Androidスマホがゲーミング携帯機を脅かし始めた日
スマートフォンでPCゲームが動く──クラウドでもストリーミングでもなく、端末の中で。その「いつか来る未来」が、想像より早く目の前に現れている。
Snapdragon 8 Elite Gen 5搭載スマホでAAA級PCタイトルが動作
YouTubeチャンネルETA Primeが公開した新たなデモ映像が、モバイルPC エミュレーションの現在地を鮮やかに示している。使用されたのはRed Magic 11 Pro Golden Saga Edition。Snapdragon 8 Elite Gen 5に24GBのLPDDR5Tメモリ、1TBのUFS 4.1 Proストレージを搭載した、nubia(ヌビア)のゲーミングスマートフォンの特別仕様モデルだ。





ETA Prime
注目すべきは、これがクラウドゲーミングでもPCからのストリーミングでもないという点にある。GameSir製のエミュレーションプラットフォーム「GameHub」を使い、Windowsゲームをスマートフォン上でローカル実行している。GameHubの内部では、ValveがLinux向けに開発した互換レイヤー「Proton」の技術が活用されており、x86命令をARMアーキテクチャに変換する仕組みだ。
Steam Deckを動かしているのと同じProton技術が、いまやポケットの中のスマートフォンでPCゲームを走らせている。
つまりこれは、Steam Deckと同じ思想の技術がAndroidに降りてきた、という話でもある。
各タイトルの実測パフォーマンス
実際のフレームレートは、ゲームによって大きく異なる。それが逆に、現時点の実力と限界の両方を正直に映し出している。
Grand Theft Auto Vは720p設定で屋内最大100FPS、市街地走行時でも60FPS台半ばを維持した。2013年発売のタイトルとはいえ、スマートフォン上のエミュレーションでこの数字が出ること自体が異例だ。
Red Dead Redemption 2は、ハイテクスチャ・その他ロー設定・FSR無効の条件で、平均40FPS台後半。屋内シーンでは60FPSに達する場面もあったという。Project Cars 2は720p・ミディアム設定で60FPS以上を記録している。
Cyberpunk 2077は720pロー設定+FSRフレーム生成有効で60FPS超を達成。フレーム生成なしでも30FPSロックが可能だとETA Primeは述べている。
2020年の発売時にはPS4やXbox Oneですらまともに動かなかったタイトルが、いまスマートフォンの画面上で60FPSを叩き出している。技術の進歩速度に対する認識を、少し修正する必要があるかもしれない。
まだ「完璧」ではない
一方で、限界も明確に見えた。Ghost of TsushimaではFSRフレーム生成が機能せず、あるResident Evilタイトルでは壁が消失するレンダリングエラーが発生。60FPS以上で動作していたにもかかわらず、だ。
さらにETA Primeによれば、一部のゲームでは端末の消費電力が30〜40W以上に達するという。これはもはやスマートフォンの消費電力ではなく、ゲーミング携帯機の領域だ。Golden Saga Editionが搭載する金メッキ仕様のベイパーチャンバーと2万4,000RPMの冷却ファンは、こうした負荷に耐えるために存在している。
「PCゲームが動くスマホ」の代償
ここで現実的な話をしよう。このRed Magic 11 Pro Golden Saga Editionの価格は、欧州で1,499ユーロ(約27万6,000円)、米国で1,599ドル(約25万5,000円)だ。日本では未発売だが、通常版のRed Magic 11 Pro(24GB+1TB)は日本公式サイトで19万2,800円で販売されている。
正直なところ、この金額があればミドルクラスのゲーミングPCが組める。あるいはSteam Deckを2台買ってもおつりがくる。PCエミュレーションのためだけにこの端末を買う人は、おそらくいないだろう。
だが、そこは本質ではない。
2月にはETA Primeが通常版のRed Magic 11 Pro(16GB RAM)でCyberpunk 2077を30FPSで動作させて話題になった。わずか数週間後の今回、24GB RAM搭載の上位モデルで60FPS超に到達している。進化の速度そのものが、このエミュレーション技術の本質を物語っている。
重要なのは、ARM上でのx86エミュレーションがここまで実用的な水準に到達したという事実だ。ValveがAndroid向けPCエミュレータのスポンサーを務めていること、GameHubのようなアプリがGoogle Play Storeから簡単にインストールできること。この二つが揃った結果、「PCゲームをスマホで遊ぶ」という選択肢が、技術デモから日常の可能性へと移行しつつある。
ゲーミング携帯機市場への静かな圧力
この話が面白いのは、スマートフォンの話で完結しないからだ。
Steam Deck、ROG Ally、Legion Goといったゲーミング携帯機は、いずれもx86プロセッサでWindowsまたはSteamOSを動かしている。そのアドバンテージは「PCゲームがネイティブで動く」という互換性だった。
しかしARMチップ上のエミュレーションがこのペースで進化し続ければ、その優位性は徐々に薄れていく。Qualcommの次世代チップがさらに性能を上げ、Proton系の互換レイヤーが最適化を重ねれば、ゲーミング携帯機を買わずに手持ちのスマホで済ませるという選択が現実味を帯びてくる。
もちろん、操作性、冷却、バッテリー持続時間など、専用機の優位は依然として大きい。だがかつて「スマホではPCゲームなど動かない」と断言できた時代は、静かに終わりを告げようとしている。
半年後にこの記事を読み返したとき、ここで語った「可能性」が「当たり前」に変わっていても、驚くべきではないのかもしれない。
参照元
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