GoogleのAIが性犯罪被害者の個人情報を「配信」し続けている
政府が撤回した情報を、GoogleのAIモードが世界中に再拡散している。被害者約100人の名前、連絡先、住所が、検索バーひとつで誰でもアクセスできる状態だ。
政府が撤回した情報を、GoogleのAIモードが世界中に再拡散している。被害者約100人の名前、連絡先、住所が、検索バーひとつで誰でもアクセスできる状態だ。
被害者100人の身元が晒された
ジェフリー・エプスタインの性的搾取を生き延びた被害者たちが、トランプ政権とGoogleを相手取り、カリフォルニア州北部地区連邦地裁で集団訴訟を起こしている。2026年3月27日(日本時間)に提起されたこの訴訟で、「ジェーン・ドウ」を名乗る女性が自身と他の生存者を代表して訴えに立った。

訴状にはこう記されている。「合衆国はDOJを通じて、エプスタイン生存者のプライバシー保護よりも、大量・迅速な情報公開を優先するという意図的な政策判断を下した」
訴訟の核心は単純だが深刻だ。司法省(DOJ)が2025年末から2026年初頭にかけて公開した約350万ページのエプスタイン関連文書の中に、およそ100人の被害者の氏名、メールアドレス、電話番号、居住地、顔写真が未編集のまま含まれていた。
透明性を求める世論に応えるための文書公開が、皮肉にも被害者を二度目の加害に晒している。500人以上の審査員が投入されたにもかかわらず、「人的ミス」と「技術的エラー」によって個人情報が漏れ出したとDOJは説明している。だが被害者側の見方は異なる。「今すぐ公開、あとで撤回」という姿勢が、違法な情報漏洩を「予見可能どころか、不可避にした」と訴状は指摘している。
GoogleのAIモードが「加害の道具」に
問題はDOJの失態だけにとどまらない。政府が誤りを認めて文書を取り下げた後も、Googleの検索エンジンとAI機能が被害者の個人情報を表示し続けている。
訴状によると、原告の名前をGoogleのAIモードで検索すると、フルネーム、連絡先情報、居住都市、そしてエプスタインとの関連が一覧表示された。さらに衝撃的なのは、AIが原告のメールアドレスを表示したうえで、ワンクリックで直接メールを送れるハイパーリンクまで生成していたことだ。
被害者側弁護士のジュリー・エリクソンはこう述べている。「性的搾取の生存者が、自分の名前を検索バーに打ち込むだけで最悪の体験が晒されることを恐れて暮らすべきではない。しかし、まさにそれが今起きている」
被害者側は2月と3月に複数回にわたってGoogleに削除を要請したが、訴状提出時点でも情報は閲覧可能な状態のままだった。
Googleには特定のコンテンツを検索結果やキャッシュから削除・非インデックス化する技術的能力がある。訴状はGoogleの対応を「無謀」であり、被害者の「福祉に対する故意の軽視」だと断じている。
「透明性法」が生んだ矛盾
そもそもの発端は、2025年11月19日にトランプ大統領が署名したエプスタイン文書透明性法だ。下院427対1、上院全会一致という超党派の支持で成立したこの法律は、DOJにエプスタイン関連の未分類文書をすべて公開するよう義務づけた。
法律には被害者の個人情報を編集する条項が明記されていた。しかし、350万ページを超える膨大な文書を30日以内に公開するという時間的圧力の中で、その保護は十分に機能しなかった。
DOJ側は、公開ページの0.1%に被害者を特定する情報が未編集で残っていたと説明している。一見わずかな数字に思えるが、350万ページの0.1%は3,500ページだ。そこには被害者の人生が詰まっていた。
トッド・ブランシュ司法副長官は今月初め、「我々が被害者を無視しているという言説は事実ではない」と反論している。だが訴状は、その主張と実際の文書公開の姿勢との間に矛盾があると指摘する。
Section 230の「盾」が崩れ始めている
この訴訟が注目を集める理由は、単なるプライバシー問題にとどまらないからだ。
GoogleのAIモードは「中立的な検索インデックスではない」と訴状は主張する。これは、1996年通信品位法第230条(いわゆるSection 230)の保護がAI生成コンテンツに適用されるかどうかという、テック業界全体を揺るがす問いを突きつけている。
奇しくも同じ週、ロサンゼルスの陪審はMetaとYouTubeに対し、プラットフォームの「設計上の欠陥」が若者に害を与えたとして600万ドル(約9億6000万円)の賠償を命じた。
ニューメキシコ州の別の陪審もMetaに約600億円の支払いを命じており、テック企業の法的責任を問う潮流は一気に加速している。

Section 230の共同起草者であるロン・ワイデン上院議員は、AIチャットボットは同条の保護対象外だとの見解を示しており、ニューメキシコ州のラウル・トレス司法長官も、これらの判決が「議会にSection 230の再検討を促す可能性がある」と語っている。
プラットフォームが「コンテンツの中立的なホスト」から「AIによるコンテンツの能動的な生成者」へと変容する中で、30年前に作られた法的枠組みの限界が露呈しつつある。
テック企業への法的包囲網
Googleにとって、これは孤立した訴訟ではない。今月だけで、GeminiチャットボットがGoogleを相手取った不法死亡訴訟にも直面している。36歳の男性の父親が、Geminiが息子に大量殺傷と自死を教唆したと主張した事件だ。
被害者側はDOJに対して1人あたり最低1,000ドルの賠償と、Googleに対しては懲罰的損害賠償を求めている。さらに、Googleに被害者の個人情報を即座かつ永久に削除するよう命じる差止命令も請求している。
訴因はカリフォルニア州不正競争防止法違反、プライバシーの侵害、過失による精神的苦痛、そしてカリフォルニア州の「ドクシング(晒し行為)」を対象とした民事法違反にまで及ぶ。連邦レベルでは1974年プライバシー法違反も主張されている。
DOJとGoogleは、いずれも訴訟に対するコメントを出していない。
「再び被害者にされる」ということ
訴状に記された被害者たちの現状は、法的論点を超えた生々しさを持つ。
見知らぬ人間から電話がかかってくる。脅迫メールが届く。エプスタインの「共犯者」だと非難される。彼女たちは被害者であって加害者ではないのに、ネット上では区別されない。
透明性は民主主義の根幹だ。エプスタイン事件の全容解明を求める声には正当性がある。だが、加害者の罪を暴く過程で被害者が再び傷つけられるなら、その透明性は誰のためのものなのか。
そしてAIは、一度ネットに流出した情報を整理し、要約し、アクセスしやすくする。人間が忘れても、AIは忘れない。政府が撤回しても、AIは配信し続ける。この訴訟が問うているのは、そういう時代にプライバシーとは何かという、まだ誰も答えを持たない問いだ。
参照元
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