塗装なし、ラジオなし、電動窓なし。Slateの電気ピックアップは「引き算」で勝負する
ベゾスが出資する新興EVメーカーSlate Autoの2人乗り電気ピックアップが、米国で実車レビューの段階に入っている。装備を削り、価格を抑え、カスタマイズは買い手に任せる。その潔さが、評価と疑問の両方を呼んでいる。
「ジップコードを持っているような巨体」から離脱した小型ピックアップ
Slate Truckを最初に見た人間が口にする感想は、たいてい同じだ。「思ったより、ずっと小さい」。
The Vergeの自動車担当アンドリュー・J・ホーキンスが実車に触れたレポートを公開している。全長は174.6インチ、全幅は70.6インチ、全高は69.3インチ。重量は約3,602ポンド、つまりおよそ1,634キログラムだ。米国の大型ピックアップに慣れた目には、ほとんどミニカーに見える。
ホーキンスはこのサイズ感を、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でマーティ・マクフライが乗っていた1985年式トヨタSR5にたとえている。米国の道路に「自分専用の郵便番号」を持って走っているような巨大トラックが溢れる中で、Slateの小ささは挑発的ですらある。
Slateの全長はトヨタ・カローラよりおよそ7インチ短く、Ford Maverickより25インチも短い。同じ「ピックアップ」というカテゴリーで括ること自体が、すでに不誠実かもしれない。
しかし、内側に乗り込むと印象が変わる。身長6フィート(約183センチ)を超えるホーキンス本人が、頭上にも足元にも余裕があると驚いている。
設計思想は「6フィート1インチの壁」を越えるところから始まった
その室内空間は偶然の産物ではない。Slateのデザイン責任者ティシャ・ジョンソンによれば、多くの自動車は身長6フィート1インチ(約185センチ)程度を上限として室内を設計している。Slateはそこを意図的に超えにいった。
「もっと広く、もっと快適な空間を作りたかった」とジョンソンはホーキンスに語っている。それは、ユーザビリティとアクセシビリティという同社の設計哲学の延長線上にある。
ここに、Slateというプロジェクトのねじれがある。装備は徹底的に削るのに、人間が座る空間だけは妥協しない。何を残し、何を捨てるかの優先順位が、明らかに普通のメーカーとは違う方向を向いている。
便利装備のリストは、見ているだけで不安になるほど短い。塗装なし、ラジオなし、スピーカーなし、電動窓なし、セルラー通信なし。インフォテインメント画面に至っては、そもそも存在しない。法令で義務付けられた警告音用の小さなスピーカーが1つあるだけだ。
| 装備 | 標準搭載 |
|---|---|
| ボディ塗装 | × |
| インフォテインメント画面 | × |
| ラジオ・スピーカー | × |
| 電動窓 | × |
| セルラー通信 | × |
| 車載ナビ | × |
| エアコン・ヒーター | ○ |
| スマートフォンマウント | ○ |
| 法令義務の警告音スピーカー | ○ |
「みんなが払う必要はない」という割り切り
なぜここまで削るのか。Slateの答えは単純だ。「一部の人しか使わない機能のために、全員に費用を負担させる必要はあるのか」という問いである。
音楽を聴きたい人間は、自分でBluetoothスピーカーを取り付ける。車内はそのための設計になっている。ナビが欲しければスマートフォンを使えばいい。ダッシュボードには電話を固定するための場所が用意されている。
この発想は、自動車業界の常識を裏返したものだ。これまでメーカーは「あれもこれも標準装備」を競い、それを価格に転嫁してきた。Slateはその流れを一度ゼロに戻し、最低限の骨格だけを売り、あとは買い手に任せるモデルを試している。
カスタマイズの選択肢は100種類を超える。ラッピング、デカール、ホイール、サスペンションのリフトとローダウン、そして2人乗りピックアップを5人乗りSUVに変身させる「SUV化キット」まで用意されている。追加のベンチシートとエアバッグを含めて、価格はおよそ5,000ドル前後と伝えられている。日本円に直せば、約80万円だ。
「Blank Slate」と呼ばれる出荷時の状態は、塗装されていない灰色の樹脂パネルに、すり傷や打痕がいくつも残ったむき出しの姿だ。完成品ではなく、素材として届く。
