バイブコーディングは機能する。ただし「前提知識ゼロ」では話にならない

AIに話しかけるだけでアプリが作れる。そう聞いて、半信半疑だった人間が実際に試したら、どうなったか。

バイブコーディングは機能する。ただし「前提知識ゼロ」では話にならない

AIに話しかけるだけでアプリが作れる。そう聞いて、半信半疑だった人間が実際に試したら、どうなったか。


7週間・337コミット、RSSリーダーがSaaSになった

The Registerの記者、トーマス・クラーバーンが今年1月、Claude(月額20ドル)のサブスクリプションを購入し、ニュースフィードを管理するWebアプリを作り始めた。コーディング歴は1980年代から続く趣味レベルで、過去にiOS/Androidゲームを書いたり、RSSリーダーのElectronアプリを自作したりした経験はあった。

2月22日に最初のコミットを打ち、7週間後には337コミットを積んで「RSScal」として商用公開した。

コードの大半はClaude Codeが生成し、専門家ではない自分とAIのレビューを経て手動でコミットした。コードが本当にひどければ、すぐにアプリは潰れるだろう。でも、慎重ながら楽観している。
RSScal 開発概要
項目 内容
開発期間 7週間
コミット数 337コミット
AIサブスク費 約6,400円(40ドル・約2ヵ月分)
トークン費用換算 約3万2,000円(200ドル相当)
VPS費用 月約2,200円(14ドル)
AIツール Claude Code(Anthropic)
バックエンド Python / FastAPI / Celery / Redis / PostgreSQL
フロントエンド SvelteKit / Tailwind CSS
インフラ Docker コンテナ
※費用は記事公開時点(2026年4月)の1ドル≒159円換算。

バックエンドはPython(FastAPI)、Celery、Redis、PostgreSQL(Supabase)。フロントエンドはSvelteKit、Tailwind CSS。Dockerコンテナで稼働している。費用はサブスク費用で40ドル(約6,400円)、トークン消費換算でも約200ドル(約3万2,000円)、そして月14ドル(約2,200円)のVPSのみだ。

「1〜2ヵ月でRSSアプリの競合を立ち上げられる」。この事実が持つ意味は、後で重くなる。

「高性能であり、まったく的外れでもある」という矛盾

クラーバーンが実感したのは、AIとの協働に特有の二面性だ。

Claude Codeは時に、頼んでいないUIの要素を付け加えてくれた。使ってみると確かに良かった。一方で、本番環境ではなく開発環境を前提にした修正を提案したり、レートリミットのような基本的なセキュリティ要素を実装し忘れたりもした。

Claude Codeと作業するには、矛盾する2つの考えを同時に頭の中に持っておく必要がある——モデルは高度な能力を持ちながら、まったく状況を把握していない場合がある。

AIを使っても何も学べない」という批判については、クラーバーン自身は否定的だ。Docker、Python、SvelteKitへの習熟度は確実に上がったと言う。ただし全部AIに任せて関与しなければスキルは落ちるとも述べており、関与の度合いが分かれ目になると見ている。

バイブコーディングとは何か、今どこにいるか

バイブコーディング」という言葉を作ったのは、OpenAI共同創業者でTeslaAI責任者のアンドレイ・カルパシーだ。2025年2月にXへ投稿したポストが450万回以上表示され、一気に広まった。

「コードが存在することすら忘れ、バイブに身を委ねろ」

当時は「エラーをそのままAIに貼り付ける」「diffsを読まずにすべてAcceptする」という、意図的に雑な開発スタイルを指していた。コリンズ英語辞典は2025年の「今年の言葉」に選んでいる。

バイブコーディング 変遷タイムライン
2019年
AIが「奇妙なコンテンツ」を生成する時代
AIが注目を集めた理由は奇抜さ。コードとしての実用性はほぼなかった。
2022年
AIコードが「使えなくもない」水準に到達
GitHub Copilotが普及。AIコードの著作権訴訟も発生し始める。
2025年2月
造語
アンドレイ・カルパシーが「バイブコーディング」を定義
「コードが存在することすら忘れ、バイブに身を委ねろ」──Xへの投稿が450万回超表示。コリンズ英語辞典の2025年の言葉に選出。
2025年末
転換点
Opus 4.5 / GPT-5.2-Codex リリース
モデルの質が跳ね上がり、「バイブコーディング」はただの「コーディング」と同義になる。The Register記者がClaude Codeで7週間SaaS開発を完走。
2026年2月
次のフェーズ
カルパシーが「エージェントエンジニアリング」を提唱
「バイブコーディングはもう古い。コードを直接書かず、エージェントを監督・指揮する新しい技術」と定義を更新。
※出典:Andrej Karpathy(X、2025年2月 / The New Stack取材、2026年2月)、The Register(2026年4月)。

しかし2025年末、AnthropicのOpus 4.5とOpenAIのGPT-5.2-Codexがリリースされると、モデルの質が上がり、「バイブコーディング」はいつのまにただの「コーディング」になっていた。カルパシー自身も2026年2月には「もう古い言葉だ」として「エージェントエンジニアリング」という新語を提唱している。

誰でも作れる時代の、不都合な含意

この記事が単なる成功体験談ではない理由は、クラーバーン自身が正直に書いているこの一文にある。

「もし過去に自分でRSSアプリを手で作っていなかったら、Claudeに対してうまくプロンプトを投げることもできなかっただろう」。

バイブコーディングは「プログラミングの民主化」と語られることが多い。だが実態は、知識がある人間の生産性を劇的に引き上げるツールに近い。全くの白紙から始めた開発者ジム・ニールセンは、バイブコーディングで夢のRSSアプリを作ろうとして失望に終わったことを書き記している。

「何もないところから作る難しさは確かに下がった。でも、その後のことは全部、まだ難しいままだ。コードを理解すること、品質を上げること、配布すること、サポートすること、メンテナンスすること」

道は開いた。ただし、その道に入れるかどうかはまた別の話だ。

SaaSpocalypseという名の地殻変動

クラーバーン自身が「深刻に受け止めるべき」と述べているのが「SaaSpocalypse」論だ。SaaSの価値が根底から崩れるという議論で、Reddit上でも活発に語られている。

月40〜200ドルのコストで商用RSSリーダーを作れるなら、既存の有料SaaSの価格設定はどこまで正当化できるか。フリーランスプラットフォームでウェブサービスやアプリデザインを売ってきた人たちの話とは違う。構造的な問題だ。

エンジニアリングの卓越性が必要とされる場所は今後も残る。しかし、フリーランスプラットフォームでウェブサイトのテンプレートやアプリデザインサービスを売って生計を立てている人々は、そう幸運ではないかもしれない。

良いマーケターになる術も、適切なタイミングで適切なアイデアを持つ保証も、Claude Codeは与えてくれない。信頼を作り、関係を積み上げることもできない。

ただ、それ以前の「扉」は確かに開き始めている。その扉の向こうで何が変わるかは、まだ誰にも分からない。


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