Ubisoft Red Storm──10本の開発を抱えたまま消えたスタジオ

Rainbow SixとGhost Reconを生んだ老舗スタジオが、Ubisoftの大ナタによって「解体」された。だが蓋を開けてみれば、その直前まで10本ものプロジェクトが動いていた。切られたのは「過去」ではなく「現在進行形の未来」だった。

Ubisoft Red Storm──10本の開発を抱えたまま消えたスタジオ
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Rainbow SixとGhost Reconを生んだ老舗スタジオが、Ubisoftの大ナタによって「解体」された。だが蓋を開けてみれば、その直前まで10本ものプロジェクトが動いていた。切られたのは「過去」ではなく「現在進行形の未来」だった。


明らかになった10本のプロジェクト

Red Storm Entertainmentが閉鎖直前まで少なくとも10本のプロジェクトに関与していたことが、ゲーム業界メディアInsider Gamingの独自報道で明らかになっている。3月20日(日本時間)にUbisoftが同スタジオのゲーム開発終了と105名の解雇を発表した際、具体的にどのタイトルが影響を受けるかは不明だった。

その全容は驚くほど広い。Rainbow Six Siegeのシーズンコンテンツ、次期Ghost Recon(社内コード名Project OVR)、Brawlhalla、Beyond Good & Evil 2、Rainbow Sixの小規模タイトル「Slice & Dice」、Splinter Cell、The Division 2のオーディオ作業、The Division 3のコンセプト段階、Watch Dogs Director's Cutのサポート開発、そしてコンセプト段階の未発表タイトル。

ひとつのスタジオが、Ubisoftの看板フランチャイズのほぼ全域にわたって手を動かしていた。「必要とされていなかった老兵」という印象とは、まるで違う実態がそこにある。

Insider Gamingは、Red Stormについて「Ubisoftが本当に必要とするときに使われるスタジオだった。そして、それはかなり頻繁だった」と報じている。

トム・クランシーが遺した30年の歴史

Red Storm Entertainmentは、小説家トム・クランシーが1996年に共同設立したスタジオだ。社名の由来はクランシーの小説『レッド・ストーム作戦発動(Red Storm Rising)』。1998年にリリースした初代Rainbow Sixはタクティカルシューターというジャンルそのものを定義し、2001年のGhost Reconとともに「トム・クランシー」ブランドの礎を築いた。

2000年にUbisoftに買収されて以降もGhost Reconシリーズの開発を続けたが、PC Gamerが伝えるように、リード開発を務めた最後のタイトルは2012年のGhost Recon: Future Soldierだった。以降はVRタイトル(Werewolves Within、Star Trek: Bridge Crew、Assassin's Creed Nexus VR)やサポート開発が中心となり、The Division Heartlandは2024年5月に開発中止、VR版Splinter Cellも2022年に中止されている。

表舞台から消えても、裏方としての需要は増え続けていた。だからこそ10本ものプロジェクトに同時に名前が載っていた。


「どこにも属さない」スタジオの構造的悲劇

なぜ、これほど多くのプロジェクトに関与していたスタジオが切られたのか。答えは、Ubisoftが2026年1月に発表した「メジャーリセット」の構造そのものにある。

Ubisoftは開発体制を5つの「クリエイティブハウス」に再編した。Rainbow SixはAssassin's CreedやFar CryとともにVantage Studiosに、Ghost ReconやSplinter Cell、The Divisionはクリエイティブハウス2に振り分けられた。各ハウスは自前のIPに対して創作・ブランド・財務の全権限を持つ。

問題は、Red Stormがまさにこの境界線をまたいで仕事をしていたことだ。Rainbow SixとGhost Reconを同時に手がけ、Splinter CellとThe Divisionにも関わり、BrawlhallaやWatch Dogsにまで手が伸びていた。新体制では、ひとつのスタジオが複数のクリエイティブハウスにまたがって機能する余地がない。Red Stormは「どこでも必要とされていた」がゆえに、「どこにも属さない」スタジオになった。

Ubisoftはこの再編とあわせて今後2年間で 2億ユーロ(約370億円)の追加コスト削減を掲げている。FY2022-23からの累計削減額は約5億ユーロに達する見通しだ。

2月には1,200人以上の従業員がパリやミラノで3日間のストライキを実施。出社義務化の撤回や賃上げを求めたが、Variety誌のインタビューでイヴ・ギユモCEOは「選択的な再構築」を続ける姿勢を崩していない。


名前だけが残ったスタジオの行方

Red Stormの名前は残る。ただし、その役割はグローバルITとSnowdropエンジンのサポートだ。Rainbow SixやGhost Reconのロゴの横にRed Stormの名前が並ぶ日は、もう来ない。

気がかりなのは、宙に浮いた各プロジェクトの行方だ。Ghost Recon Project OVRは一人称視点のタクティカルシューターとして開発が進んでいたとされるが、Red Stormの関与がどの程度だったかは不明だ。

The Division 3はコンセプト段階だったうえ、シリーズ責任者のジュリアン・ジェリティが1月にEAのBattlefield Studiosへ移籍しており、二重の意味で先行きが見えない。

Ubisoftは今後も「さらなるコスト削減策を発表する」見通しだ。1月の6タイトル中止・7タイトル延期・2スタジオ閉鎖は、序章に過ぎなかったということになる。

30年前、トム・クランシーは自らの名を冠したスタジオを立ち上げ、ゲーム業界にタクティカルシューターという文化を刻んだ。そのスタジオが最後に担っていたのは、10本のプロジェクトの「裏方」だった。名前だけが残り、魂が消えたスタジオを、業界はなんと呼べばいいのだろうか。


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