台湾半導体業界がヘリウムとLNG備蓄要求、残り11日の危うさ

ホルムズ海峡の封鎖が、世界の半導体サプライチェーンの急所を白日のもとに晒している。台湾の備蓄は、たった11日分しかない。

台湾半導体業界がヘリウムとLNG備蓄要求、残り11日の危うさ
TSMC

ホルムズ海峡の封鎖が、世界の半導体サプライチェーンの急所を白日のもとに晒している。台湾の備蓄は、たった11日分しかない。


11日という数字が意味するもの

台湾半導体産業協会(TSIA)が、政府に対してヘリウムと液化天然ガス(LNG)の戦略備蓄構築を正式に要請している。米国とイランが中東で2週間の条件付き停戦に合意した直後のタイミングだ。

台湾のLNG戦略備蓄は、現時点でおよそ11日分しかない。しかもLNGは島内の発電所の4割以上を動かす主力燃料だ。ヘリウムに至っては、戦略備蓄そのものが存在しない。

これは単なる在庫管理の話ではない。半導体製造という現代産業の土台が、2週間足らずで止まりうることを意味している。

ホルムズ海峡が握っていた首根っこ

今年3月、米国がイランへの空爆を開始すると、イランはホルムズ海峡を封鎖した。アルミニウム、ヘリウム、LNGといった半導体サプライチェーンの基幹素材が、一斉に滞った。

TSIA加盟企業は短期在庫で数週間は凌げたものの、戦争3週目には早くも不足の兆候が出始めていたという。ヘリウムは冷却から化学フラッシングまで、チップ製造のあらゆる工程で使われる。しかも代替ガスが存在しない。

ヘリウムは半導体製造の冷却や化学フラッシングに不可欠で、実用に耐える代替物質が存在しない。このガスが途絶えれば、ファブの生産ラインは停止する。

台湾はLNG需要のおよそ3分の1カタールに依存している。ホルムズ海峡の封鎖は、そのカタール産LNGの航路を直撃した。エネルギーと製造の両面で、島全体の首根っこを押さえられた形だ。


「原発再開支持」に込められた危機感

TSIAの要求は、備蓄だけにとどまらない。会長でTSMC上級副社長のクリフ・ホウ氏は、原子力発電所の再稼働を支持する立場を公式に表明している。

「エネルギー源と重要資材の供給源を多様化し続けることが不可欠だ。法的要件と安全性が担保されるのであれば、政府による原発再稼働の判断を業界として支持する。半導体産業の発展には、安定した十分なエネルギーが絶対に必要だ」

台湾は2025年5月に最後の原発を停止し、現在はエネルギー需要の95%以上を輸入に頼っている。脱原発という政治的選択の代償を、戦争という外部要因が請求書として突きつけた格好だ。

半導体企業が正面から原発支持を口にする。それだけ切羽詰まっているということだ。

停戦は救いか、それとも猶予か

米国とイランが署名した停戦は、ホルムズ海峡の再開を条件とする2週間の暫定合意にすぎない。船舶の航行が再開されれば、台湾への資源輸送は一旦持ち直すだろう。

だが、戦前の水準に戻るかは別の話だ。カタールエナジーのラス・ラファン工業都市は直接攻撃で広範囲にわたる損傷を受けており、生産能力そのものが傷んでいる。海峡が開いても、流れる量が元に戻るとは限らない。

カタールは世界最大級のLNG輸出国であり、ラス・ラファンはその心臓部にあたる。施設が受けた損傷は、単なる一時停止ではなく中期的な供給能力の目減りを意味する。

そして「2週間」という短い期限こそが、本質的な脆さを物語っている。恒久的な和平合意が結ばれない限り、同じ事態はいつでも再発しうる。


構造的な問いとして

今回の出来事が突きつけたのは、特定の国や企業の問題ではない。地政学リスクが、半導体産業の設計思想そのものを書き換え始めているという現実だ。

これまでの半導体サプライチェーンは「ジャストインタイム」を極限まで追求してきた。在庫は悪であり、効率こそが競争力だった。だがその前提は、物流が安定していることを暗黙に仮定していた。中東で戦争が起きた途端、その仮定は音を立てて崩れた。

日本と米国は、すでにヘリウムとLNGの戦略備蓄を持つ。台湾が同じ方向に舵を切れば、業界全体の在庫思想そのものが変わる可能性がある。効率一辺倒の時代から、冗長性への再評価へ。地味だが、決定的な転換になりうる。

ホルムズ海峡は、いずれ再び開くだろう。だが11日という数字を、もう誰も忘れることはできない。


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