Ubuntu MATE創設者が12年の歴史に区切り──後継者不在のまま幕引きへ

GNOME 2の精神を受け継いできたUbuntu MATEが、創設者の離脱という最大の転換点を迎えている。

Ubuntu MATE創設者が12年の歴史に区切り──後継者不在のまま幕引きへ

GNOME 2の精神を受け継いできたUbuntu MATEが、創設者の離脱という最大の転換点を迎えている。


「情熱がなくなった」──12年を支えた一人の告白

Ubuntu MATEの創設者マーティン・ウィンプレスが、プロジェクトからの離脱を表明している。3月28日(日本時間)、Ubuntu公式フォーラムDiscourseに投稿された短い文章は、12年間にわたるプロジェクトの終章を予感させるものだった。

「開発サイクルが一巡するたびに、Ubuntu MATEに費やせる時間がなくなっていく。率直に言えば、かつて持っていた情熱がもうない。時間があるときも、興味は別の場所にある」

わずか数行の投稿に、1400回以上の閲覧と30件のいいねが集まった。コミュニティは即座に感謝スレッドを立ち上げ、12年間の功績を讃えている。だが感謝の言葉の裏には、静かな動揺が滲む。

ウィンプレスはUbuntuアーカイブのパッケージメンテナンス経験を持つコントリビューターに、プロジェクトの引き継ぎを呼びかけている。Matrixの Ubuntu Flavoursチャンネルでも同様のメッセージを投稿済みだ。

LTS認定の見送り──3ヶ月前からの予兆

この発表は突然に見えて、実はそうではない。2025年12月、Ubuntu Technical Boardが26.04 LTSの認定フレーバーを発表した際、Ubuntu MATEの名前はそこになかった。LTS認定には各フレーバーのリーダーが自ら申請し、3年間のサポートを約束する必要がある。ウィンプレスはその申請すら行わなかった。

昨年12月の時点で、この決断はすでに固まっていたことになる。Ubuntu MATE 26.04は非LTSとしてリリースされる見通しだが、コミュニティからの9ヶ月間のサポートしか保証されない。

2015年に公式フレーバーとなって以来、毎回LTSを送り出してきた実績が途絶える。ユーザーにとっては、信頼の基盤そのものが揺らぐ出来事だ。


一人のボランティアが支えた「公式」の重み

ウィンプレスの足跡を辿ると、オープンソースにおける「メンテナー問題」の縮図が見えてくる。

2011年、GNOME 3のリリースに不満を持ったユーザーの受け皿として、アルゼンチンの開発者ヘルマン・ペルゴリアがGNOME 2をフォークしてMATEデスクトップを生んだ。2014年、ウィンプレスはそのMATEをUbuntuと組み合わせてUbuntu MATEを立ち上げる。翌年には公式フレーバーに昇格し、Raspberry Pi向けイメージの提供も開始した。

2016年にCanonicalに入社し、Ubuntuデスクトップのエンジニアリング・ディレクターまで務めた。2021年に退社。現在はサプライチェーンセキュリティ企業Chainguardでエンジニアリングマネージャーを務めつつ、個人的にはNixOSに傾倒している。

ここで浮かぶ問いは明確だ。1万4600人のXフォロワーを持つ公式アカウントの背後に、事実上一人しかいなかったという現実をどう受け止めるか。Linux Mattersポッドキャストの共同ホスト、Quickemuの作者、Debianパッケージメンテナー。「メンテナー」という言葉で括るには、あまりに多くの帽子をかぶっていた。

GamingOnLinuxのコメント欄に投稿されたある一言が、この状況を端的に表している。「この人はただのメンテナーではない。簡単には代わりが見つからない」

希望の芽は、すでに出ている

ただし、絶望するのは早い。

Discourseのスレッドには、Ubuntu Unityのメンテナーであるtomekdevが名乗りを上げている。Ubuntu MATEとUbuntu Unityはいくつかのコンポーネントを共有しており、経験的な親和性がある。ウィンプレス自身も「連絡する。どう関わってもらえるか一緒に考えよう」と応じた。

また、金銭的な支援の可能性を問うユーザーも現れている。旧Ubuntu MATE Discourseにあった寄付リンクのような仕組みを復活できないか、という声だ。

他のフレーバーも同様の危機を乗り越えてきた歴史がある。プロジェクトリーダーの交代は珍しいことではなく、むしろ健全な世代交代の一形態だ。問題は、引き継ぎが「一人から一人」ではなく「一人から複数」へと変わらなければ、同じ構造的脆弱性を繰り返すということだろう。


Ubuntu MATEユーザーに残された選択肢

Ubuntu MATEが今も求められている理由は、レトロだからではない。GNOME 2のワークフローを体に染み込ませた世代にとって、それは最も生産的な環境だ。Linux Mintにも同じデスクトップは存在するが、Ubuntuの公式リポジトリとの整合性、LTSの安定性、Raspberry Piとの親和性──Ubuntu MATEが築いた「居場所」は、単純な代替では埋められない。

4月23日のUbuntu 26.04リリースが近づく中、Ubuntu MATEは非LTSとして船出する。長期サポートの保証がない状態で、既存ユーザーがどう動くかは未知数だ。

12年間、一人の情熱で灯し続けた火を、次に誰が引き継ぐのか。その答えが出る前に、まずは「灯台守は一人であるべきではなかった」という教訓を、コミュニティ全体で共有すべきなのかもしれない。


参照元

他参照


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