Raspberry Pi値上げ止まらず──16GBが305ドルに

「35ドルのコンピュータ」を掲げたあのRaspberry Piが、もはや別の製品になりつつある。LPDDR4メモリの価格が1年で7倍に高騰し、その波はついにホビイストの聖域まで飲み込んだ。

Raspberry Pi値上げ止まらず──16GBが305ドルに
Raspberry Pi

「35ドルのコンピュータ」を掲げたあのRaspberry Piが、もはや別の製品になりつつある。LPDDR4メモリの価格が1年で7倍に高騰し、その波はついにホビイストの聖域まで飲み込んだ。


16GB Pi 5が305ドル──「手が届く」の意味が変わった

Raspberry PiのCEOエベン・アプトンが2026年4月1日、Pi 4およびPi 5シリーズの大幅な値上げと、新たなPi 4 3GBモデルの投入を発表した。エイプリルフールと重なったタイミングだが、冗談ではない。アプトン自身がブログで「今日の日付にかかわらず、この新製品は他の製品と同じくらいリアルだ」と念を押している。

値上げ幅は容赦ない。4GBモデルが25ドル、8GBが50ドル、そして16GB Pi 5は100ドルの引き上げで305ドル(約4万8,200円)に達した。Compute Module 4/4S/5も軒並み11.25〜100ドルの上昇。AI HAT+ 2さえ50ドル上がった。

フラッグシップのPi 500+は150ドルの値上げという最大の打撃を受けた。

対象製品 メモリ 価格変動(2026年4月〜)
Pi 4 / Pi 51‑2GB据え置き($35〜65)
Pi 43GB新製品 — $83.75
Pi 4 / Pi 54GB+$25
Pi 4 / Pi 58GB+$50
Pi 516GB+$100 → $305
Pi 4004GB据え置き($60)
Pi 500+$50
Pi 500++$150
AI HAT+ 2+$50

※ CM4/4S/5も+$11.25〜$100の値上げ。Pi Zero・Pi 1/3/3B+/3A+は据え置き
出典:Raspberry Pi公式ブログ(2026年4月1日発表)

Raspberry Pi 5 16GBの価格推移:発売時120ドル → 2025年12月145ドル → 2026年2月205ドル → 2026年4月305ドル。わずか15ヶ月で2.5倍になった。

英国の正規販売店Farnellでは、Pi 5 16GBがVAT込みで275.18ポンド(約365ドル)。Pi Hutでは292.80ポンド(約389ドル)。税込みで400ドルに迫るシングルボードコンピュータ。この数字を見て「手頃な価格のコンピューティング」という言葉を思い浮かべる人は、もういないだろう。

LPDDR4が1年で7倍──AIが飲み込むメモリ市場

なぜここまで急激なのか。アプトンはブログで、Pi 4/5に使われるLPDDR4 DRAMの価格が過去1年間で7倍に膨れ上がったと明かしている。

背景にあるのは、AIデータセンターによるメモリの大量消費だ。シティグループは2026年のDRAM平均販売価格の上昇率予測を53%から88%に上方修正し、サーバー向けDRAMに至っては前年比144%の上昇を見込んでいる。HBM(高帯域幅メモリ)やサーバー向けDRAMに生産能力が集中した結果、PC・スマートフォン・組み込み向けといった「その他」のカテゴリが割を食っている構図だ。

Raspberry Piのような小規模バイヤーは、ハイパースケーラーとメモリチップの争奪戦をしても勝ち目がない。さらに中東情勢の不安定化がサプライチェーンの不確実性を増幅させている。正直なところ、値上げは避けられない判断だった。

3大DRAMメーカー(Samsung、SK Hynix、Micron)はHBMとサーバー向けに生産を優先配分しており、コンシューマーや組み込み向けの供給は構造的に逼迫している。

問題は、その「避けられない」が4ヶ月で3回も繰り返されていることだ。2025年12月に25ドル、2026年2月に最大60ドル、そして今回さらに最大100ドル。値上げのペースが加速しているという事実が、事態の深刻さを物語る。

3GB Pi 4という「苦肉の策」

値上げと同時に発表されたPi 4 3GBモデル(83.75ドル、約1万3,200円)は、Raspberry Piの苦悩を象徴している。

CNX Softwareの分析によれば、3GBのLPDDR4チップは市場にほぼ存在しないか極めて希少であり、先月導入されたデュアルRAM基板を活用して1.5GBチップ2枚で構成している可能性が高い。わざわざ存在しないメモリ容量の製品を作り出さなければならないほど、「必要以上のメモリに金を払わせたくない」という同社の意志は切実だ。

アプトンは「アプリケーションが本当に必要とするLPDDR4の量を慎重に見極める時代だ」と述べた。メモリを多めに積んでおくという、かつての常識はもう通用しない。

一方で、Pi 400(4GB/60ドル)、Pi 4/5の1GB・2GBモデル(35〜65ドル)は価格が据え置かれた。Pi Zero、Pi 1/3シリーズなどの旧製品も影響を受けていない。これらは古いLPDDR2 DRAMを使用しており、十分な在庫を確保しているためだ。

この在庫があるからこそ据え置きが可能なのであり、言い換えれば、在庫が尽きたときが次の転換点になる。

皮肉にも、旧世代のメモリを使う「古い製品」が、今もっとも価格競争力のあるRaspberry Piになっている。

「35ドルコンピュータ」の物語は終わったのか

Raspberry Piの公式ブログのコメント欄には、ユーザーの悲鳴が並んでいる。あるコメントは「AIバブルが超新星爆発して跡形もなく消えてほしい」と書いた。別のユーザーは「新しい趣味を探す時が来た」と去り際の言葉を残している。

感情的になるのは理解できる。だが、冷静に見れば、Raspberry Piは過去にもメモリ価格が下落した際に値下げを実施した実績がある。アプトンも「現在の状況は一時的なものだ」と繰り返し強調し、価格回復時には値上げを巻き戻すと約束している。

ただし、「一時的」がいつまで続くかは誰にもわからない。CNX Softwareは、OpenAIが当初の想定ほどメモリを購入しない可能性がある一方で、中東の戦争が短期・長期の供給混乱を招きうると指摘しており、見通しは不透明だ。

2024年6月にロンドン証券取引所に上場し、約1億6,600万ポンドを調達したRaspberry Pi。3月31日に発表された2025年度決算は好調だったが、メモリ市場の厳しさを警告している。上場企業として利益を追求する圧力と、「低コストで汎用コンピューティングを届ける」という創業の使命。その両立が、かつてないほど難しくなっている。

35ドルのコンピュータという物語は、まだ完全には終わっていない。Pi 4の1GBモデルは今も35ドルで買える。だが、それが「Raspberry Pi」と聞いて多くの人が思い浮かべる体験かどうかは、また別の問いだ。


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