PC出荷2.5%増は「駆け込み」IDCが年間11%減予測
2026年のPC市場が分岐点を迎えた。Q1の出荷台数は前年比2.5%増と一見好調だが、その実態は「値上がり前の駆け込み」だ。IDCは年間で11.3%の大幅減を予測し、安価なPCの時代の終わりを警告している。
2026年のPC市場が分岐点を迎えた。Q1の出荷台数は前年比2.5%増と一見好調だが、その実態は「値上がり前の駆け込み」だ。IDCは年間で11.3%の大幅減を予測し、安価なPCの時代の終わりを警告している。
数字だけ見れば好調、だが中身が違う
IDC(International Data Corporation)が4月8日に発表した速報データによると、2026年第1四半期の世界PC出荷台数は6560万台、前年同期比2.5%の成長だった。マクロ経済の悪化とメモリ不足が叫ばれるなかで、プラス成長を維持したこと自体は事実だ。
しかし、この成長を支えた要因を並べると、景色が変わる。IDCが挙げた3つの要因は、部品価格の上昇を見越した前倒し購入、Windows 10からの移行需要、そして新製品の投入。つまり「いま買わないと高くなる」という焦りが、数字を押し上げた構図だ。
Windows 10のサポートは2025年10月に終了済み。移行を先送りにしてきた企業・個人にとって、PC買い替えはもはや「やらなければならないこと」になっていた。
ここで見落としてはいけないのは、成長率そのものが急減速している点だ。2025年第4四半期は前年比10.3%増だった。それがわずか1四半期で2.5%まで縮んだ。グラフの傾きは、すでに下を向いている。
地域で割れる明暗――アメリカだけが沈んだ
地域別に見ると、成長の偏りは鮮明だ。EMEA(欧州・中東・アフリカ)は前年比7.4%増と堅調で、アジア太平洋も4.3%のプラスを維持している。
一方、アメリカ大陸は3.3%のマイナスに転じた。IDCはこの点について明確なコメントを避けているが、小売価格の上昇がすでに消費者の購買意欲を直撃していることは想像に難くない。成長しているように見える世界全体の数字は、実はアメリカの沈下をアジアと欧州が覆い隠しているだけかもしれない。
IDCのジャン・フィリップ・ブシャール(モバイルデバイス調査担当バイスプレジデント)は「2026年はマーケットシェアの移動が特徴になる」と述べ、メモリなどのコア部品を確保できるベンダーが勝ち残ると指摘した。
ベンダー別:ASUSが躍進、HPが後退
出荷台数のトップ5を見ると、勢力図に変化が起きている。首位のLenovoは1650万台でシェア25.2%、前年比8.6%増と安定した強さを見せた。3位のDellも1030万台で7.7%増、4位のAppleは620万台で9.1%増と勢いがある。
最大の躍進はASUSだ。480万台で前年比17.1%増、シェアを6.3%から7.2%に引き上げた。IntelのPanther Lake搭載ノートPCなど、新製品の積極投入が効いている。
逆に目を引くのがHPの後退だ。出荷台数は1210万台で前年比4.9%減、シェアも20.0%から18.5%に縮小した。5社中で唯一のマイナス成長であり、供給チェーンの対応力が問われる局面だろう。
| 2026年Q1 | 2025年Q1 | 前年比 | |||
|---|---|---|---|---|---|
| 出荷台数 | シェア | 出荷台数 | シェア | ||
| Lenovo | 1,650万 | 25.2% | 1,520万 | 23.8% | +8.6% |
| HP | 1,210万 | 18.5% | 1,280万 | 20.0% | −4.9% |
| Dell | 1,030万 | 15.7% | 960万 | 14.9% | +7.7% |
| Apple | 620万 | 9.5% | 570万 | 8.9% | +9.1% |
| ASUS | 480万 | 7.2% | 410万 | 6.3% | +17.1% |
| その他 | 1,570万 | 23.9% | 1,670万 | 26.1% | −6.2% |
| 合計 | 6,560万 | 100.0% | 6,400万 | 100.0% | +2.5% |
本当の問題はここからだ――年間11.3%減の予測
Q1の数字がかろうじてプラスだったとしても、IDCの年間予測は容赦がない。2026年通年のPC出荷台数は前年比11.3%減と見込まれている。この数字は、2025年11月時点の予測(マイナス2.4%)から大幅に下方修正されたものだ。
実数に置き換えれば、2025年の約2億8470万台から2026年は約2億5250万台へ、およそ3200万台の需要が蒸発する計算になる。Appleの年間出荷台数が約2500万台、Dellが約4100万台であることを考えれば、大手1社分に匹敵する規模だ。
しかも、この下方修正にはまだ「続き」がある。
メモリ不足は2027年まで続くとIDCは予測している。価格の緩和が始まるのは2028年以降で、2025年の価格水準に戻る見込みはない。
この予測がさらに厄介なのは、中東紛争の激化がまだ十分に織り込まれていない点だ。IDCシニアアナリストのアイザック・ンガティアは、中東紛争がPC市場に新たな不確実性を持ち込んだと指摘する。アジアとEMEAを結ぶ海上輸送は混乱が続き、航空貨物に切り替えればコストが跳ね上がる。最終的に、そのツケを払うのはPCを買うエンドユーザーだ。
台数は減っても売上は増える「逆転現象」
直感に反する話だが、出荷台数が11%以上減るにもかかわらず、PC市場の金額ベースでは成長が見込まれている。IDCはPC市場全体の売上を前年比1.6%増の2740億ドル(約43兆6000億円)と予測した。
台数が減って金額が増える。言い換えれば、1台あたりの単価が上がっている。メモリやストレージの高騰がそのまま製品価格に反映され、消費者が「同じ性能のPCに、より多く払う」時代が来ている。安価なPCの時代は当面終わったとIDCは明言した。
IDCのリサーチマネージャー、ジテシュ・ウブラニによれば、メモリ価格が2025年の水準に戻る見込みはない。構造的に高い平均販売価格と、それに伴う長期的な需要の軟化。これがPC市場の「新しい常態」になるという。
値上げの前に買うか、嵐が過ぎるのを待つか
今回のIDCのデータが示しているのは、第1四半期の成長が「最後のご褒美」だった可能性だ。メモリ危機、地政学リスク、コスト転嫁の三重苦が、これから本格的に消費者を直撃する。
ベンダーにとっての勝負は、部品の調達力と価格帯の幅広さ。消費者にとっての選択は、いまの在庫が残っているうちに動くか、2028年以降の価格安定を待つか。どちらが正解かは、まだ誰にもわからない。
ただひとつ確かなのは、「安くて良いPC」が当たり前だった時代が、すでに終わりつつあるということだ。
参照元