Artemis II宇宙船でOutlookが二重起動——NASAが月への旅でMicrosoftトラブル対応
月に向かう宇宙船の中でも、Microsoftのソフトウェアは壊れる。
月に向かう宇宙船の中でも、Microsoftのソフトウェアは壊れる。
▼動画でも解説しています。
宇宙でも逃げられないOutlookの呪い
2026年4月1日、NASAのArtemis IIが打ち上げから約半世紀ぶりに人類を月へと送り出した。コマンダーのリード・ワイズマン、パイロットのビクター・グローバー、ミッションスペシャリストのクリスティーナ・コッホ、そしてカナダ宇宙庁のジェレミー・ハンセン——4名を乗せたオリオン宇宙船は、歴史的な10日間の旅に出発した。

その機体の中で、Outlookが二重起動していた。
ライブストリームを視聴していた世界中の人々が、思わず笑いを堪えるような一幕が記録されている。打ち上げからおよそ13時間が経過した頃、ワイズマン船長はヒューストンのミッションコントロールに向けてこう告げた。「Outlookが2つある。しかもどちらも動いていない」と。
「いま宇宙船のコンピューターがMicrosoft Outlookを2つ起動していて、なぜかわからないと宇宙飛行士たちがヒューストンに問い合わせている。NASAがリモートでコンピューターに接続しようとしているところ」
— niki grayson(@nikigrayson.com)
right now the astronauts are calling houston because the computer on the spaceship is running two instances of microsoft outlook and they can't figure out why. nasa is about to remote into the computer
— niki grayson (@nikigrayson.com) 2026-04-02T06:06:53.835Z
「申し訳ないんだけど、月まで行った人たちがOutlookを使ってるの?」——Blueskyでこのクリップを拡散させたニキ・グレイソン氏の一言が、すべてを言い表していた。
NASAがリモートで宇宙船に接続した理由
ヒューストンは対応を約束し、リモートでPCD(パーソナル・コンピューティング・デバイス)に接続した。
PCDとは、宇宙船の主要な飛行システムとは別に搭載された、宇宙飛行士の「日常作業用PC」だ。フライトスケジュールの確認、地球との個人的な連絡、業務メールの送受信——そういった目的のために、市販ソフトウェア(COTS)が使われている。WindowsもOutlookも、そのCOTS(Commercial Off-The-Shelf)の一部として搭載されており、宇宙飛行士が月に向かっても使うツールはオフィスと大差ない。
放射線耐性を持つ専用ハードウェアと厳格に管理されたソフトウェアが飛行そのものを担っており、PCDはあくまで補助的な層だ。どれほど精密なシステムが宇宙船を動かしていても、日常の連絡手段はどこかありふれたものに頼らざるを得ない。月に向かいながら、Outlookが返信できない状態で。
対応から約1時間後、ミッションコントロールからの声が届いた。
「Outlookを開けることができました。オフラインと表示されますが、それは想定内です」
— Artemis IIカプコム(ミッションコントロール、打ち上げ約14時間後)
想定内のオフライン。Outlookを使ったことがある人なら、この言葉に深く共感できるはずだ。
Outlookだけじゃなかった——トイレも壊れていた
同じ日、もう一つのトラブルが重なっていた。
打ち上げから約2時間後、乗組員はトイレの故障を示す警告ランプが点滅していることをミッションコントロールに報告した。無重力環境では、尿排出ファンが尿をコンテナへと引き寄せる役割を担う。そのファンが詰まり、機能を停止していたのだ。止まると何が起きるかは、あえて説明するまでもない。
乗組員の一人がファンの詰まりを解消し、NASAも後にトイレの復旧を公式に確認した。Outlookが2つ起動してどちらも使えない状態になり、宇宙のトイレが壊れた。月を目指す宇宙船が、地球のオフィスと同じ種類のトラブルを抱えている——その滑稽さの裏に、有人宇宙飛行の現実がある。
Artemis IIの乗組員は、ヒューストンのミッションコントロールと密に連携し、近傍接近デモンストレーション後にオリオン宇宙船のトイレを正常な運用状態に復旧させることができた。
— NASA公式ブログ(2026年4月2日)
人類が月へ戻るとき、Outlookも一緒に行く
笑い話として終わらせるのは簡単だが、宇宙飛行士も人間だ。
スケジュールを確認し、家族にメールを送り、地上のチームと連絡を取る。その「人間的な部分」を支えるのがCOTSの役割でもある。どれほど高度なミッションであっても、日常の連絡手段はどこかありふれたものに頼らざるを得ない。それが、現代の有人宇宙飛行のリアルだ。
一つだけ確かなことがある。月に向かう宇宙船でOutlookが落ちたとき、ヒューストンはリモートで直してくれた。地球でも、同じくらい素早く直してほしいものだ。
