NVIDIA DLSS 5公式動画、イタリアTV局の著作権申請でYouTubeから消える

NVIDIAが自ら作った映像を、他人に「著作権侵害」と言われて削除される。YouTubeの著作権システムが生み出した、笑えない喜劇が始まった。

NVIDIA DLSS 5公式動画、イタリアTV局の著作権申請でYouTubeから消える
NVIDIA

NVIDIAが自ら作った映像を、他人に「著作権侵害」と言われて削除される。YouTube著作権システムが生み出した、笑えない喜劇が始まった。


自分の映像を「盗作」扱いされたNVIDIA

NVIDIADLSS 5公式発表動画が、YouTubeで一部の国からブロックされている。再生しようとすると「この動画にはLa7のコンテンツが含まれており、著作権上の理由でブロックされています」という表示が出る。

ここで誰もが目を疑う。DLSS 5の映像を作ったのはNVIDIA自身だ。La7はイタリアの民放テレビ局で、Cairo Communication傘下の報道・情報番組を軸とした地上波チャンネルである。La7がやったのは、NVIDIAGTC 2026に合わせて公開したDLSS 5発表トレーラーの映像を自局の放送で使い、その後YouTube著作権システムを通じて権利を主張したことだった。

結果、オリジナルの制作者であるNVIDIA GeForceチャンネルの動画が削除された。再生回数は230万回を超えていた。

DLSS 5は3月16日のGTC 2026で発表された、NVIDIAの次世代AIニューラルレンダリング技術だ。今秋のリリースを予定しており、RTX 50シリーズ専用となる。

この動画が消えたことで、DLSS 5に関する一次情報源のひとつが、一時的にアクセスできない状態だ。

Content IDが「先に作った人」を見ていない問題

YouTubeのContent IDシステムは、動画や音声のフィンガープリントを照合して著作権侵害を検出する仕組みだ。問題は、このシステムがアップロードの先後関係も本来の権利者も確認しないことにある。

La7が自局の放送素材としてNVIDIAの映像を登録した瞬間、Content IDはその映像を含むすべての動画を「La7のコンテンツを無断使用している」と判定した。NVIDIAの公式動画すら例外ではなかった。

https://x.com/NikTek/status/2040898312262324362

テックYouTuberのニクテックがこの事態をXで報告すると、被害報告が次々と集まった。ゲーム系クリエイターのデスティン・レガリエは「自分の動画は3月16日に投稿した。La7が映像を使ったのは4月4日だ」と指摘し、投稿日の前後関係すら確認されない仕組みに疑問を投げかけている。

テッククリエイターのザ・デゼンブロも、自身の動画がリージョンブロックされたことを報告し、「コンテンツ検出システムは完全に壊れている。誰でもこれができてしまう」と指摘した。


「AIが生成した映像に著作権はあるのか」

この騒動にはもうひとつ、皮肉な論点がある。DLSS 5のデモ映像は、AIニューラルレンダリングによって生成・強化されたものだ。一部のユーザーからは「そもそもAIフィルターで生成された映像に著作権は成立するのか」という声が上がっている。

AI生成コンテンツの著作権は、世界的に未整備な領域だ。米国著作権局は「人間の創作的関与」を著作権保護の条件としており、純粋なAI生成物には著作権が認められない可能性がある。

もちろん、DLSS 5の映像はゲームエンジンのレンダリング結果にAI処理を加えたものであり、「完全なAI生成」とは言い難い。だが、著作権をめぐる論争の渦中にある技術の映像が、まさにその著作権で殴り合いになっているのは、できすぎた皮肉だ。

DLSS 5GTC 2026での発表直後から「AIスロップ」「アートスタイルを破壊する」といった批判を浴びてきた。NVIDIAのCEOジェンスン・ファンは「まず、彼らは完全に間違っている」と反論し、開発者DLSS 5の適用範囲を細かく制御できると説明してきた経緯がある。

