Switch 2「30%減産」報道の裏側──Bloombergと任天堂の因縁

Bloombergが伝えたSwitch 2の大幅減産。だが、この報道を額面通りに受け取るべきかどうかは、もう少し慎重に考えたほうがいい。

Switch 2「30%減産」報道の裏側──Bloombergと任天堂の因縁
任天堂

Bloombergが伝えたSwitch 2の大幅減産。だが、この報道を額面通りに受け取るべきかどうかは、もう少し慎重に考えたほうがいい。


Switch 2の今期生産が600万台から400万台へ

Bloombergが3月24日(日本時間)に報じた内容は、ゲーム業界に衝撃を与えている。Nintendo Switch 2の2026年1〜3月期の生産台数が、当初計画の600万台から約400万台へ削減されるという。減産は4月以降も継続する見通しだと、匿名の関係者が語ったとされる。

Nintendo Cuts Switch 2 Output by Over 30% on Weak US Sales
Nintendo Co. is cutting back the production of Switch 2 after demand for the $450 gaming console trailed the company’s expectations during the year-end holiday season, particularly in the US.

報道を受けて、任天堂の株価は後場に急落し、一時前日比6.3%安の8,835円を記録した。市場はこの数字をネガティブに受け止めた格好だ。

だが、少し立ち止まって考えたい。非ホリデーシーズンの四半期に600万台という生産計画は、そもそもかなり強気だった。昨年10〜12月のホリデー四半期でさえ701万台だ。それと大差ない数字を1〜3月に見込んでいたとすれば、下方修正が入ること自体はむしろ自然な在庫調整ではないか。


記者・望月崇氏の「前科」を知っておくべき理由

この報道を読み解くうえで、避けて通れない文脈がある。記事の署名にあるBloombergの望月崇記者は、任天堂関連の報道で繰り返し物議を醸してきた人物だ。

過去の主な事例を挙げると、2021年には「Switch有機ELモデルは現行機より収益性が高い」と報道したが、任天堂が公式IRアカウントで即座に否定。同年9月には「11社がSwitch用4K開発キットを保有」と報じ、これも任天堂が公式に否定した。2023年にはPSVR2の減産記事をソニーが否定。そして2025年6月にはSwitch 2の日本国内における卸売価格に関する報道を、任天堂が再び否定している。

https://x.com/NintendoCoLtd/status/1929357467768717377

日本のゲームコミュニティでは 「嘘月」 という不名誉なあだ名まで定着しており、海外のゲームフォーラムでも「Knew who wrote that piece before I even checked」と、記者名を見る前から予想できたというコメントが並ぶ。

ただし、公平を期すなら、望月記者の報道がすべて的外れだったわけではない。2025年10月には、同記者が「任天堂がサプライヤーに対し2026年3月末までに最大2,500万台の生産を要請」と報じており、実際の累計販売1,737万台という数字と照らせば、少なくとも強気の生産計画が存在したこと自体は否定しにくい。記者の過去を理由に内容を全否定するのは、それはそれで思考停止だろう。

「米国の不振」は本当か、それとも「高すぎる期待」だったのか

Bloombergの記事が指す核心は、米国市場でのSwitch 2の販売不振だ。だがこの「不振」が何と比較しての不振なのかで、見え方はまったく変わる。

Switch 2は2025年6月の発売から7か月で累計1,737万台を達成している。これは初代Switchが同期間に到達した数字を77%上回るペースであり、米国市場単体でも歴史的な速さで普及が進んでいる。2025年12月時点で米国累計440万台、月間販売でも同月の首位だった。

問題は、任天堂自身の社内目標がそれ以上に高かったことにある。古川俊太郎社長は2月の決算説明会で「海外販売は当社想定と比べるとやや弱めの水準」と認めている。つまり、客観的に見れば歴代最速ペースで売れているハードが、社内の楽観的な予測には届かなかった——そういう話だ。

