PS5 Proの新PSSRが暴いた、AMDが隠し続けるFSR 4の「もうひとつの姿」
マーク・サーニーがDigital Foundryのインタビューで語った技術的事実が、AMDのアップスケーリング戦略の矛盾を浮き彫りにしている。
マーク・サーニーがDigital Foundryのインタビューで語った技術的事実が、AMDのアップスケーリング戦略の矛盾を浮き彫りにしている。
新PSSRとFSR 4.1は「同じニューラルネットワーク」だった
PS5 Proのアップスケーリング技術PSSR 2が、AMDのPC向け最新アップスケーラーFSR 4.1と同じニューラルネットワークを基盤としている。PlayStation 5のリードシステムアーキテクト、マーク・サーニーがDigital Foundryのインタビューで明かした事実だ。
サーニーはXでも「FSR Upscaling 4.1をPCゲームで試した。PS5 Pro向けにリリースしたアップグレード版PSSRと同じニューラルネットワークに基づいている」と投稿し、両技術の血縁関係を公にしている。
https://x.com/cerny/status/2034751680290705451
ただし実装は異なる。FSR 4.1がRDNA 4のAIアクセラレータで処理する8ビット浮動小数点(FP8)を使うのに対し、PSSR 2はPS5 Proのカスタムハードウェアに最適化された8ビット整数(INT8) で動作する。サーニーによれば「MAC演算量も若干異なり、トレーニングデータも完全には同一ではない」が、最終的な画質の差はほとんどないという。
同じ設計図から生まれた二つの技術が、異なるハードウェアで異なる数値形式を使いながら、ほぼ同等の結果を出す。ソニーとAMDの共同開発Project Amethystがもたらした、意図された収束だ。
サーニーは「混乱を避けるため、今日からはFSR 4ではなくFSR Redstoneの名称を使う」と述べ、両社の技術的一体性を改めて強調した。
AMDが「うっかり」公開したINT8版の行方
見過ごせないのは、PSSR 2が使うINT8という数値形式の出自だ。PS5 ProはRDNA 4のようなFP8対応ハードウェアを持たない。だからINT8で処理する。そしてこのINT8こそ、AMDが2025年8月に誤って公開したFSR 4ソースコードに含まれていた実装形式に他ならない。
事の経緯はこうだ。AMDは2025年8月20日(現地時間)、FidelityFX SDK 2.0のリリースに伴い、FSR 4の完全なソースコードをGitHubに誤って公開した。コードにはMITライセンスが付与されており、AMD側が数時間後に削除した時点で、すでに多くのユーザーがフォークを作成していた。そのソースコードの中にINT8版ライブラリが含まれていたことが、その後の騒動の引き金となる。
RedditユーザーがINT8版DLLをコンパイルし、コミュニティツール 「OptiScaler」 を通じてRDNA 3やRDNA 2のGPUでFSR 4を動作させることに成功した。
画質はFP8版にやや劣るものの、FSR 3.1と比べれば大幅な改善だとTechSpotの検証が示している。つまり、PSSR 2がPS5 Proで実現していることの技術的基盤は、PCゲーマーがコミュニティの力で旧世代GPUに移植した、あのINT8版FSR 4と本質的に同じものだ。
「100マイクロ秒」が可能にしたシステムレベルの革新
技術的な共通点だけが話題ではない。サーニーは新PSSRが旧バージョンより約100マイクロ秒高速化されたことを明かした。数字だけ見れば微々たるものに思えるが、この余裕が決定的な違いを生んでいる。
「すべてのPSSR対応タイトルを新PSSRにアップグレードするユーザーオプションを設けるには、新PSSRが旧版より高速でなければ意味がなかった」とサーニーは語る。目標を達成した結果、PS5 Proには 「PSSRの画質を向上」 というシステムレベルのトグルが実装された。開発者のパッチを待たずに、PSSR対応ゲームすべてで新しいアップスケーラーが適用される仕組みだ。
