Apple50周年 クックが語ったジョブズの影とトランプとの賭け

ティム・クックがEsquireに語った言葉は、祝祭の喧騒とはまったく別の温度を持っていた。

Apple50周年 クックが語ったジョブズの影とトランプとの賭け

ティム・クックがEsquireに語った言葉は、祝祭の喧騒とはまったく別の温度を持っていた。


「間違いなく、まだジョブズの会社だ」

創業50周年を迎えたAppleのCEOが口を開くとき、最初に出てきたのは製品でも株価でも関税でもなかった。

「ここ数ヶ月、50周年のことを考えるたびに、これまで以上に彼のことを思い出す」。クックはEsquireのインタビューでそう語っている。「彼が信じていたことを、改めて考える。シンプルであること。複雑さを嫌うこと。少数の人間が集まれば、個人の能力をはるかに超えるものが生まれるという確信」。

CEOに就任して14年以上が経つ。その間、Appleの時価総額は1.5倍以上になり、Apple Siliconへの自社チップ移行という30年越しのジョブズの夢さえ実現させた。それでもクックは「ジョブズの会社だ」と言う。これは謙遜ではなく、事実の宣言に聞こえる。

クックはジョブズが亡くなった日のことを詳しく語っている。「あの時点では、まだ彼が戻ってくると信じていた。何度も回復するところを見てきたから、またそうなると思い込んでいた。CEO就任のわずか6週間前、彼はずっと会長を務め続けると思っていた。振り返れば、誰でもそう思わないだろうと言うかもしれない。でも、あの瞬間の私はそういう回路をしていたんだ」。

ジョブズを「1,000年に一人の人間」と表現したのも、この取材の中だ。その言葉の重みは、単なる追悼ではない。ジョブズ亡き後もAppleが世界で最も精密な製品を作り続けているという自負と、それがいかに困難かという理解が、同時に込められている。


「批判者は重要ではない」──トランプへの接近を問われて

50周年インタビューが必ず通過しなければならない問いがある。クックとトランプ政権の関係だ。

就任式への100万ドル寄付、大統領執務室でのApple製品贈呈セレモニー、「メラニア」ドキュメンタリー試写会への出席——Appleのユーザーの中には、プライバシーや多様性を掲げてきたAppleと、それらを軽視するように見える政権との距離感に、違和感を覚える層がいる。

記者がその問いをぶつけると、クックは少し間を置いてから答えた。「トランプ政権は非常に話しやすい。意見が通らないこともある。でも、関与できる。声を届けられる。世界中どこの政府でも同じだが、関与しなければ理解できないし、影響も持てない」。

そして会議室の壁に貼ってあると言うセオドア・ルーズベルトの言葉を引いた。

「批判者は重要ではない」。クックが会議室に飾っている引用句だという。「土俵の外でプラスかマイナスかと叫び続けることが良い戦略だとは、一度も思ったことがない。あなたの声は風に消えるだけだ」。

「価値観は変わったのか」と問われると、クックは即答している。「ええ、まったく同じです。入社した日から変わっていない」。プライバシーは基本的人権だという信念、アクセシビリティ、教育、環境への責任——これらは「揺らぐことのない軌道」だと述べた。

価値観を保ちながら、異なる価値観を持つ権力者とも関与し続ける。その両立が正しいのか、それとも自己欺瞞なのか。クックの答えは聞き手に判断を委ねる形になっていて、それ自体がひとつの答えのように見える。


6,000億ドルの算盤と、関税33億ドルの現実

戦略家としてのクックは、この局面でAppleに何をもたらしたのか。

2025年8月、クックはホワイトハウスで米国内製造業への追加1,000億ドル投資を発表した。これによりAppleの米国製造投資の累計は6,000億ドル(約95兆4,000億円)に達した。その場では、コーニング社が世界中のiPhoneとApple Watchのフロントガラスとバックガラスのすべてをケンタッキー州ハロッズバーグ工場で生産するという新たな25億ドルの契約も発表されている。

その成果のひとつとして、一部の電子機器は対中関税の対象外となり、Appleの競争上の地位は一定程度守られた。しかし現実は単純ではない。Appleはすでに関税として33億ドル以上を支払っており、これを無効にした連邦最高裁判決の行方次第で、回収できる可能性が出てきている。

クックはその件について「状況を注視して判断する」とのみ述べている。法廷戦略を明言しないこの言葉の裏に、どれだけの計算があるのか、外からは見えない。

関税リスクを「関与」によって管理しようとするこの姿勢は、果たして長期的に機能するのか。あるいは巨大企業が政権との関係を維持することのコスト——信頼、ブランド、価値観の整合性——が、いつかバランスシートに載ってくるのか。


「時価総額は追いかけない」という覚悟

Apple Parkの中庭で、クックは記者から市場価値について問われた。2023年に3兆ドルを突破し、現在は約3兆7,000億ドル。数字はすでに人間が直感で把握できる規模を超えている。

クックの答えは整理されていた。「時価総額を追いかけることに私は執着しない。ユーザーが製品を欲しいと思うことに駆動力を置いている。最高の製品と最高のサービスを作ることに全力を注げば、それを買いたい人が増える。その結果が株主へのリターンになり、次の投資になる」。

この発想の順番は、ジョブズが最も嫌っていた逆転——利益のために品質が犠牲になる構造——への意識的な抵抗だ。「製品が先、株価は後」。言葉にすれば単純に聞こえるが、3兆7,500億ドル企業のCEOがそれを維持し続けることの難しさは、言葉の外にある。

前の記事で触れたように、ジョブズはかつて「最高のコンピュータを作ることが第一で、利益は第二だった。いつの間にかその順番が逆転した」と警告していた。クックはその言葉を知っている。だから意識して、製品の話から始める。


50歳の代表作は、まだ完成していない

4月2日——50周年の翌日——Appleの幹部は「それが終われば、次の一日が始まるだけだ」と語ったと記事には記されている。アップルは過去を見る会社ではなく、未来を作る会社だという哲学の反映だ。

だがこの節目に明らかになったのは、Appleが単なるテック企業ではなく、ひとつの文化的な装置になっているということかもしれない。ジョブズという神話、クックという現実主義、地政学の波、AI競争の遅れと慎重さ——これらが50年という時間のなかで複雑に絡み合っている。

クックが50周年インタビューで最後に見せた笑みは、満足感ではなく、次の問いへの準備に見えた。

50歳のAppleは、まだ答えを出していない。


参照元

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