用のiGPU」で話は終わった。だが3つに増えたことで、AMDのRDNA 4m戦略は単純なAPU向けの域を超えている可能性が浮上する。
組み込み向けSoC、ゲーム専用デバイス、あるいはサーバー向けの軽量GPU──現時点では推測の域を出ないが、AMDが3つの異なるシリコンに別々のターゲットIDを割り当てているのは事実だ。LLVMのコードは嘘をつかない。
RDNA 4mは、「世代」という概念が曖昧になりつつあるGPU業界の現実を映し出している。GFX11でありながらRDNA 4を名乗り、FSR 4を動かす。きれいな世代交代よりも、必要な機能を必要な場所に届ける実利主義。AMDがそれを「4m」という名前に込めたのだとしたら、なかなか正直なネーミングだと思う。
#AMD #RDNA4m #MedusaPoint #Zen6 #FSR4 #GPU #情報の灯台