イラン系ハッカー、米国の水道・電力を「実際に破壊」──FBIが異例の緊急警告

イラン系ハッカー、米国の水道・電力を「実際に破壊」──FBIが異例の緊急警告

米国の重要インフラが、静かに蝕まれている。イラン系ハッカーによる攻撃はもはや偵察や情報窃取の段階を超え、水道施設やエネルギー設備の「実際の運用妨害」を引き起こしている。


FBIが認めた「財務損失と運用停止」

米国の連邦機関6組織が4月7日、異例の合同警告を発した。FBI、NSA(国家安全保障局)、CISAサイバーセキュリティインフラ安全保障庁)、EPA(環境保護庁)、エネルギー省、そしてサイバー軍──これほどの顔ぶれが揃うこと自体が、事態の深刻さを物語る。

Iranian-Affiliated Cyber Actors Exploit Programmable Logic Controllers Across US Critical Infrastructure | CISA
U.S. organizations should review the TTPs and IOCs in this advisory for indications of current or historical activity on their networks, and apply the recommendations listed in this advisory to reduce the risk of compromise.

警告の核心は明確だ。イラン系のAPT(高度持続的脅威)グループが、米国の重要インフラで使用されるインターネット接続型のPLC(プログラマブルロジックコントローラ)を標的にし、すでに「運用妨害と財務損失」を引き起こしている。

PLCは浄水場の薬剤投入量から発電所のスイッチング操作まで、産業プロセス全体を自動制御する「現場の頭脳」だ。ここを侵害されると、オペレーターは正確な状況を把握できなくなり、物理的な被害に直結しかねない。
イラン系ハッカーによる米国インフラ攻撃の経緯
2023年11月
CyberAv3ngersがUnitronics製PLCを攻撃
ペンシルベニア州の水道施設を含む75台のデバイスが侵害。イスラエル製PLCを意図的に標的とした政治的メッセージを含む攻撃
2026年2月28日
オペレーション・エピック・フューリー開始
米国とイスラエルがイランへの軍事作戦を開始。サイバー攻撃が報復として急増
2026年3月11日
医療機器大手Strykerが侵害される
HandalaグループがMicrosoft Intuneを悪用し、社内デバイスを大量ワイプ
2026年4月7日
FBI等6機関が合同警告を発表
Rockwell Automation製PLCを標的とした攻撃で運用妨害と財務損失が発生。偵察段階を超え、実際の破壊行為にエスカレート
※攻撃対象:水道、電力、政府サービス等の重要インフラ

狙われているのはRockwell Automation(Allen-Bradley)製のPLCが中心だが、SiemensやSchneider Electric製の機器も標的となっている可能性が指摘されている。攻撃者は海外のホスティングサービスを経由し、標準的なOTポート(44818、2222、102、502など)を通じてアクセスを確立。Rockwell Automationの設定ソフトウェア「Studio 5000 Logix Designer」などを使い、PLCの動作を規定するプロジェクトファイルを改ざんしている。

攻撃手法は決して高度ではない。デフォルトパスワードのままインターネットに露出した機器をスキャンし、認証をバイパスする──2021年に報告された脆弱性「CVE-2021-22681」が今も悪用されている。つまり、何年も前から警告されてきた基本的な対策の欠如が、実害を生んでいる。


2023年の警告を無視した代償

これは突然始まった攻撃ではない。

2023年11月、イランの革命防衛隊(IRGC)と関連する「CyberAv3ngers」がペンシルベニア州の水道施設を含む米国のUnitronics製PLCを攻撃し、少なくとも75台のデバイスが侵害された。イスラエル製のPLCを意図的に狙った「政治的メッセージ」を含む攻撃だった。

その時点でCISAは、デフォルトパスワードの変更、インターネット接続の遮断、多要素認証の導入を強く推奨していた。しかし今回の警告が示すのは、その教訓が十分に浸透しなかったという現実だ。

セキュリティ企業Check Pointのセルゲイ・シケヴィッチ脅威インテリジェンス部門マネージャーは、今回の警告について「我々が数カ月前から観測していた事態を追認するもの」と指摘する。同社によれば、エネルギー・公益事業セクターは先月、米国で5番目に多く攻撃された業界だった。

「イランの脅威アクターは、ITとOTインフラの両方をより速く、より広範囲に標的にしている。これは新しい脅威ではなく、加速している脅威だ」

戦時下のサイバー攻撃

攻撃のエスカレーションには、明確な地政学的背景がある。

2026年2月28日、米国とイスラエルは「オペレーション・エピック・フューリー」として知られる共同軍事作戦を開始し、イランの核施設、軍事インフラ、そして指導部を標的にした空爆を実施。最高指導者ハメネイ師が命を落としたとされる。

その報復として、イラン系のサイバー攻撃が急増した。3月11日には医療機器大手Strykerが「Handala」を名乗るグループに侵害され、Microsoft Intuneを悪用した社内デバイスの大量ワイプが発生。4月初頭にはIRGCが18の米国企業(AppleGoogleMicrosoft、Nvidia、Boeing、Teslaなど)を「テロリストスパイ企業」と名指しし、「正当な標的」と宣言する声明を出した。

今回の合同警告が発表された4月7日、トランプ大統領は「今夜中に取引がまとまらなければ、文明全体が消える」とイランに対する最後通牒を発していた。パキスタンの仲介で2週間の停戦が成立したものの、サイバー空間での攻防は停止していない。


守る側の体制崩壊

皮肉なことに、CISAはこの危機的状況でまさに機能不全に陥っている。

2026年2月14日に始まった連邦政府のシャットダウンにより、CISAの約1,453名──全職員2,341名の62%──が一時帰休となった。稼働しているのはわずか38%。しかもそれ以前に、トランプ政権の「効率化」施策によって約3分の1の職員がすでに退職していた。

CISAは2025年1月時点で3,300名以上の職員を擁していたが、2026年2月初頭には2,389名まで減少した。

CISA職員数の推移
時期 職員数 稼働率 状態
2025年1月 3,300名以上 100% 通常
2026年2月初頭 2,389名 約72% 効率化で削減
2026年2月14日〜 888名 38% シャットダウン
※2月14日以降、1,453名(62%)が一時帰休。残りの38%が無給で稼働
シャットダウン開始後、ある週には高度な技術を持つ脅威ハンティング・インシデント対応チームから6名が同日に辞表を提出したという。残った職員は無給で働きながら、国家および犯罪グループからの攻撃圧力に直面している。

重要インフラの防御を担う機関が6割の人員を失った状態で、敵対国家によるOT攻撃が激化する──これ以上ない悪条件だ。


今すぐ確認すべきこと

連邦機関は、Rockwell Automation製PLCを使用する組織に対して以下を強く推奨している。

インターネットに接続されたPLCを即座に切り離すこと。メーカーのセキュリティガイダンス(SD1771)を確認すること。OTポート(44818、2222、102、502)への不審なトラフィック、特に海外ホスティングプロバイダーからのアクセスをログで確認すること。多要素認証を導入し、デフォルトパスワードを変更すること。

Check Pointによれば、イスラエルでも同様のPLC攻撃が先月確認されている。攻撃の対象は米国に限らない。

「小さすぎて狙われない」という想定は、もう通用しない。勧告は明確に、地方自治体を含むあらゆる規模の組織がターゲットセットの一部であると指摘している。水道、電力、政府サービス──日常を支えるインフラが、見えない戦場になっている。


参照元

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