Ryzen 9 9950X3D2に約1000ドルの価格が浮上
AMDの「怪物CPU」に値札が付き始めた。まだ公式価格すら発表されていないのに、カナダと英国の小売店がフライング掲載した価格は、多くのPCビルダーの財布を震わせるものだった。
AMDの「怪物CPU」に値札が付き始めた。まだ公式価格すら発表されていないのに、カナダと英国の小売店がフライング掲載した価格は、多くのPCビルダーの財布を震わせるものだった。
発売2週間前に漏れた価格の衝撃
4月22日の発売を控えるRyzen 9 9950X3D2 Dual Editionに、早くも小売価格が表示され始めている。最初にリスティングを発見したのは、ハードウェアリーク情報で知られる188号(@momomo_us)だ。
https://x.com/momomo_us/status/2040765963990384975
カナダの大手PCパーツ販売店PC-Canada.comは、このCPUを1,373.99カナダドル(米ドル換算約984ドル)で掲載した。同じくカナダのShopRBCも1,375カナダドル(約986ドル)とほぼ同額を提示している。ドル円160円換算で約15万7,000円だ。
英国のGamingKit.co.ukにも登場したが、こちらは同一ページに905.82ポンド(約1,196ドル)と725.40ポンド(約954ドル)という2つの価格が並ぶ混乱ぶりだった。後者はVAT(付加価値税)抜きの価格とみられる。いずれの販売店でも実際に購入することはできず、エンバーゴ(出荷制限)がかかった状態にある。
これらは暫定的なプレースホルダー価格であり、AMDの公式希望小売価格ではない。最終価格は発売日までに変動する可能性がある。
前世代との価格差が示すもの
現行のRyzen 9 9950X3Dは米国で699ドル、日本では発売時13万2,800円(税込)で販売された。今回リークされた約984ドルという価格が仮に正しければ、約300ドルの上乗せになる。
この価格差は、3D V-Cacheの製造コストを直接反映している。9950X3Dは2つあるCCDのうち片方にしか3D V-Cacheを載せていなかったが、9950X3D2は両方に搭載する。単純に考えれば、最もコストのかかる部品が2倍になったわけだ。
日本での販売価格については、9950X3Dの例に倣うと米国価格に対して円換算よりやや高めに設定される傾向がある。日本での発売もグローバルと同じ4月22日の見込みで、15万円台後半から17万円前後がひとつの目安になりそうだ。
Ryzen 9 9950X3D2は、コンシューマー向けデスクトップCPUとして初めて両方のCCDに3D V-Cacheを搭載した製品だ。L3キャッシュは192MB、L2を含めた総キャッシュ容量は208MBに達する。
デュアル3D V-Cacheが解決する「あの問題」
| 9950X3D | 9950X3D2 | |
|---|---|---|
| コア | 16C / 32T | 16C / 32T |
| ブースト | 5.7GHz | 5.6GHz |
| L3 | 128MB | 192MB |
| 総キャッシュ | 144MB | 208MB |
| V-Cache | 片側CCD | 両側CCD |
| TDP | 170W | 200W |
| 価格 | $699 | 未公開 |
スペックシートだけを見ると、9950X3D2と9950X3Dの違いはそれほど大きくない。コア数は同じ16コア/32スレッド、ベースクロックも4.3GHzで変わらない。ブーストクロックはむしろ5.7GHzから5.6GHzへ100MHz低下し、TDPは170Wから200Wに増えている。
数字の上では地味だ。だが、問題はそこじゃない。
9950X3Dには構造的な弱点があった。3D V-Cacheが片方のCCDにしか搭載されていないため、ゲームが「キャッシュなし」のCCD側で走ると性能が落ちる。ユーザーはXbox Game Barなどを使って手動でコアの割り当てを管理する必要があり、実質的に8コアCPUとして使う場面も少なくなかった。
9950X3D2はこの非対称設計を根本から改める。両方のCCDに64MBずつの第2世代3D V-Cacheを積むことで、どのコアで処理が走ってもキャッシュの恩恵を受けられる。「ゲームかクリエイティブか」ではなく「両方」を、設定なしで実現する設計だ。
性能向上は控えめ、AMDも承知のうえ
ただし、ここで冷静になる必要がある。AMDが公開したベンチマーク数値を見ると、9950X3Dとの差はレンダリングで約7%、動画編集で6%、AIシミュレーションで10%、コンパイルで6.5%にとどまる。「劇的な飛躍」ではない。
しかもこの向上分の一部は、TDPが30W増えたことに起因している可能性が高い。3D V-Cacheの追加によるキャッシュヒット率の改善というよりも、単純に電力枠が広がった結果のパフォーマンス増とも解釈できる。
興味深いのは、AMDがこのCPUのゲーミング性能をほとんどアピールしていない点だ。公式発表では「開発者とクリエイター向け」と明確に位置づけており、ゲームベンチマークは一切提示されていない。
AMDのジャック・ヒュイン上級副社長は、9950X3D2が真価を発揮するのは「超高速データアクセスが求められるワークロード」、つまり大規模ソフトウェアビルドやゲームエンジンのコンパイル、3Dレンダリングだと述べている。
競合不在という「最強の価格決定力」
約1,000ドルという価格は高い。だが、この製品にはひとつ決定的な強みがある。競合が存在しない。
Intelは最近、Core Ultra 200S Plusシリーズを299ドル前後で投入し、ゲーミング市場でのコストパフォーマンスを訴求している。だが、ハイエンド帯でのCore Ultra 9 290K Plusの計画はなく、X3Dに対抗する「キャッシュモンスター」は影も形もない。次世代のNova Lake-Sでデュアルキャッシュ設計の噂はあるものの、実現はまだ先の話だ。
AMDにとって、9950X3D2は販売台数を追うチップではない。Ryzen 9000シリーズの「頂点」として存在するだけで、ブランド全体の求心力になる。ハロー製品としての役割を考えれば、1,000ドル前後の価格設定は理にかなっている。
4月22日に見えてくるもの
Socket AM5対応で既存マザーボードにそのまま載る。DDR5もPCIe Gen 5も変わらない。200WのTDPは360mm以上のAIO水冷を前提とするが、それ以外にシステム構成を大きく変える必要はない。
大半のゲーマーにとってはRyzen 7 9850X3Dのほうが賢い選択だろう。9950X3D2が刺さるのは、16コアのマルチスレッド性能とキャッシュ感度の高いワークロードを同時に必要とする、ごく一部のユーザーだ。
AMDはまだ公式価格を明かしていない。4月22日のレビュー解禁で、ゲーミング性能の実測値とともに最終価格が明らかになる。小売店のフライング掲載が「高すぎた」のか「妥当だった」のか、答えが出るのはあと2週間後だ。
参照元
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