トランプのAI諮問会議、黄仁勲・マーク・ザッカーバーグら13名が就任──マスクとアルトマンの姿はない
AI政策の舵取りを、AI企業のトップに委ねる。トランプ大統領が新たに発足させた科学技術諮問会議の顔ぶれを見れば、この政権がどこを向いているのか、一目でわかる。
AI政策の舵取りを、AI企業のトップに委ねる。トランプ大統領が新たに発足させた科学技術諮問会議の顔ぶれを見れば、この政権がどこを向いているのか、一目でわかる。
PCAST──シリコンバレーの「オールスター」が集結
AI産業のトップ13名が、米国の科学技術政策の助言者として顔を揃えている。トランプ大統領が新たに発表したPCAST(大統領科学技術諮問会議)のメンバーには、NVIDIAのジェンセン・フアンCEO、AMDのリサ・スーCEO、Metaのマーク・ザッカーバーグCEO、Oracleのラリー・エリソン会長、Googleの共同創業者セルゲイ・ブリンが名を連ねる。
共同議長を務めるのは、ホワイトハウスのAI・暗号資産担当特別顧問デイビッド・サックスと、科学技術政策局長マイケル・クラツィオスの2名だ。PCASTは最大24名で構成される予定で、今回の13名は「第一波」にあたる。
— White House OSTP 47 (@WHOSTP47) March 25, 2026
ホワイトハウスの公式声明は、PCASTの使命を「新興技術がアメリカの労働力にもたらす機会と課題」への助言と位置づけている。だが、そこに並ぶ名前を見ると、これは助言というより宣言に近い。AIの未来を決める席に、AI企業の経営者を座らせるという宣言だ。
不在の名前が語ること
今回の人選で最も注目すべきは、リストに「いない」人物たちかもしれない。OpenAIのサム・アルトマンCEO、テスラとxAIのイーロン・マスクCEO、そしてMicrosoftの幹部は誰ひとり含まれていない。
マスクはかつてDOGE(政府効率化局)を率い、トランプ政権の中核にいた人物だ。アルトマンは就任式に個人で100万ドルを寄付し、AI時代の推進を誓っていた。それでも、AI政策の諮問委員会には呼ばれなかった。
この不在には複数の読み方がある。マスクとアルトマンの訴訟合戦は泥沼化しており、両者を同じテーブルに着かせることは政治的にも困難だ。だが、より本質的なのは、トランプ政権がAI政策の「実行側」を重視していることだろう。データセンターを建て、GPUを売り、AIモデルを商用展開している企業──つまり、規制の対象になりうる企業そのものが、規制の方向性を助言する立場に立っている。
「科学」顧問会議に科学者は1人だけ
PCASTの歴史は1933年、フランクリン・ルーズベルト大統領が科学顧問委員会を創設したところまでさかのぼる。以来、すべての大統領が独自のPCASTを設置してきた。オバマ政権ではGoogleのエリック・シュミットが、バイデン政権ではAMDのリサ・スーが参加するなど、産業界からの起用は珍しくない。
しかし今回の顔ぶれは、過去のどの政権とも明らかに異なる。13名のうち、アカデミアからの参加者はカリフォルニア大学サンタバーバラ校の量子物理学者ジョン・マルティニスただ1人。女性メンバーもOracleのサフラ・キャッツとAMDのリサ・スーの2名のみだ。バイオテクノロジーやライフサイエンスの代表者もいない。
残りの大半は、AI・半導体・クラウド・暗号資産・ベンチャーキャピタルの経営者や投資家で占められている。核融合のCommonwealth Fusion Systems CEO ボブ・マムガードと、小型原子炉スタートアップOklo CEO ジェイコブ・デウィッテの起用は、エネルギー政策への関心を示唆するが、エネルギーもまたAIデータセンターの大量電力消費と密接に関わる領域だ。
「科学技術」を看板に掲げながら、実態は「テック産業」の諮問会議になっている。その事実が、何を意味するのかは考える価値がある。
同じ日にデータセンター建設凍結法案
皮肉なタイミングだ。PCASTの発表と同じ3月25日(米国時間)、バーニー・サンダース上院議員とアレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員が「AIデータセンター・モラトリアム法案」を提出した。全米でのAIデータセンター新規建設を、連邦レベルの労働者・消費者・環境保護法が整備されるまで凍結するという内容だ。
サンダースはこの法案について「AIは人類史上最も広範な技術革命を起こしている。一握りのビッグテック億万長者に、経済と民主主義の未来を決めさせるわけにはいかない」と述べている。
法案が可決される見込みは薄い。しかし、片方の手でテック企業のCEOを政策顧問に迎え入れ、もう片方の手でデータセンター建設の凍結が提案される──この同時性こそが、AIをめぐるアメリカの分裂を象徴している。
Today, we welcome the first wave of extraordinary members to President Trump’s Council of Advisors on Science and Technology (PCAST).
— Director Michael Kratsios (@mkratsios47) March 25, 2026
Rooted in the tradition FDR began in 1933, PCAST unites America’s brightest minds to advise the President on the most pressing national issues in…
PCAST自体に規制権限はない。報告書と勧告を大統領に提出するだけの、あくまで諮問機関だ。だが、勧告が政策の方向性を左右することは歴史が証明している。そして今、その勧告を書くのは、AI規制が最も緩い状態であることが自社の利益に直結する人々だ。
テック企業はすでに「座席料」を払っている
この人選は突然生まれたものではない。2025年1月のトランプ大統領就任式に向けて、Meta、Google、NVIDIA、Amazon、Microsoft、Appleがそれぞれ100万ドルを寄付した。就任式委員会の資金調達額は2億3,900万ドルに達し、過去3回分の合計を上回る新記録を樹立した。
Meta、Google、NVIDIAはホワイトハウスの公邸改修にも資金を拠出している。マーク・ザッカーバーグはPCAST就任にあたり「AIで世界をリードする機会を得られて光栄だ」と述べた。NVIDIAもフアンの任命を「アメリカのAIリーダーシップを前進させる機会」と歓迎している。
かつてトランプ大統領はシリコンバレーと激しく対立していた。今、テック企業は寄付と協力で関係を築き直し、政策決定の内側に入り込んでいる。「1期目はみんな敵だった。今回は全員が友達になりたがっている」──トランプ大統領自身が、そう語っている。
AI政策の審判員はプレイヤーでいいのか
PCASTの顔ぶれは、トランプ政権のAI戦略を明確に映し出している。規制よりも成長、安全性よりも競争力、そして学術的な中立性よりも産業界の実務経験を重視するという選択だ。
中国との技術覇権競争を考えれば、産業界の知見を政策に反映させる合理性はある。だが、規制の方向性を決める助言者が、規制される側の当事者で占められるとき、それは「助言」と呼べるのだろうか。
PCASTにはまだ11の空席がある。そこに科学者や市民社会の声が加わるのか、それとも同じ色のチップがさらに積まれるのか。答えは、今後数週間で明らかになる。
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