YouTubeの構造的欠陥が繰り返し露呈する

今回の件は、YouTube著作権システムの構造的な問題を改めて突きつけている。Content IDはフィンガープリントの一致だけで自動的に制限をかけ、異議申し立ての負担は被害者側が負う設計になっている。

NVIDIAほどの企業であれば、法務チームを動かして迅速に対処できるだろう。だが同じシステムで日常的に被害を受けている個人クリエイターには、その余裕がないケースがほとんどだ。ザ・デゼンブロが言うように「誰でもできてしまう」という事実が、問題の深刻さを物語っている。

放送局が他者の映像を使い、その映像の権利を主張し、本来の制作者がブロックされる。この一連の流れが自動化されたシステムの中で、人間のレビューをほぼ経ずに完結した。

YouTubeのContent IDは、権利者を守るために作られたシステムだ。だが今回、守られたのは「他人の映像を放送に使ったテレビ局」であり、ブロックされたのは「映像を作ったNVIDIA」だった。

おそらくこの問題は近いうちに解決される。NVIDIAとLa7の間で権利関係が整理されれば、動画は復活するだろう。だがこの一件が問うているのは、個別の解決ではなく、「先に申請した者が勝つ」という構造そのものだ。

230万再生の公式動画を一瞬で消せるシステムが、果たして「著作権を守っている」と言えるのだろうか。


参照元

関連記事

Read more

Corsair Strix Halo PCが突如1100ドル値上げ

Corsair Strix Halo PCが突如1100ドル値上げ

Corsair AI Workstation 300の最上位構成が、ひっそりと1100ドル(約17万5000円)値上げされた。発売から8か月、最上位モデルは事実上の別商品になっている。 発売価格2299ドルのモデルが、いつの間にか3399ドルになっていた PCハードウェアの価格が、また静かに書き換えられた。今回の主役はCorsairの「AI Workstation 300」。AMDのRyzen AI Max 300シリーズ、いわゆるStrix Haloを載せたコンパクトなAIワークステーションだ。2025年7月の発表時、最上位構成は2299ドル(約36万7000円)で売り出されていた。 それが今、Corsairの公式ストアでは3399ドル(約54万2000円)になっている。差額はちょうど1100ドル。日本円にしておよそ17万5000円が、何の説明もなく積み増された計算だ。 しかも値上げは最上位だけではない。下位構成までもが、揃って値札を書き換えられている。 全構成が値上げ、上位ほど跳ね上がる不思議な刻み方 VideoCardzとWccftechがほぼ同時に報じた内容を整

塗装なし、ラジオなし、電動窓なし。Slateの電気ピックアップは「引き算」で勝負する

塗装なし、ラジオなし、電動窓なし。Slateの電気ピックアップは「引き算」で勝負する

ベゾスが出資する新興EVメーカーSlate Autoの2人乗り電気ピックアップが、米国で実車レビューの段階に入っている。装備を削り、価格を抑え、カスタマイズは買い手に任せる。その潔さが、評価と疑問の両方を呼んでいる。 「ジップコードを持っているような巨体」から離脱した小型ピックアップ Slate Truckを最初に見た人間が口にする感想は、たいてい同じだ。「思ったより、ずっと小さい」。 The Vergeの自動車担当アンドリュー・J・ホーキンスが実車に触れたレポートを公開している。全長は174.6インチ、全幅は70.6インチ、全高は69.3インチ。重量は約3,602ポンド、つまりおよそ1,634キログラムだ。米国の大型ピックアップに慣れた目には、ほとんどミニカーに見える。 ホーキンスはこのサイズ感を、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でマーティ・マクフライが乗っていた1985年式トヨタSR5にたとえている。米国の道路に「自分専用の郵便番号」を持って走っているような巨大トラックが溢れる中で、Slateの小ささは挑発的ですらある。 Slateの全長はトヨタ・カローラよりおよ