SMIC、イラン軍へ半導体製造装置を供与か──米政権高官が証言
半導体の輸出管理は、もはやチップそのものの話ではない。「チップを作る力」の移転が、新たな火種になりつつある。
半導体の輸出管理は、もはやチップそのものの話ではない。「チップを作る力」の移転が、新たな火種になりつつある。
中国最大のファウンドリが越えた一線
中国最大の半導体受託製造企業SMIC(中芯国際集成電路製造)が、イランの軍事産業複合体に対して半導体製造装置を供与している疑いが浮上している。2026年3月27日、トランプ政権の高官2名がロイターに対して証言した内容が、半導体の輸出管理に新たな波紋を広げている。
装置の移転は約1年前、つまり2025年春ごろに始まったとされる。高官の1人は「停止したと考える理由はない」と述べており、現在も継続している可能性が高い。さらに、装置の提供にとどまらず、SMICの半導体技術に関する技術訓練もほぼ確実に含まれていたという。
これは単なる「モノの輸出」ではない。半導体を製造する能力そのものの移転だ。完成品のチップを渡すのと、チップを作る装置と知識を渡すのでは、意味がまるで違う。
高官らは匿名を条件に、これまで非公開だった米政府の情報に基づいて発言した。装置が米国由来のものかどうかは確認されていないが、もしそうであれば、SMICに対する既存の制裁に抵触する可能性がある。
戦時下で浮上した「垂直統合型」の疑念
この報道のタイミングは偶然ではないだろう。2026年2月28日、米国とイスラエルはイランに対する大規模な軍事作戦を開始した。装置の移転が始まったとされる時期は、この開戦の数カ月前に遡る。
高官によれば、装置はイランの「軍事産業複合体」に提供され、チップを必要とするあらゆる電子機器に応用可能だという。だが、その装置がイランの戦時対応にどのような役割を果たしたかは、現時点では不明だ。
問題の本質は、個別の取引にとどまらない。ロイターは2月にも、イランが中国から対艦巡航ミサイルの購入交渉を進めていたと報じている。中国のBeiDou衛星がイランのミサイル誘導に使われているとの指摘、中国産の過塩素酸ナトリウムが固体燃料ロケットの推進剤として供給されているとの分析もある。
個々のピースを並べると、ひとつの構図が見えてくる。衛星測位、推進剤、センサー、そして今回の半導体製造装置。これが「同盟」でないとすれば、何と呼ぶべきなのか。
制裁の壁を越えて進むSMICの軌跡
SMICは2020年、第1次トランプ政権によって米国の貿易ブラックリスト(エンティティリスト)に追加された。中国政府の軍民融合戦略への加担が理由とされたが、SMIC側は一貫して軍事との関連を否定してきた。
エンティティリスト掲載により、SMICは10nm以下の先端半導体製造に必要な米国製装置の輸入が原則不許可となった。Lam Research、KLA、Applied Materialsといった主要装置メーカーからの調達が事実上遮断されている。
しかし、制裁はSMICの歩みを完全には止められなかった。2023年末、SMICが第2世代7nmクラスのプロセスでHuaweiのMate 60 Pro向けチップを製造していたことが判明し、業界に衝撃を与えた。バイデン政権は2024年にSMICの最先端工場への追加制裁を実施。2025年6月には台湾もSMICとHuaweiを戦略的ハイテク物資のエンティティリストに追加し、包囲網はさらに狭まっていた。
その包囲網の内側で、SMICはイランへの装置供与という選択をしていたことになる。
北京の「中立」はどこまで本当か
中国政府は、イランとの取引は「通常の商業貿易」だと主張し、中東紛争では公式にはいずれの側にも立っていない。王毅外相は今週、紛争当事者に対して「あらゆる機会を捉えて和平交渉を開始すべきだ」と呼びかけた。
だが、言葉と行動の間には溝がある。この報道が事実であれば、中国最大のファウンドリが制裁下にありながら、米国と敵対する国の軍事産業に製造能力を提供していたことになる。「中立」という看板と、実態との乖離は無視できない。
SMICと在ワシントン中国大使館、国連イラン代表部は、いずれもロイターのコメント要請に応じていない。
注目すべきは、この情報が公開されたタイミングだ。4月6日にはトランプ大統領が設定したイランのエネルギー施設への攻撃停止期限が迫り、5月14〜15日には北京で米中首脳会談が予定されている。機密情報の「解禁」は、収集された時点ではなく、外交カードとして最も効果的なタイミングで行われる。
半導体が「武器」になる時代の輪郭
この一件は、半導体の輸出管理が新しい段階に入ったことを示している。これまでの規制は、完成品のチップや、先端チップを作るための装置が対象だった。だが今回疑われているのは、制裁対象企業が第三国に製造能力そのものを移転するという構図だ。
チップは消費される。だが製造装置と技術訓練は、能力として蓄積される。仮にイランが自前で半導体を量産する力を得れば、それはミサイルの誘導系にも、ドローンの制御系にも、通信機器にも使える。制裁の「穴」がひとつ開けば、そこから流れ出すものは装置だけではない。
米中対立、中東紛争、そして半導体の輸出管理。三つの力学が一点で交わるこの事案が、今後どう展開するか。答えが出るのは、おそらく北京の会議室だ。
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