メモリ128GBで67万円──棚は満杯なのに価格が暴騰する異常事態

在庫は十分にある。なのに、なぜ買えないのか。米国PC小売大手Micro Centerの店頭が、メモリ市場の矛盾を映し出している。

メモリ128GBで67万円──棚は満杯なのに価格が暴騰する異常事態
Hell-Diver7

在庫は十分にある。なのに、なぜ買えないのか。米国PC小売大手Micro Centerの店頭が、メモリ市場の矛盾を映し出している。


棚にぎっしり並ぶ「買えない在庫」

Micro Centerの店内に異変が起きている。ガラスケースの中にはSamsungやWD、Corsairの高級メモリSSDがびっしりと並んでいる。品薄の気配はどこにもない。だが値札を見た瞬間、手が止まる。

Corsair Vengeance RGB DDR5-6400の128GBキットが4,199ドル(約66万8,000円)。PC1台がまるごと組める金額が、メモリだけに消えていく。隣に並ぶG.Skill Ripjawsの32GBモジュールは1枚で699ドル(約11万1,000円)、64GBキットで859ドル(約13万7,000円)。メモリに10万円を超える金額を払う自作ユーザーは、そう多くない。

SSD側も状況は同じだ。Samsung 9100 PRO SSDは2TBで679ドル(約10万8,000円)、8TBモデルは2,719ドル(約43万3,000円)。WD_Black SN8100も2TBが699ドル、4TBが1,272ドル(約20万2,000円)と、容量が大きくなるほど跳ね上がる。

この価格はMicro CenterのWebサイトでも確認されており、店舗特有の誤表示ではない。もはや「高めの値付け」で済む水準を超えている。

この情報はRedditのr/pcmasterraceコミュニティに投稿された店舗写真をきっかけに拡散した。投稿は2,200以上の賛成票と500件超のコメントを集め、PC自作界隈を騒然とさせている。

投稿者のHell-Diver7は棚が在庫で溢れている現状を指摘しつつ、「在庫不足と言いながら、どこもかしこもパンパンに詰まっている」と皮肉を込めた。コメント欄には「128GBで4,200ドル? PC全体よりメモリのほうが高い」「これは不足じゃない、価格操作だ」という声が並ぶ。


在庫があるのに高い──2020年GPU不足との決定的な違い

この状況が特異なのは、棚が空ではないという点だ。2020年のGPU不足を覚えている人は多いだろう。あのときは物理的にモノがなかった。入荷すれば即座に消え、手に入れること自体が困難だった。

今回のメモリ市場はまったく違う構造を持っている。店頭には製品が並んでいる。にもかかわらず、値段だけが異次元に跳ね上がっている。モノはある。ただし、「一般ユーザーが買える価格」では存在していない。

在庫が潤沢なのに価格が高騰する──この矛盾こそが、今回のメモリ危機の本質を物語っている。これは「供給不足」ではなく「供給の再配分」なのだ。

2020年のGPU不足は「棚が空」だった。今回は棚は満杯なのに買えない。この違いが、問題の根深さを示している。


AIがメモリを飲み込む構造

TrendForceの最新調査が、価格高騰の全体像を浮かび上がらせている。2026年第1四半期のDRAM契約価格は前四半期比で90〜95%上昇した。3か月で倍近くになる計算だ。

第2四半期もさらに58〜63%の上昇が予測されている。NAND Flashに至っては70〜75%の上昇が見込まれ、DRAMを上回るペースで値上がりしている。メモリの種類を問わず、「上がるかどうか」ではなく「どれだけ上がるか」だけが問題になっている。

この異常な価格上昇を引き起こしているのは、AI需要だ。SamsungSK HynixMicronの三大メモリメーカーは、利益率の高いサーバー向けDRAMHBM(広帯域メモリ)に生産能力を集中させている。Micronは2025年12月の決算発表で、顧客需要の55〜60%しか充足できていないと明かした。

特に深刻なのが、HBMDDR5の生産能力の競合だ。HBMは通常のDDR5に対してウェハー消費が3倍にのぼる。つまり、HBMを1つ作るたびに、一般消費者向けのDDR5を3つ分、作れなくなる。

AIデータセンター向けの注文が入るたびに、我々が使うPCメモリの供給が物理的に縮小していく。クラウド事業者は長期契約で供給を確保し、中小の買い手は割り当てすら受けられない状況が常態化している。

Sourceabilityのレポートによれば、2026年のハイパースケーラー8社のCapExは6,000億ドル超に達し、前年比40%増の見込みだ。この巨額投資の多くがGPUとメモリに向かっている。

クラウド事業者は長期契約で供給を確保し、中小の買い手は割り当てすら受けられない状況が常態化している。小売店の棚に製品が残っているのは、消費者が高すぎて買えないからであって、メーカーが消費者向けに十分な量を作っているからではない。


消費者市場への波及──スマホもPCも値上げへ

メモリ価格の高騰は、PC自作ユーザーだけの問題ではなくなっている。

TrendForceは2026年のスマートフォン生産台数を前年比2%減に下方修正した。当初は微増を見込んでいたが、メモリコストの上昇が端末価格を押し上げ、需要を冷やしている。ノートPCも2.4%減の見通しで、当初予測の1.7%増から大幅に悪化した。

HPのCFOは、PCの部品原価(BOM)に占めるメモリストレージの割合が、2025年の15〜18%から2026年には約35%にまで上昇したと明かしている。部品原価の3分の1以上がメモリに消える時代が来ているのだ。

低価格帯のスマートフォンでは、DRAMの搭載量が4GBに逆戻りする可能性もTrendForceは指摘している。数年かけて8GB、12GBと増えてきたメモリが、コスト圧力で減少に転じるという異例の事態だ。技術は前に進んでいるのに、ユーザーの手元に届く仕様は後退する。


いつまで続くのか

楽観的な見方をするなら、2026年後半にはいくらかの安定が見込まれている。TrendForceやその他のアナリストは、第3〜第4四半期に8〜15%の価格下落が起こりうるとの見方を示している。

だが、構造的な問題は短期では解決しない。Micronのアイダホ新工場は2027年まで本格稼働しない。SamsungSK Hynixも既存ラインの拡張は限定的だ。

SK Groupの会長はメモリチップの不足が2030年まで続く可能性に言及している。新たなFab建設には年単位の時間がかかり、今の需要に追いつく供給拡大は当面望めない。

それでも消費者向けの在庫が棚に残っているのは、価格が需要を押し潰しているからだ。誰も買わないから、モノだけが積み上がる。

Micro Centerの棚に並ぶ在庫は、この構造問題の断面にすぎない。メーカーは作っている。ただし、利益率の高い顧客のために。

Redditのあるコメントが、この状況を端的に言い当てていた。「棚はパンパンだ。不足なんかどこにもない」。そう、モノは確かにそこにある。ただし、それはもはや一般消費者のために作られたものではないのかもしれない。


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