消されたCPU「290K Plus」が示す最速スコアの皮肉
Intelが葬り去ったはずのCPUが、ベンチマークに姿を現し続けている。公式には存在しないCore Ultra 9 290K Plusは、なぜ消えないのか。
Intelが葬り去ったはずのCPUが、ベンチマークに姿を現し続けている。公式には存在しないCore Ultra 9 290K Plusは、なぜ消えないのか。
Geekbenchに現れた「存在しないCPU」
Intelが公式ラインナップから外したCore Ultra 9 290K Plusが、Geekbench 6のデータベースに再び姿を現している。3月23日(日本時間)にアップロードされたエントリは、ASUS ROG STRIX Z890-E GAMING WIFIマザーボード上で動作する24コアArrow Lakeシリコンの記録だった。
スコアはシングルコア3,747、マルチコア2万6,117。現行フラッグシップのCore Ultra 9 285Kをシングル・マルチともに15〜17%上回る性能だ。AMDのRyzen 9 9950X3Dに対しても、シングルコアで約10%、マルチコアで約17%のリードを示している。
290K [email protected] (ST) +IBOThttps://t.co/zhtzShS2Lb https://t.co/wUghf7HGov pic.twitter.com/90O9gGpeW8
— HXL (@9550pro) March 23, 2026
・2026年3月25 7:23更新

このベンチマーク結果を最初に発見したのは、ハードウェアリーカーのHXL(@9550pro)だ。同氏のポストによれば、290K PlusはiBOT(Intel Binary Optimization Tool)を有効化した状態でシングルスレッド時に5.8GHzに達していたという。Geekbenchの公開エントリでは、ベースクロック3.70GHz、最大周波数5.6GHz、DDR5-6800メモリ64GBという構成が確認できる。
285Kとのスコア差は初期リーク時の7〜9%から大幅に拡大した。Arrow Lake Refreshで導入されたD2Dクロックの900MHz向上とiBOTの組み合わせが、この跳躍を生み出した可能性が高い。
注目すべきは、このエントリがアップロードされた日付だ。3月23日は、まさにArrow Lake Refreshの270K Plus/250K Plusのレビュー解禁日と同じ日である。Intelが新製品で巻き返しを図ったその日に、「出さなかったCPU」が最速スコアを刻んでいた。
なぜIntelは「最速チップ」を葬ったのか
290K Plusがキャンセルされた理由は、性能不足ではない。「性能が良すぎた場所にいた」ことが問題だった。
3月26日に日本で発売されるCore Ultra 7 270K Plusは、Pコア8基+Eコア16基の計24コア。これは285Kや290K Plusとまったく同じコア構成だ。価格は299ドル。一方、285Kの米国実売価格は530ドル前後で推移している。
もし290K Plusを投入すれば、Intelのデスクトップラインナップには24コアのCPUが3つ並ぶ。価格帯も性能差も微妙で、消費者にとっては「何が違うのか」が見えにくい状態になる。
VideoCardzが2月に報じた内容によれば、Intel内部ではこの判断を「パフォーマンス・パー・バリュー」への方針転換と位置づけている。299ドルのCPUが上位モデルと同じコア数を持つという物語は、その上にさらに高価な同構成モデルがいると成立しにくくなる。290K Plusの不在こそが、270K Plusの「衝撃的なコスパ」を完成させている。
キャンセルの本質は、チップの欠陥でも歩留まりの問題でもない。「出せない」のではなく「出さない」という判断だ。バリデーションを通過し、パートナーに配布済みだったシリコンを、戦略的に棚上げにした。
270K Plusが受けた「歴史的高評価」の裏側
レビュー解禁と同時に公開された各メディアのベンチマーク結果は、Intelの戦略が機能したことを物語っている。
Tom's Hardwareのレビューでは、270K Plusがアプリケーション性能で285Kを上回る場面が多数確認された。Cinebench 2024のマルチコアスコアは285Kを超え、レンダリング系ワークロードでは「この価格帯では信じがたい」と評されている。PC Gamerは「Intel史上最高のデスクトッププロセッサ」と踏み込み、PCWorldは285Kとの比較で「最大12%高速で価格は46%安い」と数字を突きつけた。
ただし、ゲーミング単体で見ればAMDのX3Dシリーズとの差は残る。Tom's Hardwareの17タイトル平均ではRyzen 7 9800X3Dに約20%の差をつけられており、Intel自身が主張する「10%以内」よりも開きがあった。純粋なゲーム最速を求めるなら、依然としてAMDが選択肢の中心にいる。
それでも299ドルで24コアという事実は圧倒的だ。日本での販売価格は3月26日の発売時点で未確定だが、複数の国内メディアが約4万7,000〜4万8,000円と試算している。もし290K Plusが399ドル前後で隣に並んでいたら、この「コスパ革命」の物語は成立しなかっただろう。
最速のLGA-1851チップは市場に出ない
290K Plusの存在は、皮肉に満ちている。TweakTownは「Geekbenchランキングで最速のコンシューマx86チップ」と評し、Club386の分析では285K比でシングルコア13%、マルチコア15%のリードが確認された。x86の消費者向けCPUとして、現時点で最速の数字を叩き出したシリコンが、棚の上で埃をかぶっている。
しかしIntelにとって、今は「最速」よりも「信頼の回復」が先だ。初代Arrow Lakeの不評、第13/14世代の安定性問題、AMDに奪われたゲーミング王座。積み重なったダメージを修復するには、堅実な製品を適正な価格で届けるほうが重要だった。
そしてこのLGA-1851ソケットには、もう先がない。年内にはNova Lakeとともに新ソケットへの移行が控えている。終わりが見えているプラットフォームに、フラッグシップを追加投入する意味は薄い。
Geekbenchのデータベースに残る3,747というスコアは、「出せたのに出さなかった」という判断の化石だ。LGA-1851最速のCPUが市場に並ぶことはおそらくない。だがそのシリコンが刻んだ数字は、Intelが何を作れて、何を作らないことにしたのかを静かに語り続けている。
Nova Lakeの出来次第で、この判断が「賢明な選択」だったのか「惜しい機会損失」だったのかが決まる。答えが出るのは、年末だ。
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