Asymmetric Advisorsのアミール・アンヴァルザデ氏は「年末商戦でのハード販売の伸び悩みは深刻なニュース」と指摘する一方、「ソフトのラインナップが弱かった。少なくとも直近のポケモンには希望がある」と述べている。

ポケモンポコピアは「救世主」になれるか

報道のタイミングが皮肉なのは、まさにSwitch 2にとっての初のキラータイトルが爆発的なスタートを切った直後だったことだ。3月5日に発売されたポケモンポコピアは、Metacriticスコア90を獲得し、ポケモンシリーズ史上最高評価のタイトルとなった。

発売からわずか4日間で220万本を売り上げ、各地で品切れが相次いでいる。ポケモンスピンオフ作品としても歴代屈指の初動だ。

にもかかわらず、Bloomberg記事の情報源は「ポコピアの成功を受けても、任天堂は増産に踏み切っていない」と語ったという。新作ソフトの持続力を見極めたいという判断は、慎重ともいえるし、需要の先行きに自信が持てないともいえる。

ここで浮かぶ疑問がある。仮に望月記者の情報源がサプライチェーン側の人間であれば、ポコピア発売前の1〜2月時点の計画を語っている可能性が高い。3月以降の販売データが反映されていない「古い情報」を、あたかも現在進行形の危機として報じているとすれば、実態との温度差が生まれるのは当然だ。

海外ゲームフォーラムFamiboardsでは「ポコピアで棚から消えている最中にこの記事が出るのは奇妙」「5月の投資家説明会で実際の数字が出るまで、これは古いニュースだろう」といった冷静な反応が目立つ。

本当のリスクは需要より「コスト」にある

むしろSwitch 2が直面している深刻な課題は、需要の減退よりもコスト構造にある。AI需要の爆発によるメモリ価格の高騰は、任天堂のハード採算を直撃している。

日経新聞の報道によれば、Switch 2に使われるメモリの価格は約4割上昇しており、日本市場向けの国内専用モデル(4万9,980円、税込)は「売れば売るほど赤字」とまで指摘されている。

Bloomberg自身も記事内で、メモリ価格の高騰が任天堂に値上げの検討を促していると伝えている。しかし今回の減産は「コスト問題ではなく需要の問題だ」と情報源は主張した。この切り分けをどこまで信じるかは、読者の判断に委ねるしかない。

Switch 2は部品原価が約400ドルと推測されており、特に日本国内専用モデルでは利益が出にくい構造だ。一方、収益性が高い欧米市場での販売がカギを握る。

加えて、米国の関税政策も不透明感を増している。任天堂は3月7日(日本時間)にIEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく関税の違法性を主張し、米国国際通商裁判所に提訴した。1,000社以上が同様の訴訟を起こしており、FedExやコストコも名を連ねている。製造コストと販売価格の板挟みは、当分続くだろう。


5月の決算が「答え合わせ」になる

冷静に整理すれば、今回の報道が示すのは「Switch 2が失敗した」という結論ではない。減産の幅にしても、非ホリデー四半期の在庫調整として見れば、パニックに陥るほどの話ではない。

任天堂のアナリスト予測である通期2,000万台の達成は、現時点の1,737万台から見ても十分に射程内だ。

問題の本質は、発売2年目に入るハードが「初期の熱狂的な需要」から「定常的な普及」のフェーズに移行する過渡期にあることだ。2017年のSwitch初代も、2年目の年間販売予測を2,000万台としたが実際は1,695万台に着地している。高すぎる期待が修正されること自体は、ゲーム機のライフサイクルでは珍しくない。

真の試金石は、5月に発表される2026年3月期通期決算と、新年度の見通しだ。そこで示される数字が、Bloombergの報道が「構造的な問題の先触れ」だったのか、それとも「いつもの飛ばし記事」だったのかを、はっきりさせてくれるだろう。

任天堂にとって幸いなのは、ポコピアの成功がSwitch 2のソフト不足という最大の弱点に風穴を開けたことだ。だが不幸なのは、その追い風を享受する前に「減産」の見出しが世界を駆け巡ってしまったことかもしれない。


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