ASUS Zenbook、レビュー公開直後に最大350ドル値上げ──問われる価格発表の誠実さ

レビュワーが伝えた「お買い得」は、もう存在しない。ASUSがSnapdragon X2 Elite搭載ノートPCの価格を、発売当日に引き上げた。

ASUS Zenbook、レビュー公開直後に最大350ドル値上げ──問われる価格発表の誠実さ
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レビュワーが伝えた「お買い得」は、もう存在しない。ASUSSnapdragon X2 Elite搭載ノートPCの価格を、発売当日に引き上げた。


レビュー解禁の翌日に価格改定

QualcommSnapdragon X2 Eliteを搭載したASUS Zenbookシリーズが、発売直後に価格改定を受けている。Best Buyでの販売価格が100〜350ドル(約1万6,000〜5万6,000円)引き上げられた。

レビュー解禁日に公開された各メディアの記事には、すでに存在しない価格が記載されている。Tom's Hardwareはレビュー記事に編集注を追加し、約束された価格でレビューしたが発売日に実売価格が異なると知らされたと明記した。

ASUS Zenbook 価格変更一覧(2026年4月7日)
モデル 旧価格 新価格 差額 上昇率
Zenbook 14 $1,000 $1,350 +$350 +35%
Zenbook S16 $1,600 $1,900 +$300 +18.8%
Zenbook A14 $1,150 $1,350 +$200 +17.4%
Zenbook A16 $1,600 $1,700 +$100 +6.3%
Zenbook S14 $1,900 $2,000 +$100 +5.3%
旧価格=レビュワーに事前通知された価格、新価格=Best Buy実売価格。値上げ幅の大きい順にソート

価格変更の幅は機種によって異なる。Zenbook A16は1,600ドルから1,700ドルへ100ドル増。Zenbook A14は1,150ドルから1,350ドルへ200ドル増。Zenbook S16は1,600ドルから1,900ドルへ300ドル増。Zenbook S14は1,900ドルから2,000ドルへ100ドル増。そしてZenbook 14は1,000ドルから1,350ドルへ、実に35%もの値上げとなった。最も安価なエントリーモデルが、最も大きな打撃を受けた形だ。

1,000ドル帯のノートPCが一夜にして1,350ドルになる。予算を基準に製品を選ぶ消費者にとって、購入判断の前提そのものが崩れる事態だ。

レビュワーたちの困惑と怒り

カナダのテックYouTubeチャンネルHardware Canucksは、Xで怒りをあらわにした。

Snapdragon X2Eのレビュー結論が台無しだ。Best BuyとASUSが間違った価格を出していた」と投稿し、5機種すべての価格変更を列挙。コメント欄には皮肉が並んだ。「レビューが全部出た直後に彼らがそうするやり方が気に入っています。まったく怪しくありません」という声に、Hardware Canucks自身が「確かに」と返している。

Microsoft幹部のスティーブン・シノフスキーは、チップセットのコスト差や低ボリューム製品特有のコスト構造を指摘した。しかし公式な説明は一切出ていない。

別のユーザーは冷静に現実を突きつけた。「ベンチマークでほぼ全敗するA14が、MacBook Airより高くなるってこと?」──値上げ後の価格では、同価格帯の競合製品との比較が根本から変わる


「レビュー価格」という幻

問題の本質は、値上げ幅そのものではない。レビュワーに伝えられた価格と、消費者が実際に支払う価格が異なっていたことにある。

テックメディアは製品の価値を「性能÷価格」で判断する。1,000ドルなら許容できる妥協点が、1,350ドルでは欠点に変わる。Tom's Hardwareのレビューでは、値上げを受けてスコアは変えないがいくつかの機能への評価は下がると注記された。

VideoCardzの報道によれば、Hardware Canucksはレビュー掲載前に伝えられた価格に基づいて記事を作成したが、その後価格が変更されたと述べている。発売日当日の報道でさえ、数時間後には小売店の実売価格と一致しなくなっていた。

レビューを参考に購入を決めた消費者は、もう存在しない製品を評価した記事を読んでいたことになる。これはレビュー文化そのものへの信頼を損なう。

説明なき沈黙

ASUSからもQualcommからも、価格変更に関する公式な説明は出ていない。

考えられるシナリオはいくつかある。最初の価格が「仮」であり、正式な小売価格は後から決まる予定だった。あるいは、小売店側の判断で価格が変更された。メーカーとパートナーの間で価格に関するメッセージが正しく伝達されなかった可能性もある。

しかし、どのシナリオであっても説明責任は残る。レビュワーに事前に伝えた価格で消費者が購入できないなら、それは発表の手順に問題があったということだ。

値上げ後の価格帯では、Zenbook A14はAppleのMacBook Airと真っ向から競合する。M5チップ搭載のMacBook Airは多くのベンチマークでSnapdragon X2 Elite機を上回っており、「価格で勝負」できなくなったWindows on Armの立ち位置は急速に苦しくなる。

レビュー解禁と価格改定のタイミングが偶然重なったのか、それとも計算されたものだったのか。答えは出ていない。ただ、消費者の信頼を取り戻すには、沈黙ではなく説明が必要だ。次の製品発表で同じことが起きないと、誰が保証できるだろうか。


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