Exabox予約開始、約16億円コンテナ型AIスパコンの正体
20フィートのコンテナに1エクサフロップスを詰め込んだAIマシンが、予約受付を開始した。必要なのは、コンクリートの基礎と1メガワットの電力。そして約16億円の予算だ。
20フィートのコンテナに1エクサフロップスを詰め込んだAIマシンが、予約受付を開始した。必要なのは、コンクリートの基礎と1メガワットの電力。そして約16億円の予算だ。
コンテナに収まるスーパーコンピュータ
ジョージ・ホッツ率いるTiny Corpが、AI訓練用スーパーコンピュータ「Exabox」の予約受付を開始した。MITライセンスのニューラルネットワークフレームワーク「tinygrad」を開発し、AMD GPU向けに独自のソフトウェアスタックを構築してきた同社にとって、これは過去最大の賭けだ。
https://tinycorp.myshopify.com/products/exabox-preorder
本体価格は約1000万ドル(約16億円)。予約には10万ドル(約1600万円)の返金可能なデポジットが必要で、これは購入価格の約1%にあたる。出荷は2027年の第2〜第3四半期を目指している。
Exaboxは20フィートの輸送コンテナ内に構築される自己完結型のAIクラスターだ。冷却と耐候性を内蔵し、設置に必要なのはコンクリートスラブと208V/415Vの三相電源のみとされる。
コンテナひとつでAI訓練基盤が手に入る——構想は魅力的だが、電源容量だけで600kW、冷却込みの総電力は製品ページによれば約1メガワット。中小規模のデータセンター1棟分の電力を、駐車場に設置する計算になる。
720基のGPUが「1つ」になる仕組み
公開されたスペックは圧倒的だ。搭載GPUはAMD RDNA5 AT0 XLが720基。FP16演算性能は約1エクサフロップスに達し、GPU RAMは合計2万5920GB、メモリ帯域は1244TB/s。CPUはAMD EPYC GENOAを120基搭載し、システム全体で2万3040GBのRAMを持つ。
| red v2 | green v2 blackwell | exabox | |
|---|---|---|---|
| GPU | 4x 9070XT | 4x RTX PRO 6000 Blackwell | 720x RDNA5 AT0 XL |
| FP16性能 | 778 TFLOPS | 3,086 TFLOPS | ~1 EXAFLOP |
| GPU RAM | 64GB | 384GB | 25,920GB |
| RAM帯域 | 2,560GB/s | 7,168GB/s | 1,244TB/s |
| CPU | 32c AMD EPYC | 32c AMD GENOA | 120x 32c GENOA |
| メモリ | 128GB | 192GB | 23,040GB |
| ストレージ | 2TB NVMe | 4TB RAID +1TB | 480TB RAID |
| 電源 | 1,600W | 3,200W | 600kW |
| 価格 | $12,000 | $65,000 | ~$10M |
| 出荷 | 在庫あり | 受注生産 | 2027年予定 |
ただし注意が必要だ。RDNA5 AT0 XLというGPUは、AMD自身がまだ正式に発表していない。リーク情報では2027年中盤の登場が見込まれるが、スペックは流動的だ。Tiny Corp自身も製品ページで「ハードウェアの詳細はまだ最終決定していない」と明記している。つまりExaboxのスペック表は、未発表のGPUを前提にした青写真だ。
tinygrad経由でこの720基のGPUクラスターを「単一の巨大GPU」として扱える、とTiny Corpは主張する。Pythonノートブックから直接制御でき、PyTorchにも対応。50%のMFU(モデルFLOPS利用率)で、3×10²⁴規模——Moonshot AIの「Kimi」クラスの大規模モデル——の訓練を約10週間で完了できると謳っている。
全体が400Gbps以上で接続され、1台のユニットとして訓練が可能。tinygrad上では1つの巨大GPUとして機能するが、中身は通常のコンピュータの集合体であり、PyTorchも使える。これがTiny Corpの説明だ。
聞こえはいいが、400Gbps接続で720ノードを束ねる分散学習は、通信オーバーヘッドから故障耐性まで課題の山だ。ソフトウェアで物理的な限界をどこまで超えられるかが、このマシンの価値を左右する。
「ペタフロップの日用品化」という野望
Tiny Corpの企業ミッションは「ペタフロップの日用品化」だ。1万2000ドル(約191万円)のtinybox red v2から、6万5000ドル(約1037万円)のtinybox green v2 blackwellまで、段階的にラインナップを拡充してきた。Exaboxはその延長線上にある頂点だ。
ジョージ・ホッツといえば、初代iPhoneの脱獄やPlayStation 3のハッキングで名を馳せたハッカーだ。自動運転のcomma.aiを創業後、2023年にTiny Corpを設立。NVIDIAのCUDA支配に真正面から挑み、AMDのROCmスタックに不満を抱いて独自の完全主権型ドライバスタックを約1万2000行のコードで構築した。
その反骨精神は一貫している。だが、1万2000ドルのワークステーションと1000万ドルのスーパーコンピュータでは、求められる信頼性の次元が違う。
Exaboxは「red」(AMD GPU)と「green」(NVIDIA GPU)の両モデルが用意される予定で、FLOPS/$・GB/$・GB/s/$のすべてにおいて同価格帯最高のコスパを実現するとTiny Corpは主張している。
1600万円のデポジットに見合うリスクとリターン
冷静に整理しよう。NVIDIAのDGX SuperPODは構成次第で700万〜6000万ドルとされるが、Exaboxが謳う1エクサフロップスに匹敵する規模を組めばさらに高額になる。1000万ドルという価格設定は、額面だけ見れば破格だ。
一方で、不確定要素は少なくない。搭載GPUのRDNA5 AT0 XLが予定通り量産されるか。720基のGPUクラスターを安定運用できるか。1メガワットの電力を供給できる設置先がどれだけ存在するか。そしてtinygradの分散学習ソフトウェアが、この規模で本当に機能するのか。
デポジットが全額返金可能である点は、Tiny Corpなりの誠実さだろう。裏を返せば、まだ「賭け」の段階であることを自覚しているということでもある。
10万ドルのデポジットが「先見の明」だったのか「高い勉強代」だったのか。答えが出るのは、2027年だ。
参照元
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