Linuxに「ドリキャスのメモカ」用ファイルシステムが提案
25年前に生産終了したゲーム機の周辺機器を、2026年のLinuxカーネルが正式にサポートしようとしている。
1998年の記憶装置が、2026年のカーネルを目指す
セガの最後の家庭用ゲーム機「ドリームキャスト」に付属していたVMU(Visual Memory Unit)。128KBのフラッシュメモリとモノクロ液晶画面を備えた、コントローラに差し込むタイプのメモリカードだ。
このVMUが使っているFATベースのファイルシステムを、Linuxカーネルに組み込もうというパッチが4月10日、カーネルメーリングリスト(LKML)に投稿された。提案者はエイドリアン・マクメナミン。Cコードにして約1,800行、10ファイルにわたるドライバだ。
驚くべきは、これが「初めての試み」ではないことだろう。マクメナミンが最初にVMUFATドライバをLKMLに投稿したのは2009年。そこから2012年にも再挑戦し、いずれもメインラインへのマージには至らなかった。本人のブログには「手痛い経験だった」と振り返る記述が残っている。
VMUFATドライバはハードウェア非依存の設計で、Dreamcast/SHアーキテクチャに限定されない。x86_64環境でもVMUFATボリュームのマウントが可能だ。
17年越しの3度目の挑戦。執念と呼ぶべきか、愛と呼ぶべきか。
ドリームキャスト復権の1週間
タイミングも興味深い。VMUFATパッチのわずか5日前、4月5日にはフロリアン・フックスという別の開発者がドリームキャストのGD-ROMドライバの修正パッチを投稿している。GD-ROMはドリームキャスト専用の光ディスク規格で、CDよりも大容量のデータを格納できた。
現行のLinuxカーネルでは、GD-ROMドライバに致命的なバグがあり、ディスクのマウントすらできない状態だった。フックスのパッチはブロックI/Oとディスク容量設定の問題を修正し、実機でのメディア読み取りを可能にするものだ。
2026年4月の1週間で、ドリームキャスト関連のLinuxパッチが2件。Phoronixのマイケル・ラーベルも「2026年のビンゴカードにドリームキャストは入っていなかった」と書いている。偶然の一致なのか、レトロハードウェアのLinuxサポートに再び風が吹いているのか。
「FUSEでいいだろう」という反論
コミュニティの反応は、予想どおり割れている。
Phoronixフォーラムでは「これはFUSEファイルシステムの典型的な候補だ。カーネルに入れる必要はない」という意見が最も多くの賛同を集めた。FUSE(Filesystem in Userspace)はカーネル空間ではなくユーザー空間でファイルシステムを実装する仕組みで、実際にVMUファイルシステムのFUSE実装はGitHubに既に存在する。
カーネルへの新しいファイルシステム追加には、セキュリティ面のリスクが伴う。厳密な検証なしに受け入れれば、新たな脆弱性の入り口になりかねないという指摘もある。
一方で、擁護する声も明確だ。ある開発者は「ドリームキャストのCPUはたった200MHzだ。そこでLinuxを動かすなら、FUSEのオーバーヘッドは無視できない」と反論している。アップストリームのカーネルツリーに入っていれば、サブシステムのリファクタリングに追従してメンテナンスされる利点もある。ツリー外のモジュールを自力で維持し続けるよりも、はるかに負担が少ない。
「ビルドしたくなければビルドしなければいい。ほとんどのディストロはデフォルトで無効にするだろう」という冷静な指摘もあった。Linuxカーネルのモジュール設計は、まさにこういった「ニッチだが正当なユースケース」のために存在している。
i486を捨て、ドリームキャストを拾う
この議論に奇妙な文脈を添えるのが、ほぼ同時期に進んでいるLinuxカーネルからのi486サポート廃止の動きだ。インゴ・モルナーが3月末に投稿したパッチは、Linux 7.1のマージウィンドウでi486向けのKconfigオプションを削除するもので、1989年に登場したIntelプロセッサのサポートがついに打ち切られようとしている。
片方では37年前のCPUアーキテクチャを切り捨て、もう片方では25年前のゲーム機のメモリカードをサポートしようとする。矛盾に見えるが、Linuxカーネルらしいと言えばらしい。
| i486サポート | VMUFATドライバ | |
|---|---|---|
| 対象の登場 | 1989年 | 1998年(VMU) |
| 経過年数 | 37年 | 25年 |
| 影響範囲 | カーネル全体 | 独立モジュール |
| コード規模 | 広範に波及 | 約1,800行 |
| 保守コスト | HWエミュレーション | 自己完結 |
| 2026年4月 | 廃止(Linux 7.1) | 新規提案 |
i486のサポート維持には、アトミック命令のエミュレーションなどカーネル全体に波及するコストがある。VMUFATは約1,800行の自己完結したモジュールで、他のサブシステムに影響を与えない。コストと便益で見れば、どちらの判断も実は一貫している。
最後のピースを埋める男
マクメナミンとドリームキャストの関係は深い。彼は2007年にGD-ROMドライバの原作者としてカーネルに名を刻んでおり、今回フックスが修正したドライバのコピーライトにも彼の名前がある。VMUのフラッシュドライバも彼の手によるものだ。
つまり彼は、ドリームキャストをLinuxで動かすために必要なドライバスタックのほぼ全てを書いてきた人物だ。最後のピースがVMUFATであり、それだけが17年間、メインラインに入れなかった。
VMUFATドライバにはmkfs.vmufatという専用フォーマットツールも用意されている。ファイルをVMUFATボリュームとしてフォーマットすることも可能で、エミュレータでの活用も視野に入れた設計だ。
今回のパッチがマージされる保証はない。カーネルのファイルシステムメンテナーたちが同じ「FUSEでいい」という判断を下す可能性も十分にある。だが、最初の投稿から17年、コードの改善と書き直しを重ねたこのドライバは確実に成熟している。
1998年に生まれ、2001年に舞台を降りたゲーム機の小さなメモリカード。そのファイルシステムが2026年のカーネルツリーに居場所を見つけられるかは、メンテナーたちの手にある。
参照元
他参照
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