富士通が1.4nm NPUをRapidusで製造へ──日本半導体の「本気」が試される

設計から製造まで、すべて日本国内で完結するAI半導体が動き出した。その野心の裏には、まだ誰も越えたことのない壁がある。

富士通が1.4nm NPUをRapidusで製造へ──日本半導体の「本気」が試される
Rapidus

設計から製造まで、すべて日本国内で完結するAI半導体が動き出した。その野心の裏には、まだ誰も越えたことのない壁がある。


富士通が踏み込んだ「完全国産」という選択肢

富士通がAI処理に特化した半導体NPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)の開発に乗り出している。サーバーおよび関連システム向けで、製造プロセスは最先端の1.4ナノメートル。そして製造はRapidusに委託される。

Japan’s Most Ambitious Chip Project Surfaces as Fujitsu Pairs With Rapidus to Build One of the World’s First 1.4nm Chips
Japan’s semiconductor ambitions have surged in the past few years, and Fujitsu, intends to partner with Rapidus to build cutting-edge tech.

日経アジアが2026年3月31日に報じたこの計画の核心は、開発から生産まで完全に日本国内で行われるという一点にある。

富士通にはTSMCという実績ある選択肢があった。実際、現行のデータセンター向けCPU「FUJITSU-MONAKA」はTSMCの2nmプロセスで製造される予定だ。それでも、次世代のNPUではRapidusを選んだ。

経済安全保障を背景に、日本は半導体の国内回帰を加速させている。富士通の決断は、その流れを象徴する一手と言える。

この選択は単なる技術的判断ではない。地政学と産業政策が交差する場所に、富士通は自らを置いた。

MONAKA-Xが描くロードマップ

富士通のプロセッサ戦略は、段階的に進化する設計になっている。2027年に市場投入予定のFUJITSU-MONAKAは、Armv9-Aアーキテクチャを採用した144コアのデータセンター向けCPUだ。4つの36コア・コンピュートダイをTSMC2nmプロセスで製造し、5nmのSRAMダイと3D積層するチップレット構成を採る。

その後継となるFUJITSU-MONAKA-Xが、今回の1.4nm NPUの基盤技術となる。2025年11月のSC25で富士通が公開した情報によれば、MONAKA-Xは次世代の3Dメニーコア・アーキテクチャと1.4nmプロセスを採用し、HPCワークロード向けにはSIMD拡張で高速化、AI処理向けにはArmSME2(Scalable Matrix Extension 2)をサーバー向けArmプロセッサとして初めて実装する。

項目 MONAKA MONAKA-X
プロセス 2nm 1.4nm
製造 TSMC Rapidus
命令拡張 SVE2 SME2(初搭載)
コア数 144(4×36) 未公開
構造 3D(2nm+5nm) 次世代3D
NPU 統合
実用化 2027年 2029年
用途 DC / HPC 富岳NEXT / DC

※ MONAKAは富士通公式発表・SC25公開資料に基づく。MONAKA-Xは富士通SC25発表および日経アジア(2026年3月31日)報道に基づく。SVE2=Scalable Vector Extension 2、SME2=Scalable Matrix Extension 2

2029年の実用化を目指すMONAKA-Xは、理研・NVIDIA・富士通が共同開発する次世代スパコン「富岳NEXT」の心臓部にもなる。富岳NEXTは現行の富岳比で100倍の性能を目標に、2030年頃の稼働を予定している。一つのプロセッサ設計がスパコンとデータセンターの両方に展開される構想であり、富士通が狙うのはAI時代の計算基盤そのものの刷新だ。

Rapidusの現在地──2nmの壁を越えられるか

富士通がRapidusに1.4nmチップの製造を委ねるということは、Rapidusの技術力に賭けるということでもある。では、Rapidusは今どこにいるのか。

北海道千歳市のIIM-1ファウンドリでは、2025年7月に2nm GAAトランジスタの試作が成功し、電気特性の取得も始まっている。2027年度後半に2nmの量産を開始し、初期月産6,000枚から1年以内に2万5,000枚へ引き上げる計画だ。2026年2月には政府と民間32社から計2,676億円(約17億ドル)の資金調達も完了した。

しかし、冷静に見れば課題は山積している。TSMCは2025年第4四半期に2nmの量産を開始済みで、1.4nm(A14ノード)は2028年後半の量産を見据えている。Samsungも1.4nmを2029年に予定し、Intelの14Aは18Aと同等の性能・歩留まりに達したとの報道もある。

Rapidusはまだ2nmの量産すら始めていない段階で、1.4nmの顧客を獲得したことになる。期待と不安が同居する状況だ。

Rapidus自身も慎重だ。1.4nm工場の建設・稼働に関する報道に対し、同社は「憶測であり、当社が発信したものではない」と明確に否定している。ロードマップの更新は公式発表で行うと釘を刺した。

「経済安全保障」という名の加速装置

富士通がRapidusを選んだ背景には、技術的な判断だけでなく、日本政府の半導体政策がある。経済産業省はRapidusを国内先端半導体の「公式事業者」に選定し、累計で1兆7,200億円規模の支援を投じている。富士通自身も2026年2月の資金調達ラウンドでRapidusに出資した。

台湾海峡の緊張、米中デカップリングの加速。TSMCへの依存度を下げたいという思惑は、日本だけでなく米国やヨーロッパにも共通する。Rapidusがその受け皿になれるかどうかは、日本の経済安全保障戦略そのものの成否を左右する。

だが、補助金で工場は建てられても、歩留まりは買えない。半導体の最先端プロセスでは、TSMCSamsungIntelも歩留まり改善に苦しんできた歴史がある。創業からわずか4年のRapidusが同じ壁を越えられる保証はどこにもない。

国家の意志と資金は揃った。残された問題は、物理法則と向き合う現場の技術力だけだ。

試されるのは技術力だけではない

富士通のNPU計画は、Rapidusにとって単なる受注以上の意味を持つ。これまでRapidusの顧客として名前が挙がっていたのは、IBMとの技術提携から派生したTenstorrentや、AI半導体を手がけるPreferred Networksなど限られた企業だった。日本を代表するテック企業である富士通が、最先端の1.4nmチップの製造先として正式にRapidusを選んだことは、同社の信頼性に対する強力な裏書きになる。

同時に、これは富士通にとってもリスクのある選択だ。MONAKA-Xが富岳NEXTの中核を担う以上、製造パートナーの失敗は国家プロジェクトの遅延に直結する。富士通がこのリスクを引き受けたこと自体が、日本の半導体エコシステムに対するコミットメントの深さを物語っている。

設計から製造まで、すべてを日本国内で完結させるAI半導体。その構想は壮大だ。だが、壮大な構想が壮大なまま終わった例を、この業界は数多く知っている。3年後、この記事を読み返すとき、私たちは何を見ているだろうか。


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