紅の砂漠、Intel Arc GPUを「締め出し→返金しろ→やっぱり対応します」の迷走劇

9,680円の大作を買ったのに起動すらできない。しかも発売当日までそれを知らされなかった。Intel Arc GPUユーザーが味わった「紅の砂漠」の洗礼は、ゲーム業界のハードウェア対応における最悪の事例になりかねない。

紅の砂漠、Intel Arc GPUを「締め出し→返金しろ→やっぱり対応します」の迷走劇
Pearl Abyss

9,680円の大作を買ったのに起動すらできない。しかも発売当日までそれを知らされなかった。Intel Arc GPUユーザーが味わった「紅の砂漠」の洗礼は、ゲーム業界のハードウェア対応における最悪の事例になりかねない。


Intel Arc完全排除という異常事態

Pearl Abyssのオープンワールドアクション「紅の砂漠」(Crimson Desert)は、3月20日(日本時間)の発売直後からSteam最大同時接続約24万人を記録した大型タイトルだ。だがその裏で、Intel Arc GPUを搭載したPCでは文字どおり1秒もプレイできないという事態が静かに進行していた。

起動すると表示されるのは「The graphics device is currently not supported」というエラーメッセージ。パフォーマンスが悪いのでも、バグがあるのでもない。ゲームそのものが起動しない。Arc B580のような現行ミッドレンジGPUでも、Lunar LakeやPanther Lakeの内蔵グラフィックスでも、結果は同じだった。

問題をさらに深刻にしたのは、Pearl Abyssの対応だ。発売の1週間前にPC動作要件を詳細に公開し、ROG Xbox Allyの動作スペックまで示していたにもかかわらず、Intel Arc非対応の事実は発売当日になってFAQにひっそり追記された。

しかもその文面は、対応予定への言及すらない冷淡なものだった。

「紅の砂漠は現在Intel Arcグラフィックスカードに対応していません。Intel Arcの対応を期待して購入された方は、購入プラットフォームの返金ポリシーをご確認ください」

返金しろ、という一言で済ませたのだ。

Windows Centralの報道によれば、発売前のFAQは1週間前に公開されていたが、Intel Arc非対応の記述は発売時刻の直後に追加されたものだ。購入者への事前告知という概念が、ここには存在しない。

Intelが暴露した「何年も無視された支援」

この対応をめぐり、Intel側の声明が波紋を広げている。Wccftechなど複数の海外メディアに寄せた公式コメントで、Intelは数年間にわたりPearl Abyssに対してArc GPU対応の支援を申し出ていたと明かした。

提供を打診したのはAlchemist、Battlemage、Meteor Lake、Lunar Lakeにまたがる4世代分のハードウェア、ドライバ、エンジニアリングリソースだ。つまりIntel Arcの初代から最新世代まで、一貫して手を差し伸べ続けていた計算になる。だがPearl Abyssはそれに応じた形跡がない。

Intelの声明は表面上は外交的だが、末尾の一文が示す苛立ちは明確だった。「発売時にIntelサポートを有効化しなかった判断の詳細については、Pearl Abyssに直接お問い合わせください」──責任の所在を名指しで突き返した形だ。

Tom's Hardwareの報道によれば、JPRの最新AIBレポートでIntel Arcのディスクリート市場シェアはわずか約1%だ。だが、Meteor Lake以降のすべてのIntel CPUにはArcアーキテクチャの内蔵GPUが搭載されている。影響範囲は「1%のニッチ」では片付けられない。


炎上から4日、突然の方向転換

3月23日(日本時間)、Pearl Abyssの姿勢が一転している。v1.00.03アップデートのリリースとともに公式FAQの文面を書き換え、Intel Arc対応に向けた互換性・最適化作業を進めていると表明したのだ。以前のFAQで混乱を招いたことへの謝罪も添えられている。

「Intel Arc GPUシステムでも紅の砂漠をお楽しみいただけるよう、互換性と最適化のサポートに取り組んでいます。サポートアップデートが利用可能になるまで、今しばらくお待ちください」

「返金しろ」から「お待ちください」への転換。わずか4日間の出来事だ。

だが、この方向転換を「解決」と呼ぶのは早い。Neowinの報道やRedditのユーザー報告によれば、v1.00.03適用後にArc B580などで起動自体は可能になったものの、画面が真っ白や真っ青になる、レンダリングが崩壊するといった深刻な不具合が多発している。起動ブロックは解除されたが、まともにプレイできる状態にはほど遠い。

なぜPearl Abyssは支援を拒んだのか

ここで残る最大の疑問は「なぜ」だ。6年以上の開発期間を持つタイトルが、なぜ最も基本的なハードウェア互換性を放置したのか。

DirectX 12 Work Graphsの非対応が原因という推測もあったが、Tom's Hardwareが指摘するように、AMD RDNA 2世代もWork Graphsに対応していないにもかかわらず紅の砂漠は動作する。技術的な壁というより、意思決定の問題に見える。

市場シェア1%のGPUに工数を割く優先度は低い──そう判断したとしても、経営的には理解できる。だが問題は、その判断を発売前に伝えなかったことだ。詳細なPC動作要件を公開しておきながらIntel Arcの排除を伏せていたのは、情報開示の不備と言わざるを得ない。

しかも前作「黒い砂漠」ではIntel Arcのドライバ更新でパフォーマンス問題が解決された経緯がある。同じBlackSpaceエンジンの後継で、Intelが積極的に支援を申し出ていた状況を考えれば、「対応できなかった」のではなく「対応しなかった」のだろう。

紅の砂漠はSteam、Epic Games、PS5、Xbox Series X|Sに加え、Mac App StoreやGeForce NOWにも対応している。対応プラットフォームの広さを考えれば、Intel Arcだけを切り捨てた判断の不自然さが際立つ。

「対応します」の先にあるもの

Pearl Abyssが方針を撤回したこと自体は評価できる。だがこの一連の対応が示しているのは、ユーザーとハードウェアベンダーの双方に対するコミュニケーションの構造的な欠陥だ。

発売前に非対応を告知していれば、購入者は判断できた。Intelの支援を受けていれば、発売時点で少なくとも「動作はするが最適化は不十分」という状態にはできたはずだ。どちらも行わず、炎上してから方針を変えるのは、最も信頼を損なう対応パターンだろう。

Intel Arcのディスクリートシェアは確かに小さい。だがIntel内蔵GPUを含めれば、影響を受けるユーザー数は数千万単位に達する。紅の砂漠のSteamレビューが「賛否両論」(66%肯定)に留まっている背景には、操作性への不満だけでなく、こうした発売周りの問題対応への不信も含まれているはずだ。

対応を表明した以上、次はその速度と質が問われる。真っ青な画面を見つめながら「お待ちください」と言われたユーザーが、どこまで待てるかは別の話だ。


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