アルテミスII、太平洋に帰還──50年ぶりの月周回有人飛行が完了
半世紀の空白を超えて、4人の宇宙飛行士が月から帰ってきた。歓声と涙、そして「欠陥」を抱えたヒートシールドとの13分間の賭けの果てに。
半世紀の空白を超えて、4人の宇宙飛行士が月から帰ってきた。歓声と涙、そして「欠陥」を抱えたヒートシールドとの13分間の賭けの果てに。
25万マイルの彼方から、無事に帰還
NASAのアルテミスIIミッションが完了した。オリオン宇宙船「インテグリティ」は日本時間4月11日午前9時7分、サンディエゴ沖の太平洋に着水し、4人の乗組員は全員「グリーン」──安全かつ健康な状態で回収された。







1972年のアポロ17号以来、半世紀以上ぶりに人類が月の軌道に到達し、無事に帰還した瞬間だった。ミッション全体の飛行距離は約111万8000km。打ち上げから着水まで約10日間の旅だ。
乗組員は船長リード・ワイズマン、パイロットのビクター・グローバー、ミッション・スペシャリストのクリスティーナ・コックとジェレミー・ハンセン(カナダ宇宙庁)の4名。ハンセンはNASA以外の宇宙飛行士として初の月周回ミッション参加者となった。
着水後、管制室は「完璧なブルズアイ着水だ」と報告。NASAのジャレッド・アイザックマン長官は「アメリカは再び宇宙飛行士を月に送り、安全に帰還させるビジネスに戻った」と宣言した。かつて自ら宇宙に飛んだ人物が、今度はNASA長官として有人月ミッションの成功を見届けた。時代は確かに動いている。
欠陥を知りながら飛んだ13分間
だが、この帰還には「完璧」とは程遠い緊張が伴っていた。
オリオンのヒートシールドには既知の設計上の欠陥がある。2022年の無人テスト飛行アルテミスIで帰還した際、耐熱素材「アブコート」の外層にひび割れやガスの蓄積による剥離が確認された。原因は素材の透過性不足──高温から低温への移行時に内部のガスが逃げられず、圧力で破裂するという構造的な問題だった。
しかし、アルテミスIIのヒートシールドはアルテミスIとほぼ同一設計。問題が判明した時点で、すでに組み立てが完了していた。交換すれば18カ月以上の遅延になる。
NASAが選んだのは、シールドを交換せず再突入の軌道を変更するという判断だった。通常のスキップ再突入では大気圏に浅く入って跳ね上がり再び降下するが、今回はこの「跳ね」を大幅に抑え、より急角度で短時間に通過する修正軌道に切り替えた。問題が発生した温度変動を最小化するためだ。
大気圏再突入から着水までわずか13分。時速約4万kmでの突入、外壁温度は約1650℃に達する。この間、ヒートシールドが持ちこたえなければ、乗組員の命はない。元NASA宇宙飛行士のチャーリー・カマーダは「成功確率95%」と見積もり、NASAに公開書簡で警告を送っていた。
結果として、シールドは機能した。だが「うまくいった」ことと「正しかった」ことは、必ずしも同じではない。NASAは着水直後からダイバーを海中に投入し、ヒートシールドの状態を撮影・記録している。今後のアルテミスIII以降では、透過性を改善した新設計のシールドが搭載される予定だ。
月の裏側で見た「地球が沈む瞬間」
ミッション中、クルーは月面から約6550kmまで接近。地球からの最大距離は約40万6778km(約25万2760マイル)に達し、1970年のアポロ13号が持っていた人類最遠到達記録を更新した。
月の裏側を通過する際、アポロとは異なる軌道がもたらした視界から、これまで人の目に触れていなかった月面の一部を初めて目撃した。「アースセット」──オリオンの視点から地球が月の向こうに沈む光景も記録されている。
パイロットのグローバーにとって最も印象的だったのは、月が太陽を遮る皆既日食を宇宙空間から観測した瞬間だったという。「大気圏を火の玉のように突き抜ける体験も含めて、残りの人生ずっと考え続け、語り続けるだろう」と着水後に語った。
| 項目 | データ |
|---|---|
| ミッション期間 | 約10日間 |
| 総飛行距離 | 約111万8,000km |
| 地球最遠距離 | 約40万6,778km |
| 月面最接近距離 | 約6,550km |
| 再突入速度 | 時速約4万km |
| シールド温度 | 約1,650℃ |
| 乗組員 | 4名(NASA 3名+CSA 1名) |
月面のクレーターに刻まれた名前
記録更新の直後、クルーは無名のクレーター2つに名前を提案した。
ひとつはオリオン宇宙船の愛称にちなんだ「インテグリティ」。もうひとつは「キャロル」──船長ワイズマンの妻の名だ。キャロル・テイラー・ワイズマンは新生児集中治療室の看護師で、2020年にがんで亡くなっている。46歳だった。
ハンセンが管制室に提案を伝えるとき、声は震えていた。「何年か前、私たちの宇宙飛行士の家族は、大切な人を失いました。彼女の名はキャロル。リードの妻であり、ケイティとエリーの母です」。ワイズマンはハンセンの肩に手を置き、コックは目元をぬぐった。40万kmの彼方で、4人は抱き合った。
管制室には45秒の沈黙が流れた。やがてキャプコムのジェニー・ギボンズが応答した。「インテグリティとキャロル・クレーター、了解しました」
クレーターの名称は国際天文学連合(IAU)の承認を経て正式に決定される。1968年のアポロ8号でジム・ラヴェルが妻マリリンの名を月の山に提案した伝統を、58年後のクルーが受け継いだ形だ。
「これは始まりにすぎない」
アイザックマン長官は着水後の会見で「このクルーは、私たちが送り出した星への大使だった。これ以上のクルーは想像できない」と語り、これが「一度きりの体験」ではないことを強調した。
次のアルテミスIIIは2027年に予定されているが、月面着陸ではなく地球低軌道での月着陸船ドッキング試験に変更された。人類が再び月面に立つのはアルテミスIV、早くても2028年だ。道のりはまだ長い。
だが、欠陥のあるシールドと、それでも飛ぶと決めた人々が、4人を無事に連れ帰った。完璧な技術など宇宙にはない──あるのは、不完全さを引き受ける覚悟だけだ。
参照元
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