KCD2翻訳者がAI代替で解雇、Warhorseに批判殺到
「効率化」と「コスト削減」。その二つの言葉が、4年近くゲームに魂を注いだ翻訳者の仕事を一瞬で終わらせた。220万語のRPGは、次から誰が言葉を紡ぐのか。
「効率化」と「コスト削減」。その二つの言葉が、4年近くゲームに魂を注いだ翻訳者の仕事を一瞬で終わらせた。220万語のRPGは、次から誰が言葉を紡ぐのか。
翻訳者が語った「突然の終わり」
Kingdom Come: Deliverance 2(以下KCD2)の英語翻訳・編集者であるマックス・ヘイトマーネクが、開発元Warhorse Studiosから解雇されたと告白している。2026年3月27日、何の前触れもなく会議に呼ばれ、「会社の効率化」と「財務の節約」のために自分のポジションが来月から「時代遅れ」になると告げられたという。今後のすべての翻訳はAIで行うと。
彼は2022年7月からWarhorseに在籍し、KCD2とそのDLCのダイアログ、クエストログ、アイテム名、マーケティング資料などの翻訳を手がけてきた。ボイスオーバーのディレクションも担当していた人物だ。
「AIを翻訳に使う話は社内で何度も出ていたし、私はいつも強く反対していた。でも、まさか自分の仕事を奪うほどのことになるとは思っていなかった」
プロジェクトの途中だった。NDAを破るつもりはないが、黙っているつもりもないと彼は述べている。この告白はr/kingdomcomeサブレディットに投稿され、モデレーターが本人確認を行い、LinkedInのプロフィールも2026年3月時点でWarhorse退社に更新されている。
[OTHER] Fired from Warhorse Studios and replaced with AI
by u/ThousandDemons in kingdomcome
投稿は2,200以上の賛成票と2,700件以上のコメントを集めた。裏切りを感じているのは彼だけではない。
220万語のスクリプトを支えた「人間の仕事」
KCD2は220万語を超えるスクリプトを持つ、史上最長クラスのゲームだ。Baldur's Gate 3の約200万語を上回り、映画の脚本に換算すれば約100本分。小説なら25冊分にあたる。この規模のテキストを支えてきた翻訳者の解雇は、単なる人事ではない。
15世紀ボヘミアを舞台にした歴史RPGであり、その英語版テキストの質はレビューでも高く評価されてきた。PC GamerのGame of the Year 2025を受賞し、The Game Awards 2025にもノミネートされた作品だ。チェコ語から英語への翻訳は、辞書を引いて置き換える作業ではない。中世の言い回し、キャラクターごとの話し方の一貫性、歴史的文脈の正確な伝達――これらは、その言語と文化を深く理解した人間にしかできない仕事だった。
ヘイトマーネクはReddit投稿の中で、もう一人の社内ローカライザーがまだ在籍しているとしつつも、その人物と連絡が取れていないと述べている。10年以上Warhorseに在籍するリード翻訳者の処遇も不透明なままだ。
AIは確かに翻訳の生産性を上げる。だが220万語のRPGで求められるのは生産性だけではない。ある言葉の選び方ひとつで、プレイヤーがキャラクターに感じる信頼が変わる。その繊細さを、現在の生成AIがどこまで担えるのか。
共同創設者のAI擁護と、そのタイミング
この解雇を語るうえで避けて通れないのが、Warhorse共同創設者ダニエル・ヴァーヴラの存在だ。ヘイトマーネクが解雇されるわずか4日前の3月23日、ヴァーヴラはXでNVIDIAのDLSS 5を擁護する投稿をしている。
I can imagine in the future devs will be able to train this tech for particular art style or specific people faces and it might replace expensive raytracing etc. This is just a little uncanny beginning. No way haters will stop this. Its way more than a soap opera effect every tv… https://t.co/SUdxhy6Arj
— Daniel Vávra ⚔ (@DanielVavra) March 23, 2026
「これはちょっと不気味な始まりにすぎない。批判者がこれを止めることはできない」と述べ、将来的にはAIがレイトレーシングを置き換える可能性すらあると主張した。業界の大半がDLSS 5の生成AI的な映像処理を批判する中で、数少ない擁護者の一人として注目を集めた発言だ。
ヴァーヴラは以前から生成AIに対して前向きな姿勢を示してきた。「AIが小さなチームでエピックなゲームを1年で作る手助けになるなら、大歓迎だ」とも発言している。現在は日常の開発業務からは離れ、Kingdom Comeの実写映像化プロジェクトに注力しているとされるが、スタジオの方針に影響力を持つ人物であることに変わりはない。
DLSS 5擁護から4日後の翻訳者解雇。偶然かもしれないが、スタジオ全体のAIに対する姿勢を象徴する時系列ではある。
Warhorseの沈黙、業界の先例
Kotakuの取材に対し、Warhorseの広報担当者はこう回答した。「Warhorse Studiosは常に才能ある人材を重視するスタジオであり、私たちの仕事を形作る人々を深く大切にしています。現在および元同僚のプライバシーと尊厳を尊重し、個別の状況については公にコメントしません」
AIを翻訳に使うかどうかという核心的な問いには、一切答えていない。肯定も否定もしない。人事の詳細を語らないのは企業として当然だが、「今後AIで翻訳するのか」という質問は人事ではなく製品の方針だ。その区別を意図的に曖昧にしているように見える。
こうした曖昧な対応は、Warhorseに限った話ではない。
ゲーム業界ではAI翻訳の問題がすでに表面化している。2025年、11 Bit Studiosの「The Alters」ではブラジルポルトガル語版にChatGPTのプロンプトがそのまま残っていたことが発覚し、大きな議論を呼んだ。「仮のつもりだった」という釈明は、プレイヤーの信頼回復にはつながらなかった。
GDC State of the Game Industry Report 2026では、過半数のスタジオが生成AIツールを使用していると回答した一方で、生成AIがゲーム業界に悪影響を与えていると答えた開発者も過半数だった。使っている側ですら、その影響を懸念している。矛盾しているようで、これが業界の現実だ。
「効率化」の先にあるもの
コミュニティの怒りは収まる気配がない。「Warhorse、こんな決定をしたら次のゲームは失敗するぞ」「ローカライゼーションはKCDの強みの一つだった。AIがそれを維持できるわけがない」。ただ、ヘイトマーネク自身はレビュー爆撃やスタッフへの嫌がらせを控えるよう呼びかけている。
正直なところ、ゲーム翻訳におけるAIの活用自体は止められない流れだろう。問題は「どう使うか」であり「誰を切るか」ではないはずだ。人間の翻訳者とAIが協働するモデルは、すでに翻訳業界では標準になりつつある。AIが下訳を作り、人間が文脈と品質を保証する。Warhorseが選んだのは、その協働モデルではなく、人間を排除するモデルだった。
220万語の歴史RPGで、中世チェコ語の文化的ニュアンスを英語に変換する作業を、全面的にAIに任せる。それが「効率化」なのだとすれば、効率化という言葉の意味そのものを問い直す必要がある。
半年後、KCD2の次回作やDLCの英語テキストに触れたとき、プレイヤーはその違いに気づくだろうか。気づかなければWarhorseの判断は正しかったことになる。気づいたとき、失われたものを取り戻すコストは、節約した翻訳者の人件費をはるかに超えるかもしれない。
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