EFFがXを去る、7年前の3%以下しか届かぬ場所で

プラットフォームに20年近く留まってきた電子フロンティア財団が、静かにログアウトした。残る者は、もう「戦いの場」ではなくなった場所で、何を守るのだろうか。

EFFがXを去る、7年前の3%以下しか届かぬ場所で

プラットフォームに20年近く留まってきた電子フロンティア財団が、静かにログアウトした。残る者は、もう「戦いの場」ではなくなった場所で、何を守るのだろうか。


20年目の退場

デジタル権利擁護団体として知られる電子フロンティア財団(EFF)が、X(旧Twitter)からの撤退を公式ブログで表明した。発表は2026年4月9日付、執筆はスタッフのケニヤッタ・トーマス氏だ。

20年近く使い続けてきたプラットフォームを去るという判断は、軽々しく下されたものではない。ただ、EFF自身の言葉を借りれば「遅すぎたのかもしれない」決断でもある。静かな退場だが、象徴としての重みがある。

デジタル権利運動の草分けが、言論の自由を掲げ直したはずのプラットフォームから、言論の自由を理由に去っていく。この皮肉を、どう受け止めるか。

数字が語る「静かな退潮」

EFFが示した数字は、Xというプラットフォームの現在地を明瞭に描き出している。

2018年、EFFは1日に5〜10回投稿し、月あたり5000万〜1億インプレッションを獲得していた。2024年には約2500本の投稿で月200万インプレッション。2025年は1500本の投稿で年間1300万インプレッションにとどまった。

数字だけを並べると実感が湧きにくいので、比率に直してみたい。現在のXにおける1投稿は、7年前の同団体の1ツイートが届けた閲覧数の3%にも満たない。97%以上が、どこかへ消えた。

もちろん、アルゴリズムの変化、表示仕様の変更、計測方法の差も影響する。しかし、97%という落差を方法論の違いだけで説明するのは無理がある。単純に、届かなくなっているのだ。投稿量を減らしても、インプレッションの減少幅はそれを大きく上回っている。投稿効率の崩壊と呼んで差し支えない。

「ゴーストタウン化」という言葉がかつてMySpaceやGoogle+に向けられた。Xは依然としてユーザー数こそ抱えているが、フォロワーに情報が届かないという意味では、その外形だけが残っている。

期待から失望へ、3つの要求

イーロン・マスク氏が2022年10月にTwitterを買収した直後、EFFは具体的な改善要求を公開していた。当時の論調は、敵対ではなく期待混じりの条件闘争だった。

求めたのは3点

内容はおおまかに次の3つに整理できる。透明性のあるコンテンツモデレーション、ダイレクトメッセージの真のエンドツーエンド暗号化を含む本物のセキュリティ改善、そしてフィルターや相互運用性を通じたユーザー側のコントロール権の拡張だ。

どれも、言論の自由を掲げるプラットフォームが本気で応じるならば、歓迎されるはずの提案だった。しかしEFFの総括は短い。期待した方向とは、逆に進んだのだ。

マスク氏は人権チームを解散させ、抑圧的な体制による検閲要求に過去会社が抵抗してきた国々のスタッフを解雇した。多くのユーザーが去った。今日、我々も彼らに加わる。

Twitterは決してユートピアではなかった、とEFFは繰り返し断っている。広告追跡の問題、DMの暗号化欠如、二要素認証番号の広告転用。批判の歴史はプラットフォームの歴史とほぼ同じだけある。

それでも去らなかったのは、ごくたまに、ユーザーの権利のために声を上げて戦う瞬間があったからだ。その瞬間が、もう訪れなくなった

「なぜFacebookとTikTokには残るのか」

興味深いのは、EFFがこの発表の中で自ら先回りして予想される批判に答えている点だ。見出しはそのまま「でもFacebookTikTokにはまだいるよね?」となっている。矛盾しているように見えることを、EFFは認める。

論理はこうだ。EFFが守ろうとしているのは、すでにフェディバースへ移住した意識の高い層ではなく、むしろ主流プラットフォームの「壁に囲まれた庭」の中に深く埋め込まれた人々である。守るべき相手がいる場所にこそ、留まる理由がある。

インスタグラムを頼りにする小規模事業者、TikTokで情報を広める中絶支援基金、オンライン空間だけが地域社会との接点になっている孤立した個人。これらの人々に届くためには、そこに居続けるしかない。

我々がFacebook、Instagram、YouTube、TikTokに存在するのは支持の表明ではない。我々が留まるのは、そのプラットフォームにいる人々にも情報にアクセスする権利があるからだ。

この割り切りはフェアだと思う。便利な「原則主義」ではなく、誰のためにそこにいるのか、という一点で判断している。Xを去るのも同じ論理で、そこにはもう守るべき到達可能性が残っていない、という判断だ。

象徴としての退場、そしてその先

EFFは移行先として、Bluesky、Mastodon、LinkedInInstagramTikTokFacebookYouTube、そして自前サイトeff.orgを挙げている。分散型SNSへの一本化ではなく、読者がいる場所すべてに分散する戦略だ。

一つの団体の退場それ自体が、プラットフォームの運命を決めるわけではない。しかし、20年近く続いた関係が終わるとき、そこには「相手がもう相手ではなくなった」という静かな宣告がある。

Xが失いつつあるのは、広告主でもユーザー数でもない。「ここで声を上げる意味がある」と信じる組織の信頼だ。そして一度失われた信頼は、アルゴリズムの微調整では戻ってこない。

技術プラットフォームは、インフラである前に、人間同士の合意でできている。合意が薄れれば、インフラは外形だけを残して役割を終える。EFFが見ているのは、その光景なのだろう。

20年分の数字がここまで落ちたとき、まだ「戦いの場」と呼べるかどうかは、言葉の問題ではなく算数の問題だ。


参照元

関連記事

Read more

フロリダ州司法長官、OpenAIとChatGPTの調査を開始。IPO目前の最大の足枷

フロリダ州司法長官、OpenAIとChatGPTの調査を開始。IPO目前の最大の足枷

OpenAIが評価額1兆ドル規模のIPOを視野に入れる中、フロリダ州がその足元に大きな石を投じた。狙われたのは技術ではなく、信頼の残高だ。 1兆ドルの手前で振り下ろされた司法の手 フロリダ州司法長官ジェームズ・ウスマイヤー氏が、4月9日にOpenAIおよびChatGPTへの正式な調査を開始している。Xに投稿された動画で自ら宣言し、召喚状(Subpoena)の発行も間近だと明言した。 タイミングが重い。OpenAIは評価額最大1兆ドル規模の新規株式公開(IPO)を準備している最中であり、今回の調査はその上場シナリオに直接のひびを入れかねない。投資家が最も嫌うのは、製品の不具合ではなく、規制当局のカレンダーに載ることだ。 ウスマイヤー氏が掲げた論点は3つある。国家安全保障、児童保護、そしてフロリダ州立大学(FSU)での銃乱射事件への関与疑惑。どれも単独で世論を動かす重さがあり、その3つが同時に積み上げられた形である。 中国共産党の手に渡るのか、という問い 動画の中でウスマイヤー氏は、OpenAIのデータとAI技術がアメリカの敵、たとえば中国共産党の手に渡る可能性への懸念を前