水中ドローン脅威に米英が動く—4月3日締め切りで技術公募
ペルシャ湾では今、空爆と並行して「見えない戦線」が広がっている。水中を這うドローンが石油タンカーを狙い始めた今、米英は港の防衛技術を民間企業に緊急公募している。
ペルシャ湾では今、空爆と並行して「見えない戦線」が広がっている。水中を這うドローンが石油タンカーを狙い始めた今、米英は港の防衛技術を民間企業に緊急公募している。
イランが水面下で仕掛けた「もう一つの戦線」
2026年2月28日、米国とイスラエルがイランへの攻撃を開始した。その翌月、ペルシャ湾では予想通りの報復が始まった——ただし、それは空からではなく、水中からだった。
3月1日、オマーン沖44海里で原油タンカーが攻撃を受けた。続く3月5日には、イラクのホル・アル・ズバイル港付近でバハマ船籍のタンカーが爆発した。イランは関与を認め、水中ドローンによる攻撃だと明言している。
イランは2024年、魚雷型ドローンや「片道攻撃型」水中ドローンをイエメンのフーシ派に供与していたことが確認されており、その兵器が今や中東の海上交通路に広く浸透している状態だ。
空爆ならレーダーで捕捉し、迎撃ミサイルで対処できる。だが水中を静かに進む無人水中機(UUV)は、そのどちらも通じない。見えない脅威には、見えない対策が必要だ。
REEFとは何か:港を守る4つの壁
この状況を受け、米国防省の国防イノベーション局(DIU)と英国防省が本格的に動いた。両国が共同で打ち出したのが、水中ドローン脅威に対処する包括的な技術公募プログラムだ。
REEF(Robotic Exclusion and Engagement Framework)と呼ばれるこの仕組みは、民間企業から技術を直接公募する形式をとり、規模の大小を問わず参加できる。英国側の審査はjHub(国防省サイバー&専門作戦コマンドのイノベーションチーム)が担い、英米双方の防衛ニーズに合致する技術を選定する。
締め切りは4月3日。現在進行中の紛争が、このプログラムに異例の緊張感を与えている。
求められる技術は4つの柱で構成されている。第一の「検知・追跡・識別」では、センサーが水中の脅威を捕捉し、海洋生物や商船との誤識別を抑えることが求められる——ここにはAI/MLを活用した脅威分類も含まれる。第二の「無力化手段」では、ネットやバブルカーテンといったノン・キネティック(非破壊的)手法が優先される。
REEFが「デコイ」技術に特に高い関心を示しているのは興味深い。敵のUUVを混乱させる囮システムは低コストで実現できる可能性があり、高額な迎撃装備に依存しない防衛オプションとして注目を集めている。
第三は暗号化を施した安全なデータ伝送、第四はAIを組み込んだ指揮統制(C2)システムだ。後者には「AIが推奨行動を提示し、なぜその行動を勧めるのかを説明できること」という要件が課されている。自動化が進んでも、最終判断は人間が行う——その原則を崩さない設計だ。
ウクライナが証明した水中ドローンの破壊力
この脅威を「仮想シナリオ」と見なすことは、もはやできない。ウクライナ軍はすでに実戦でその破壊力を証明している。
黒海沿岸のノヴォロシースク港に停泊中だったロシアのキロ級潜水艦が、水中ドローンによる攻撃で航行不能に陥ったとされる。衛星画像は岸壁の激しい損傷を映しており、港湾内に停泊する艦艇でさえ安全ではないことを世界に印象づけた。
この攻撃に使われた水中ドローンは「Sub Sea Baby」と呼ばれ、全長約6m、積載量約1トン、航続距離は最大1,000kmに達するとされる。小型ながら、大型潜水艦を乗組員を危険にさらすことなく無力化できる可能性がある。
1機あたり数万ドルの兵器が、数百億円の資産を港で沈める。このコスト非対称性こそが、水中ドローン問題の核心だ。迎撃ミサイルを消耗させてきた空中ドローンと同じ構造が、水面下でも再現されようとしている。
英国の布石と「ポセイドン」という対極
英国はREEFに技術提供を求めるだけでなく、すでに独自の水中ドローン開発を進めている。BAEシステムズが手がける「Herne(ハーン)」は超大型自律型水中機(XLAUV)と呼ばれ、任務に応じて搭載物を換装できる多目的設計だ。「Excalibur(エクスカリバー)」も同様のカテゴリに位置する。どちらも自爆型ではなく、繰り返し使える前提で設計されている。
対してロシアのポセイドンは次元が異なる。全長20m、航続距離1万km、核弾頭を搭載したこの兵器は「港湾都市そのものを壊滅させる」ことを目的とする。REEFが想定しているのはポセイドンではない——イランやフーシ派が使うような小型で入手しやすいUUVだ。
ただし、その境界線はいつまで維持されるだろうか。技術が普及するほど、「小型・安価・致死的」という組み合わせがより多くの主体に行き渡っていく。
技術より先に問われること
DIUの公募要項には、現状への率直な評価が記されている。
「現状の解決策は断片的で、コストが高く、数が少ない」——これは米軍が自らの弱点を公式に認めた言葉だ。センサーも、対処手段も、指揮統制も、いまだバラバラのまま運用されている。
REEFはその断片を「体系化」するための試みだ。しかし、4月3日という締め切りは、体系化の余裕があるかどうかを問うていない。むしろ緊急要請に近い。
民間のイノベーションが、静かに進む新しい海上戦争のルールを書き換えられるかどうか。その答えは、まだ水面下にある。
参照元
他参照