Samsung BM9K1が示すSSDの次の一手──RISC-V搭載コントローラの狙い
SamsungがSSDの頭脳を入れ替えた。ArmベースからオープンソースのRISC-Vへ。その選択の先に見えるのは、速度だけではない未来だ。
SamsungがSSDの頭脳を入れ替えた。ArmベースからオープンソースのRISC-Vへ。その選択の先に見えるのは、速度だけではない未来だ。
QLC×PCIe 5.0×RISC-V──3つの賭け
Samsungが新型SSD「BM9K1」を、中国で開催されたChina Flash Market Summit 2026(CFMS 2026)で披露している。PCIe 5.0対応のQLC(Quad-Level Cell)SSDという位置づけだが、注目すべきはスペックシートの数字ではない。

このドライブの心臓部に、同社が初めてRISC-Vアーキテクチャの自社設計コントローラを搭載した点だ。従来のArmベースから、オープンソースの命令セットへと舵を切る。SSDコントローラという、ユーザーの目に触れることのない部品で起きた静かな転換だが、その意味は小さくない。
Samsungはこのドライブを「パーソナルAIコンピューティング」向けと謳っている。正直なところ、2026年のストレージ業界で「AI」の文字がつかない製品発表を探す方が難しい。だが、この肩書の妥当性は後ほど検証する。
読み出し11.4GB/s──数字が語ること、語らないこと
BM9K1のシーケンシャル読み出し速度は最大11.4GB/s。前モデルのBM9C1がPCIe 4.0で約5GB/sだったことを考えれば、約1.6倍の性能向上になる。PCIe 5.0の帯域をフル活用した結果だ。
BM9K1の主要スペック:PCIe Gen5(NVMe)、QLC NAND、最大読み出し11.4GB/s、エネルギー効率は前世代比23%向上。容量は512GB・1TB・2TBの3モデル展開で、2027年発売予定。
ただし、ここで一つ見過ごせない事実がある。書き込み速度が非公開なのだ。
QLC NANDは1セルに4ビットを格納する構造上、TLC(3ビット)に比べて書き込み性能と耐久性に弱点を抱える。読み出しの数字だけを前面に出し、書き込みを伏せる姿勢は、少なくとも慎重な見方を要する。ストレージの実力は、都合の良い数字だけでは測れない。
なぜRISC-Vなのか──コントローラ革命の本質
技術的に最も興味深いのは、ArmからRISC-Vへの移行だ。
SSDコントローラは、NANDフラッシュの読み書きを管理し、ウェアレベリング(書き込み均等化)やエラー訂正を担う、いわばSSDの「脳」にあたる。これまでSamsung含む主要メーカーはArm系コアを採用してきたが、BM9K1では自社設計のRISC-Vコントローラに切り替えた。
RISC-Vはオープンソースの命令セットアーキテクチャで、ライセンス料が不要。設計の自由度が高く、特定用途への最適化が容易という特徴を持つ。
Samsungによれば、RISC-Vの採用によりQLC NAND管理やAIワークロード特有のI/Oパターンに合わせたファームウェアの最適化が可能になり、前世代比で23%のエネルギー効率向上を達成した。ノートPCや小型フォームファクタPCにとって、消費電力の削減は速度向上と同じくらい切実な問題だ。
この動きの背景には、Armのライセンスコスト上昇もあるだろう。SSD1台あたりの利幅が薄い大量生産品において、コントローラのライセンス構造を根本から変えることは、技術的な判断であると同時にビジネス上の判断でもある。
「パーソナルAI」は本物か、マーケティングか
Samsungが掲げる「パーソナルAIコンピューティング」という用途。Tom's Hardwareのコメント欄では、早速「ただのGen5 SSDだろう。マーケティング用語の乱用だ」という声が上がっている。
Samsung preps PCIe 5.0 QLC SSD with a controller based on open-source RISC-V architecture — BM9K1 delivers speeds up to 11.4 GB/s for 'personal AI workloads' https://t.co/ghUYch91RX
— Tom's Hardware (@tomshardware) March 28, 2026
一面では正しい。ローカルAIモデルの読み込みは本質的にシーケンシャルリードであり、「AI最適化」と呼ぶほど特殊なアクセスパターンではない。40GBのMKVファイルを読み込む速度と、40GBのAIモデルをVRAMに展開する速度は、SSD側から見ればほとんど同じ作業だ。
ただし、別の視点もある。ローカルでAI推論を走らせるユーザーが増えている現実は否定できない。データセンターだけの話だった大規模モデルが、デスクトップやハイエンドノートPCに降りてきている。その文脈で「高速読み出し+低消費電力」のQLC SSDは、たとえ「AI専用」ではなくとも、確かにこのワークロードと相性がいい。
要するに、ハードウェアとしての実力と、マーケティングの装飾は分けて評価すべきだ。「AI向け」という看板を外しても、BM9K1の技術的な挑戦には見るべきものがある。
Micronとの静かな先陣争い
BM9K1は、PCIe 5.0×QLC SSDという新カテゴリに参入する2番目の製品だ。先行するのはMicronの3610で、2026年1月のCESで発表済み。すでにOEMパートナーへのサンプル出荷を開始している。
両者を並べると、読み出し速度ではBM9K1が11.4GB/sでわずかにリード。一方、Micron 3610は書き込み9.3GB/sを公表し、最大容量も4TBと大きい。BM9K1は書き込み非公開で最大2TB。現時点では、Micronの方が「見せている情報量」で上回っている。
なお、Samsung自身のTLCモデルである9100 Proは読み出し14.8GB/sに達する。QLC版のBM9K1はその下位に位置づけられるが、コスト面ではQLCの4ビット/セル構造がGB単価を押し下げる。速度を取るか、容量単価を取るか。この選択肢を提示すること自体が、BM9K1の存在意義かもしれない。
2027年という距離感
発売は2027年。価格もフォームファクタも未公表だ。
現在のストレージ市場は、AI需要によるNAND供給逼迫と価格高騰の渦中にある。SK Groupの崔泰源会長が「メモリ不足は2030年まで続く」と発言し、Western Digitalは2026年分のHDD出荷を完売済みと報じられている。この環境下で、1年以上先の製品ロードマップがどこまで意味を持つかは慎重に見る必要がある。
とはいえ、Samsungがこのタイミングで発表した意図は明確だ。PCIe 5.0 QLC市場でMicronに先行されたくないという意思表示であり、RISC-Vコントローラという技術的な方向性を業界に示すデモンストレーションでもある。
製品が手元に届くのはまだ先の話だ。だが、ArmからRISC-Vへという静かな地殻変動は、SSD業界の次の10年を形作る一手になるかもしれない。その判断が正しかったかどうかを知るには、もう少し時間が要る。
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