Intel、Raptor Lake供給は継続 DDR5高騰が変えたPC市場
DDR5メモリ価格が異常な高騰を続けるなか、Intelが旧世代Raptor Lakeの継続供給とDDR4/DDR5ハイブリッドマザーボードの拡充を示唆した。「メモリ危機」の出口が見えないPC市場で、何が起きているのか。
Raptor Lakeは「我々の戦略の柱」
IntelでエンスージアストチャネルのVP兼GMを務めるロバート・ハロックが、英メディアClub386のインタビューで旧世代CPUの位置づけを語った。
「Raptor Lakeは我々の戦略において大きな柱だ。この点は明確にしたい」──ハロックの言葉は、単なるリップサービスではない。最新のArrow Lake Refreshを出したばかりのIntelが、わざわざ2世代前のCPUを「戦略の柱」と呼ぶのは異例だ。
「他のベンダーが何世代もの新ハードウェアを出してきたあとでも、Raptor Lakeは依然として極めて優秀な製品だ。どこにも行かない。Raptor Lakeが潤沢に供給され続けることを理解してほしい」──ロバート・ハロック(Intel VP/GM)、Club386インタビューにて

Core i5-14600Kなどの人気モデルの増産について聞かれると、ハロックは「供給や需要の具体的な話はできない」と明言を避けた。だが、彼が次に触れたのはマザーボードの話だった。
DDR4とDDR5を同居させるマザーボード
「DDR4とDDR5の両方をサポートする新しいマザーボードの発表をご覧になったと思う。これはRaptor Lakeにおいて、ふたつの世界をつなぐ橋のようなものだ」とハロックは述べた。IntelがハイブリッドマザーボードをRaptor Lake戦略の文脈で語るのは珍しい。
実際にASRockは2026年3月、H610M COMBO IIを投入している。DDR5スロット2基とDDR4スロット1基を搭載したLGA1700対応のMicro-ATXボードで、12〜14世代Coreに対応する。DDR4は1スロット・最大32GB・シングルチャネルという制約があり、性能面では妥協が必要だが、「手持ちのDDR4で今すぐ組める」という選択肢を提供する点に意味がある。
DDR5が買えないなら、DDR4で組めばいい──そんな割り切りを、マザーボードメーカーが製品で体現し始めた。
ハロックはマザーボードメーカーの動向について、大手ODMがカバーしていない市場セグメントに小規模メーカーが独自の設計で参入する余地があることを示唆した。メーカーの事業計画には踏み込めないとしながらも、「それが我々が市場で目にしていることのひとつだ」と語った。
DDR5は3倍に──「メモリ危機」の全体像
なぜ今、旧世代CPUがこれほど注目されているのか。答えはメモリ価格にある。
2025年半ばには80ドル(約1万2,800円)前後だった32GB DDR5-6000キットが、2026年1〜2月には約430ドル(約6万8,600円)のピークをつけた。4月に入り350〜400ドル帯に軟化の兆しがあるものの、1年前の4〜5倍という水準に変わりはない。AIデータセンターによるDRAM需要の爆発が供給を圧迫し、Samsung、SK hynix、Micronの3大メーカーがHBM(広帯域メモリ)生産に設備を振り向けた結果、コンシューマー向けDDR5は深刻な品薄に陥っている。
TrendForceの最新予測では、2026年第2四半期のDRAM契約価格は前四半期比で58〜63%上昇する見通しだ。第1四半期の90〜95%上昇に続く連続的な高騰であり、DDR5の価格が2024年の水準に戻るのは新工場が稼働する2027年後半以降になるとの分析が多い。
32GBのDDR5キットがCPUより高い──これが2026年のPC市場の現実だ。Club386のインタビューでも、Core Ultra 7 270K Plusのようなチップは優秀だが、メモリだけでCPU以上の出費を強いられる状況が指摘された。
旧世代CPUが売れている理由
この「メモリ危機」が引き起こしたのが、DDR4プラットフォームへの回帰だ。
ドイツのAmazon販売データによれば、AMDのRyzen 7 5800Xは2025年12月に月間約2,000個を売り上げ、最新のRyzen 7 9800X3Dに匹敵する販売数を記録した。同月のAmazon独では、AM4対応CPUがAMDの販売数の約40%を占めている。2年前には想像もできなかった数字だ。
背景は単純な算数にある。AM5プラットフォームで新規に組む場合、マザーボードとDDR5メモリのコストが加算される。一方、LGA1700やAM4ならDDR4の手持ちメモリを流用でき、マザーボードも安い。プラットフォーム全体のコスト差は100ドル以上になる場合もある。
さらに象徴的なのが、AMD Ryzen 7 5800X3Dの中古価格だ。2022年に450ドルで発売されたこのCPUは、eBayで500〜800ドルで取引されている。新品のRyzen 7 9800X3Dより高い。DDR4対応の3D V-Cache搭載CPUは生産終了しており、希少性が価格を押し上げた。
IntelとAMD、それぞれの「旧世代戦略」
Intelの強みは、LGA1700プラットフォームがDDR4とDDR5の両方に対応していることだ。Raptor Lake世代のCPUを使えば、DDR4マザーボードでもDDR5マザーボードでも動く。この柔軟性が、ハイブリッドマザーボードのような「橋渡し」製品を可能にしている。
一方、AMDのAM5はDDR5専用だ。AMDもメモリ危機を受けてAM4への注力を検討していると報じられているが、AM4のラインアップにはX3D系のハイエンドモデルが残っておらず、ゲーミング性能ではRyzen 7 5800Xが事実上の最上位となる。
Intelのアドバンテージは明確だ。DDR4/DDR5両対応のLGA1700がある限り、ハイブリッドボードという「逃げ道」を用意できる。AMDにはその選択肢がない。
| Intel LGA1700 |
AMD AM4 |
AMD AM5 |
Intel LGA1851 |
|
|---|---|---|---|---|
| DDR4 | ○ | ○ | × | × |
| DDR5 | ○ | × | ○ | ○ |
| ハイブリッド ボード |
○ | × | × | × |
| 対応世代 | 12〜14世代 | Ryzen 1000〜5000 |
Ryzen 7000〜9000 |
Core Ultra 200系 |
ただし、Intelにも課題はある。Raptor Lakeは2024年に深刻な不安定性の問題が発覚し、マイクロコード修正で対処したものの、一部のCPUには不可逆的な損傷が生じた。この記憶は消えていない。Raptor Lakeを「戦略の柱」と位置づけるなら、品質面での信頼回復も同時に求められる。
「メモリが高いから旧世代」の先にあるもの
Intelが次世代ソケットLGA1954で長期サポートを目指していることは公然の方向性だが、それが市場に届くのはまだ先だ。当面は、LGA1700とRaptor Lakeが「今すぐ手の届くPC」を支える。
CPUの世代交代は常に「前へ」が正解だった。だがDDR5の価格高騰が、その常識を壊した。「最新世代に移行する」ことが最適解ではなくなった今、旧世代プラットフォームの価値が見直されている。
Intelがこのタイミングで旧世代CPUの継続供給を明言したのは、現実主義の表れだろう。新製品を売りたいメーカーが「古い製品を使い続けてくれ」と言うのは、通常ありえない。それが「戦略の柱」とまで言い切る時点で、市場がどれだけおかしくなっているかは分かるだろう。
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