引き算の代償は航続距離に出る
ただし、ミニマリズムには代償がある。Slateの直立した箱型ボディは、空気抵抗の面では明らかに不利だ。最近のEVが軒並み水滴のような流線形に寄っているのは、空気抵抗が航続距離に直結するからだ。
バッテリーは2種類用意されている。標準の53kWhで航続距離はEPA推定約150マイル、つまり約240キロメートル。延長版の84kWhで約240マイル、約386キロメートルだ。いずれもSK On製のニッケル・マンガン・コバルト系セルを使う。
| 標準 | 延長 | |
|---|---|---|
| バッテリー容量 | 53kWh | 84kWh |
| 航続距離(EPA) | 約150マイル | 約240マイル |
| 航続距離(km換算) | 約240km | 約386km |
| セル種 | NMC | NMC |
| セル供給元 | SK On | SK On |
ホーキンスの評価は手厳しい。この数字は、率直に言って2026年のEVとしては見劣りする。同価格帯のシボレー・ボルトEVは最大260マイル走り、しかも電動窓もラジオも車載ナビも備えている。
Slateが捨てたものを、他社は同じ値段で全部載せてくる。この比較から目を背けるわけにはいかない。
ジョンソンは、これらのトレードオフは「人々が実際にこのトラックをどう使うかについての明確な理解」から来ていると説明する。想定されているのは、長距離ドライブではなく、街乗りと通勤の足だ。割り切りには、たしかに筋が通っている。
「2万ドル以下」の看板が消えた後の戦い
Slateの計算をさらに難しくしているのは、米国の政策変更だ。
当初Slateは、連邦政府の7,500ドルEV税控除を組み合わせれば2万ドルを切ると宣伝していた。日本円に換算すると約320万円。それが最大の売り文句だった。
しかし「One Big Beautiful Bill Act」が連邦のEV補助金を打ち切ったことで、この前提は崩れた。Slateは「2万ドル以下」という訴求を取り下げ、現在は「ミッド・トゥエンティーズ」、つまり2万5,000ドル前後を新たな目標として掲げている。日本円なら、おおむね400万円といったところだ。
CEOのクリス・バーマンは、最終価格はまだ正式には決まっていないと認めている。サプライヤーとの交渉を続けており、削れるコストは最後まで削った上で買い手に還元したい――というのがバーマンの説明だ。Slateは2026年6月下旬に最終価格を発表する予定だと示唆している。
| 当初 | 現在 | |
|---|---|---|
| 提示価格 | 2万ドル以下 | 2万ドル台中盤 |
| 日本円換算 | 約320万円 | 約400万円 |
| 前提条件 | 連邦EV税控除適用 | 控除なし |
| 最終価格発表 | — | 2026年6月下旬予定 |
それでも安いことには変わりない。だが、当初描いた「2万ドル以下」の衝撃とは、温度感が違う。同等価格で「普通の装備」が一通り揃った車を選べる消費者に、あえて「不便を買う自由」を選ばせなければならなくなった。
誰のための車か、というシンプルな問い
ホーキンスは記事の中で、自分自身がこのトラックに長く懐疑的だったと正直に書いている。塗装なし、ラジオなし、電動窓なし、セルラー通信なしの2人乗り電気ピックアップ。「これは一体、誰のためのものなのか」と。
その問いは、いまも完全には消えていない。中位価格帯のガソリン車にだってラジオもナビも付いてくる時代に、Slateは「スパルタン」と「無味乾燥」のあいだの細い線の上を歩いている。
それでも、Slateの試みには考える価値がある。自動車業界が長いあいだ問わなくなった問いを、もう一度突きつけているからだ。トラックに本当に必要なものは何か。買い手に渡すべき選択権はどこまでか。電気自動車は、なぜここまで高価で複雑になったのか。
予約はすでに15万件を超えており、最初の納車は2026年の終わりごろが予定されている。Slateの賭けが正しかったかどうかは、それから明らかになる。
引き算は、確かに美しい。それを毎日運転して暮らせるかどうかは、まったく別の話だ。
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