紅の砂漠のAI生成アート混入、Pearl Abyssが謝罪した本当の意味
発売3日目、200万本を突破した超大作が「プレースホルダーを消し忘れた」と頭を下げた。だが問題の本質は、消し忘れたことではない。
発売3日目、200万本を突破した超大作が「プレースホルダーを消し忘れた」と頭を下げた。だが問題の本質は、消し忘れたことではない。
異形の馬が暴いたもの
紅の砂漠の世界に、異形の絵画が飾られている。
最初の主要都市にあるオークンシールド邸の階段を上ると、豪華な金縁の額に収められた油絵が目に入る。騎馬戦を描いたように見えるそれは、よく見ると馬の脚が不自然に増減し、尻尾から余分な脚が生え、騎士と馬体が融合し、人物の顔は溶けたように潰れている。RedditユーザーのRex_Spyが最初に共有したこの画像は、生成AIの典型的な破綻をすべて備えていた。

発売初日から、プレイヤーたちは次々と「怪しい」絵画のスクリーンショットを投稿し始めた。木版画風の絵、道化師のポスター、意味不明な文字列が刻まれた装飾物。Kotakuが報じたところによれば、顔の崩れ方、解剖学的にありえない身体構造、複数の画風が一枚に混在する不自然さは、いずれも初期の画像生成AIに典型的な痕跡だった。
そして3月22日(日本時間)、Pearl Abyssは公式Xアカウントで声明を出した。
「開発中、一部の2Dビジュアル小道具は、実験的なAI生成ツールを使って初期段階のイテレーションとして制作されました。これらのアセットが最終リリースに意図せず含まれていたことを確認しました。全責任を負います」
We would like to address questions regarding the use of AI in Crimson Desert.
— Crimson Desert (@CrimsonDesert_) March 22, 2026
During development, some 2D visual props were created as part of early-stage iteration using experimental AI generative tools. These assets helped us rapidly explore tone and atmosphere in the earlier…
「プレースホルダー」という便利な言葉
声明の要旨はこうだ。開発初期に実験的なAI生成ツールで2Dの小道具アセットを制作した。トーンや雰囲気を素早く試すためだった。最終的にはアーティストの手で差し替える予定だったが、一部が製品版に残ってしまった。意図的ではなく、完全に我々の責任だ――。
加えて、SteamストアページにAI生成コンテンツの開示表記がなかったことも認め、Engadgetが報じたように謝罪後にディスクロージャーが追加された。現在はすべてのゲーム内アセットの包括的な監査を実施中で、該当するコンテンツは今後のパッチで差し替えるという。
「プレースホルダーが残った」。この説明には既視感がある。
2025年4月に発売された『クレール・オブスキュール:エクスペディション33』でも、まったく同じことが起きた。Sandfall Interactiveは掲示板のポスター素材にAI生成画像が混入していたことを認め、発売から5日以内にパッチで削除した。だがその後、プロデューサーのフランソワ・ムリスがスペインのEl Paísに対して「いくらかAIを使ったが、多くはない」と認めたことで事態は拡大。12月のインディーゲームアワードでは、年間最優秀作品賞と最優秀デビュー作品賞の2つの受賞が取り消される事態に発展した。
「バレたから謝った」のか
コミュニティの反応は、予想通り真っ二つに割れている。
一方には「たかが背景の絵画でこの騒ぎか」という擁護がある。ゲーム全体の規模を考えれば、壁に飾られた小さな装飾画にAIを使ったところで体験そのものは変わらない、という主張だ。元Xbox副社長のマイク・イバーラは「謝る必要はない。AIはあらゆるゲームに入ってくる」とXに投稿し、15万回以上表示された。
他方には「バレなければそのままだったのでは」という不信がある。PCGamesNが指摘したように、Valveは2024年初頭からAI生成コンテンツの開示をストア掲載の条件としている。紅の砂漠は発売時点でこの開示を行っていなかった。コミュニティからの報告がなければ、そのまま放置されていた可能性は否定できない。
問題はAIそのものではなく、透明性の欠如だ。プレイヤーは約束が守られなかったことに気づく。それが遅れれば遅れるほど、信頼の回復は難しくなる。
正直なところ、どちらの言い分にも一理ある。だが「意図的ではなかった」という説明を額面通り受け取るのは難しい。なぜなら、この絵画は2022年頃の初期AI生成モデルで作られたと見られるほど品質が低い。数年間の開発を経て、QAを通過し、マスターアップまで誰も気づかなかったのだとすれば、それ自体が品質管理体制の問題を示している。
スペイン語翻訳が突きつけるもう一つの疑問
AI疑惑は絵画だけに留まらない。XユーザーのCopacolondriosが共有したスクリーンショットでは、スペイン語版の翻訳が深刻に破綻している。
🔴The Spanish translation of the game it's completely broken 🔴
— Copacolondrios ❄️ (@Copacolondrios) March 22, 2026
It completely changes some quest, skills and challenge texts, making them impossible to complete in Spanish, these are no minor translation error these are game breaking please fix it! @WillJPowers @CrimsonDesert_ pic.twitter.com/8h1UedVyvQ
「ロープの上を10m歩け」が「フック矢で10m移動しろ」に変わっているなど、単なる誤訳ではなくクエストの進行が不可能になるレベルだ。
翻訳にもAIが使われたのではないかという疑念が浮上しているが、Pearl Abyssはこの点について言及していない。250人規模の開発チームを擁し、7年の歳月と2,000億ウォン(約212億円)を投じたプロジェクトで、翻訳の品質管理がここまで崩壊しているのは不可解だ。
業界に広がる「謝罪のテンプレート」
紅の砂漠、クレール・オブスキュール、Larianの『ディヴィニティ』コンセプトアート騒動。この1年だけで、「AIをプレースホルダーに使ったが差し替え忘れた」という釈明が何度繰り返されただろう。
パターンは驚くほど同じだ。発売後にプレイヤーが発見する。SNSで拡散される。開発元が「意図的ではなかった」と謝罪する。パッチで差し替える。そして次のゲームで、同じ弁明が繰り返される。
Windows Centralが報じたように、Xboxのリーダーシップは最近「AIで生成されたジャンク」に対して明確な反対姿勢を示している。Steamの開示ルールも厳格化の方向にある。だが、ルールがあっても守られなければ意味がない。紅の砂漠は、開示なしで発売し、指摘されてから追加した。罰則がない限り、この構図は変わらない。
売れているからこそ、問われるもの
紅の砂漠はSteam同時接続約24万人を記録し、発売から24時間で200万本を売り上げた。商業的には間違いなく成功だ。
だが前回の記事で取り上げた元開発者の内部告発――ストーリーの迷走、権力闘争によるディレクター交代、「見た目が良ければ入れる」という開発文化――と今回のAI混入を重ねると、一つの像が浮かび上がる。
巨大なプロジェクトの中で、細部の品質管理が構造的に機能していなかった。AI生成アートの混入は、その氷山の一角にすぎない。
Pearl Abyssは操作性の改善パッチも約束しており、ゲームは今後よくなるかもしれない。AI生成アセットの差し替えも、技術的には難しくない。
ただし、透明性の問題はパッチでは直せない。「プレースホルダーが残っていた」で済ませるのか、それとも開発プロセスにおけるAI利用の方針そのものを明示するのか。後者を選べるかどうかが、Pearl Abyssへの信頼を左右する。
パブリックドメインの絵画は、この世に数十万枚ある。フェルメールもレンブラントも、著作権料を請求してこない。異形の馬を壁に掛けるより、よほど簡単な選択だったはずだ。
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