性能を犠牲にせず画質を引き上げるソフトウェアアップデート。ハードウェアの世界では珍しい「足し算だけの改善」が、ここにある。現在、Resident Evil Requiem、Silent Hill f、Monster Hunter Wilds、Alan Wake 2、Final Fantasy VII Rebirthなど多数のタイトルがPSSR 2に対応済み。Cyberpunk 2077やCrimson Desertも近日対応予定だ。
「このオプションを使えば、フレームドロップがほんのわずかに減少する」とサーニーは補足した。100マイクロ秒の余裕は、フレームレート自体を劇的に変えはしないが、アップスケーリングがボトルネックにならないことを保証する。
AMDの沈黙とコミュニティの行動
話をPC側に戻そう。PS5 ProがINT8で見事な結果を出している一方、AMDは旧世代GPU向けのFSR 4 INT8を公式サポートする気配がない。2026年2月時点でAMDの公式見解は「現時点で共有できる新情報はない」の一点張りだ。
この構図を整理しておこう。AMDは2025年8月にINT8版コードを誤って公開した。コミュニティはそのコードを使い、RDNA 2・RDNA 3でFSR 4を実現した。ソニーはINT8版でPS5 Proの画質を劇的に改善し、サーニーが公の場でその成果を語った。だがAMDは、同じINT8技術を自社のPC向けGPUに提供することを拒んでいる。
NVIDIAがDLSS 4.5を2018年発売のRTXシリーズまで遡って対応させたのとは、あまりに対照的だ。
OptiScalerの最新版はRDNA 2のゴースティング問題を大幅に改善し、最新ドライバとの互換性も確保している。有志がAMDの仕事を肩代わりしている状況は、もはや笑い事ではない。
AMDにはFSR 4をRDNA 4限定にする技術的理由がある。FP8はRDNA 4専用であり、INT8版は画質・性能ともにFP8版に劣る。だがその「劣る」INT8版がPS5 Proでは称賛を集め、コミュニティの手でRDNA 2でも実用水準に達している。「技術的に不十分」と「提供しない」は、同じ言葉ではない。
フレーム生成もPlayStationへ──ただし今年中ではない
FSRベースのフレーム生成技術が、PlayStationに向かっている。サーニーはインタビューで、AMDと共同開発中のこの技術が「いずれPlayStationプラットフォームに登場する」と明言した。ただし具体的なハードウェアには言及せず、「今年中の追加リリースは予定していない」と釘を刺している。
「PlayStationプラットフォーム」という複数形が意味深だ。PS5 Proへのアップデートなのか、2027年以降とされるPS6での搭載を見据えた発言なのか。アップスケーリングとフレーム生成が組み合わされば、コンソールのグラフィックス体験はさらに一段階引き上げられるだろう。
FSR Diamondと呼ばれる次世代技術がXboxの「Project Helix」向けにすでに発表されている。ソニーとAMDの協業はまだ序章にすぎない。
問われているのは技術力ではなく、姿勢だ
サーニーのインタビューが映し出しているのは、PS5 Proの技術的進歩だけではない。AMDのアップスケーリング戦略に横たわる矛盾が、かつてなく鮮明になっている。同じニューラルネットワーク、同じINT8。片方はコンソールで賞賛され、もう片方はPCで封印されたままだ。
コミュニティが証明したのは「動くかどうか」ではない。「なぜ公式に提供しないのか」という問いだ。FSR 4の品質がNVIDIA DLSSにようやく肩を並べた今、その恩恵をRDNA 4だけに限定する判断は、Radeonブランドへの信頼を静かに削り続けている。
ソニーはPS5 Proユーザーにボタンひとつで新しい世界を見せた。AMDがRDNA 2・RDNA 3のユーザーに同じことをする技術は、すでにある。足りないのは技術ではなく、決断だ。
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