欧州人の8割が米中テック企業を信用せず──大規模調査が示すデータ不信の実態
欧州6カ国、約6700人への調査が突きつけた数字は、想像以上に辛辣だった。信じていないのは米中だけではない。自国の企業も、政府も、信頼されていない。
欧州6カ国、約6700人への調査が突きつけた数字は、想像以上に辛辣だった。信じていないのは米中だけではない。自国の企業も、政府も、信頼されていない。
84%と93%──信頼の壁
欧州のデータ不信が、数字として可視化された。POLITICOとbeBartletが調査会社Cluster17に委託したEuropean Pulse調査が、EU主要6カ国の市民感情を鮮明に映し出している。
調査はスペイン、ドイツ、フランス、イタリア、ポーランド、ベルギーの6カ国で2026年3月13日から21日にかけて実施され、6698人が回答した。結果はこうだ。米国テクノロジー企業に個人データを預けることを信用していないと答えた割合は約84%。中国テクノロジー企業に対しては93%が不信を示した。
ここまでなら「やはりそうか」で済むかもしれない。問題は、欧州自身のテクノロジー企業に対する信頼もわずか51%にとどまっていることだ。自国政府に至っては45%。つまり、欧州市民はデジタル空間において、誰のことも信じていない。
今回の調査は、欧州がAI、クラウド、通信といった領域で自前の技術基盤を育て、外国のテック大手への依存を減らそうとしている最中に公表された。
ドイツの拒絶、ポーランドの例外
国別の内訳を見ると、不信の温度差が地政学的な立ち位置をそのまま反映している。
最も不信感が強かったのはドイツだ。米国企業を信用しない割合は91%、中国企業に至っては98%。ほぼ全員が拒絶している計算になる。欧州最大の経済大国であり、個人情報保護への意識が歴史的に高い国の回答としては、ある意味で予想通りだろう。
対照的なのがポーランドだ。米国テクノロジー企業を信頼すると答えた割合が38%と6カ国中で最も高く、中国企業でも20%が信頼を示した。NATOとの安全保障関係を軸に米国を「保証人」と見る国民感情が、データの領域にまで滲み出ている。
ベルギーでは欧州企業への信頼が6カ国中最高の59%に達した。それでも「10人中6人が信じている」程度に過ぎない。
| ドイツ | ポーランド | |
|---|---|---|
| 米国テック | 91% | 62% |
| 中国テック | 98% | 80% |
不信の底にあるもの
この数字は単なるプライバシー意識の話ではない。同じEuropean Pulse調査の別の設問では、EU主要6カ国の回答者のうち米国を「緊密な同盟国」と見なしたのはわずか12%だった。36%が米国の政策を「脅威になりうる」と回答し、中国を脅威と感じる29%を上回っている。
スペインでは51%が米国を脅威と呼び、イタリアではほぼ2人に1人が同様の回答をした。ポーランドだけが例外で、米国を脅威と見たのは13%にとどまった。
データ不信は、地政学的な不信と地続きなのだ。
「1時間でEUを止められる」
この不信には、構造的な裏付けがある。フィンランドの欧州議会議員アウラ・サッラは、2026年1月のEU Open Source Policy Summitでこう発言した。「EUはMicrosoftの上で動いている。米国は1時間で我々を停止させられる」。
これは誇張ではない。欧州のクラウドサービス市場の約65%を、わずか3社の米国企業が占めている。公的機関のメールシステム、文書管理、行政サービスの基盤がMicrosoft 365に依存し、ソフトウェア開発のサプライチェーンはGitHubを経由している。Eclipse Foundationのマイク・ミリンコヴィッチは、MicrosoftがOffice 365だけでなくGitHubも握っていることを指摘し、「欧州のほぼすべての企業と組織がGitHubからコードを取得している」と述べた。
Protonが2026年3月に英国・ドイツ・フランスの3000人を対象に実施した別の調査でも、73%が「自国の社会は米国テクノロジー企業に依存しすぎている」と回答。そのうち83%がこの依存に懸念を示している。
依存を認識し、不信を表明し、それでも代替がない。これが欧州のデジタル現実だ。
欧州の処方箋──デジタル主権という理想
欧州は手をこまねいているわけではない。2025年11月にはフランスとドイツが「欧州デジタル主権サミット」を共催し、AI・データ・公共インフラの3領域で共同タスクフォースを立ち上げた。EUはクラウド・AI開発法(CADA)の策定を進めており、非EU企業のクラウドサービスに対する新たな適格要件が導入される見通しだ。
GDPRは依然として欧州のデータ保護の柱であり、欧州市民のデータを扱うすべての企業に適用される。だが、米国や中国に拠点を置くテクノロジー企業は同時に自国の安全保障法にも従わなければならない。当局がデータの提出を命じることができるという構造的な問題は、法律だけでは解決できない。
AWSは2026年1月にドイツで「European Sovereign Cloud」を稼働させた。物理的・論理的に他のAWSリージョンから分離された環境で、2040年までに78億ユーロ(約1兆4500億円)の投資が予定されている。しかし運営母体は依然として米国企業だ。
ドイツのシュレスヴィヒ=ホルシュタイン州がMicrosoft Exchange ServerとOutlookからOpen-XchangeとMozilla Thunderbirdへの移行を完了し、州の担当大臣が「我々は自由だ。今度はみんなが続くべきだ」と宣言したのは象徴的な事例だが、EU全体で同じことをやるには年月がかかる。
信頼の空白地帯
今回の調査が突きつけた本質的な問題は、「米中を信じられない」ことだけではない。欧州企業への信頼が51%、自国政府が45%という数字が意味するのは、デジタル空間における信頼の「受け皿」が欧州の内部にすら存在していないということだ。
デジタル主権を掲げても、市民がその主権の担い手を信頼していなければ、移行のインセンティブは生まれにくい。ここにあるのは「誰も信じられない」という、政策では埋めにくい空白だ。
米中のテクノロジー企業が信用されないのは、ある意味で自然なことかもしれない。だが自分たちの企業も政府も信じられないとなれば、それはもはやプライバシーの問題ではなく、デジタル社会そのものへの不信だ。
技術的な代替は作れる。法的な枠組みも整えられる。しかし、信頼は法律では作れない。6698人の回答が映し出しているのは、欧州が直面している最も厄介な課題──信頼の再構築には、コードを書くよりもはるかに長い時間がかかるという事実だろう。
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