Bluesky新アプリ「Attie」が問う、AIとSNSの正しい距離感
「AIは人間の主体性を高めると同時に、脅かしてもいる」。この矛盾を正面から認めた分散型SNSが、あえてAIに賭けた。その真意は、既存プラットフォームへの静かな宣戦布告だった。
「AIは人間の主体性を高めると同時に、脅かしてもいる」。この矛盾を正面から認めた分散型SNSが、あえてAIに賭けた。その真意は、既存プラットフォームへの静かな宣戦布告だった。
反AIの聖地が、AIを作った理由
Blueskyのチームが、新しいスタンドアロンアプリ「Attie」(アティ)を発表している。AT Protocolの略称にちなんで名づけられたこのアプリは、Anthropicの「Claude」を基盤に構築されたエージェント型ソーシャルアプリだ。
発表の舞台は、2026年3月28日に開催されたAtmosphereカンファレンス。登壇したのは、今年3月にCEOを退任しCIO(最高イノベーション責任者)に転じたジェイ・グレイバーと、CTOのポール・フレイジーだった。
ここで見落とせない文脈がある。Blueskyは2023年のX(旧Twitter)大量離脱以降、アーティストやライターを中心としたAI懐疑派のユーザーが大量に流入したプラットフォームだ。AI肯定的な投稿が不人気になりやすい文化がすでに根づいている。そのBlueskyが「AIアプリ」を出すというのは、一種の賭けだ。
Bluesky側もこの摩擦は織り込み済みだろう。だからこそAttieはBluesky本体とは完全に独立した別アプリとして設計されており、使用は完全に任意だ。暫定CEOのトニ・シュナイダーは「Blueskyアプリの一部ではない。ジェイの新チームが作った初のスタンドアロン製品だ」と明言している。
要するに「嫌なら使わなくていい」を技術的に保証した構造だ。AI嫌いのユーザーベースを刺激せず、新しい価値を試す。その距離感の設計こそが、Attieの最初の設計判断といえる。
「会話するように、アルゴリズムを作る」
Attieの基本コンセプトは、自然言語でカスタムフィードを構築できるという点にある。コードは不要だ。
たとえば「私のネットワーク内で電子音楽や実験的サウンドの投稿を見せて」と打ち込めば、AIがAT Protocol上のデータを解析し、条件に合うフィードを自動生成する。Blueskyのアカウント(正確にはAtmosphereログイン)でサインインすれば、Attieはユーザーの過去の投稿や興味関心を即座に把握する。オープンなプロトコルだからこそ可能な芸当だ。
Blueskyは2023年からカスタムフィードをサポートしてきたが、構築にはコーディングの知識が事実上必要だった。Attieは、その技術的な壁を会話で溶かそうとしている。
「コードを書く必要も、フィードの設定方法を覚える必要もない。あなたがコントロールし、形作る」とシュナイダーは語る。将来的には、フィード構築にとどまらず、ユーザーが自分のソーシャルアプリをバイブコーディング(自然言語プログラミング)で作れるようにする計画もある。
正直なところ、「AIにフィードを作らせる」というだけなら、特別な話ではない。MetaもInstagramやFacebookでAIキュレーションを強化しているし、XやThreadsにもアルゴリズムフィードはある。
違いは「誰のために動くか」
では、Attieは何が違うのか。
グレイバーはブログ投稿でこう書いた。大手プラットフォームはAIをユーザーの滞在時間を延ばし、データを収穫し、ユーザーが検証も選択もできないシステムで彼らの見るもの・信じるものを形作るために使っている、と。そのうえで「AIは人々のために奉仕すべきであり、プラットフォームのためではない」と述べている。
これは理想論に聞こえるかもしれない。だが、技術的な裏付けがある。AT Protocolは設計段階から、ポータブルでユーザーが作成可能なアルゴリズムをサポートしている。フィードは共有・改変・再配布が可能なオブジェクトとして扱われる。Attieは、このオープンな基盤の上にAIという翻訳レイヤーを乗せた形だ。
MetaやXのAIフィードが「ブラックボックス」として機能し、ユーザーが中身を覗けないのとは、構造的に異なる。少なくとも思想としては。
重要なのは、Attieで作られたフィードは将来的にBlueskyだけでなく、AT Protocol上の他のアプリからもアクセス可能になるという点だ。フィードがプラットフォームに縛られない。
CEOを辞めた創業者が作りたかったもの
グレイバーがCEOを退いた背景にも触れておく必要がある。
シュナイダーによれば、グレイバーは「作りたいものがもっとあると気づいた。CEO業務に追われて、そこに時間を割けなかった」という。CEO退任とAttie開発の着手は、ほぼ同時期だった。
この動きは、Blueskyの組織的な意思表示でもある。プロトコルとプロダクトの設計者が経営から離れ、再びものづくりに専念する。暫定CEOには、WordPress.comの親会社AutomatticのCEOだったシュナイダーが就いた。
シュナイダーはAT Protocolの将来像をWordPressのエコシステムに重ねる。完全にオープンで、独立した分散型のパーツが相互に機能し合う。WordPressはそれで年間100億ドル以上が流通するエコシステムに成長した。Atmosphereにも同じ可能性を見ている、と。
1億ドルの意味と、まだ解けない方程式
Attieの発表と同じタイミングで、Blueskyは昨年クローズした資金調達ラウンドから1億ドル(約160億円)の追加資金を確保したことも明らかにした。シュナイダーは「3年以上のランウェイがある。エコシステム全体の安定性と安心感を意味する」と説明する。
現在のユーザー数は4340万人。ただし、マネタイズの方程式はまだ解けていない。
Attieが最終的に有料になるかどうかは未定だ。検討中の収益モデルとしては、サブスクリプションや、プロトコル上でコミュニティをホスティングしたい人向けのサービスが挙がっている。暗号資産の統合は、複数の暗号資産系投資家からの出資にもかかわらず、明確に否定された。シュナイダーは、これらの投資家が惹かれたのは暗号資産ではなく分散化という思想そのものだと説明している。
一方で、Blueskyにはもう一つの課題がある。プライバシー管理だ。AT Protocolはオープンデータを原則としているが、それはAttieがユーザーの興味関心を即座に読み取れるということでもある。
「オープンであること」はAttieの最大の強みであると同時に、プライバシーの観点では最大のリスクでもある。この両面をどう折り合わせるかが、Blueskyの次の試金石になる。
AIが「道具」にとどまれるかどうか
Attieはまだプライベートベータの段階であり、Atmosphereカンファレンスの参加者が最初のテスターとなっている。一般公開の時期は未定だが、ウェイトリストの登録は開始されている。
Blueskyの賭けは、一言で言えばこうだ。AIを「ユーザーをプラットフォームに縛りつける鎖」ではなく、「ユーザーが自分の体験を設計する道具」として提示できるか。

理念としては美しい。だが、AI嫌いのユーザーベースを抱えたまま、AIアプリで新しい価値を証明しなければならないという構図は、どこか綱渡りに似ている。「別アプリだから使わなくていい」というエクスキューズが、いつまで有効かはわからない。
それでも、一つだけ確かなことがある。ブラックボックスのアルゴリズムに振り回されることに、多くの人が疲れている。Attieが問いかけているのは、SNSとAIの「正しい距離感」は誰が決めるべきか、ということだ。その答えが「ユーザー自身」であるなら、このアプリには存在する意味がある。
参照元
他参照
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