NTT、海底ケーブルの容量を4倍にする光ファイバーを開発──太さは変えず
世界のデータ通信を支える海底ケーブルが、物理的な限界に突き当たっている。NTTが示した解決策は、ケーブルを太くすることではなかった。
世界のデータ通信を支える海底ケーブルが、物理的な限界に突き当たっている。NTTが示した解決策は、ケーブルを太くすることではなかった。
48心の壁を、内側から突破する
海底ケーブルの通信容量を4倍に引き上げる技術が、実用化に向けて動き出している。
NTTが開発した4コアマルチコア光ファイバー(MCF)は、従来の光ファイバーと同じ太さのガラスの中に、4つの独立した光の通り道を詰め込む。現行の海底ケーブルが収容できる光ファイバーは最大48心。この上限はすでに使い切られており、容量を増やすにはケーブルそのものを太くするしかないとされてきた。
だが、水深8,000メートルの超高圧に耐え、25年以上の運用を前提に設計される海底ケーブルにとって、「太くする」という選択肢は事実上存在しない。敷設船の設備、海底の接続機器、陸揚げ局の機材──すべてが現行の直径約20ミリを前提に構築されている。
NTTのアプローチはその制約を逆手に取った。ケーブルの構造を一切変えずに、光ファイバー1本あたりのコア数を1から4に増やす。48心×4コアで、合計192コア。構造は同じまま、容量だけが4倍になる。

MCFは空間分割多重技術の一種で、1本のファイバー内に複数の光路を設けることで伝送容量を拡大する。各コアは独立しているため、既存の伝送装置を4台並列接続するだけで運用できる。
「ケーブルだけ」では海底は変わらない
技術的に注目すべきは、MCFそのものだけではない。NTTが今回ラインナップ化したのは、商用導入に必要なシステム一式だ。
海底ケーブル本体に加え、MCFケーブルと従来の陸上ケーブルを接続する「海底ジョイントボックス」、海底でMCFケーブル同士をつなぐ「工場付ジョイントボックス」、そして通信局内で既存の光ファイバーと接続するための「MCFケーブル成端架」。これらが揃って初めて、実際のネットワークに組み込める。
過去の光通信技術には、ファイバー単体の性能では世界記録を叩き出しながら、周辺機器やインフラとの互換性が追いつかず実用に至らなかったケースが少なくない。NTTが「コア技術の進化」と「商用導入の物品ラインナップ」を同時に発表した背景には、その教訓がある。
この成果の一部は、2026年3月にロサンゼルスで開催された光通信技術の国際会議OFC 2026でトップスコア論文として発表された。学術的な新規性だけでなく、商用レベルの完成度が国際的に評価された形だ。
すでに始まっているMCFの実戦投入
NTTの4コアMCFが実用化を目指す2029年を待つまでもなく、マルチコア技術の海底ケーブルへの適用はすでに始まっている。
GoogleとNECは、台湾・フィリピン・米国を結ぶTPU海底ケーブルに2コアMCFを世界で初めて商用採用した。こちらはコア数2倍というアプローチで、NTTの4コアとは設計思想が異なるが、「ファイバーの太さを変えずに容量を増やす」という基本コンセプトは共通している。
GoogleがNECと共同でTPUケーブルに採用した2コアMCFは、海底ケーブル業界における初のMCF商用実装とされる。NTTの4コアMCFは、さらにその倍の容量拡大を同じ外径で実現する次世代技術だ。
海底ケーブルへの投資は加速している。2025年から2027年にかけて敷設が予定されている新規海底ケーブルの総投資額は130億ドル(約2兆円)を超えるとされ、AI・クラウド・動画配信のトラフィック爆発が背景にある。

一方で、海底ケーブルを取り巻くリスクも増している。フィンランドとドイツを結ぶ海底ケーブルの切断事件、イラン紛争によるMetaの2Africaケーブル計画の遅延など、地政学的リスクは年々深刻化している。ケーブルを増やすだけでは、もはや追いつかない。
敷設コスト「4分の1」の現実味
NTTが強調するのは、容量4倍がそのまま敷設コスト4分の1に直結するという試算だ。
海底ケーブルの敷設は、ルートの海洋調査から設計・製造、敷設船による工事まで数年がかりのプロジェクトになる。1本のケーブルで4倍の容量が確保できれば、追加の敷設回数を減らせる。さらに、4コアMCFは非結合型のため、各コアが独立して動作する。専用の伝送装置を開発する必要がなく、既存装置を並列接続するだけで運用できるという点も、導入のハードルを下げている。
ただし、「4分の1」はあくまで理論上の最大効果だ。海底ケーブルのコストには光ファイバー以外の要素──海洋調査、ルート選定、政治的交渉、保守体制の構築──が大きな割合を占める。容量が4倍になっても、それらの費用は変わらない。正直なところ、実際のコスト削減効果は「4分の1」よりはかなり控えめになるだろう。
それでも、同じインフラで4倍のデータを流せるようになることの意味は大きい。
NTTは2029年頃の実用展開を目指しており、まずは国内海底ケーブルへの適用を想定している。
光の通り道を増やす、という静かな革命
AIが演算性能を競い、半導体が微細化の限界に挑む2026年。テクノロジーの最前線は派手な見出しで溢れている。しかし、その膨大なデータを大陸間で運んでいるのは、海底に沈む直径2センチの物理的なケーブルだ。
NTTの4コアMCFは、その「通り道」を静かに4倍にする技術だ。華やかさはないが、5G、生成AI、動画配信──私たちが当たり前のように使っているサービスの基盤そのものを書き換える可能性を持っている。
2029年、この技術が海底に敷かれたとき、私たちの体感は何も変わらないかもしれない。だが、「何も変わらないこと」を支えるために、海の底では確実に何かが変わっている。
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