ASUS、PC最大30%値上げへ──メモリ枯渇の衝撃
パソコンが、また高くなる。今度は「ちょっとした値上げ」では済まない。ASUSが台湾市場で第2四半期に最大30%の値上げを予告した。メモリ、SSD、CPUのトリプルパンチが、PC業界を直撃している。
パソコンが、また高くなる。今度は「ちょっとした値上げ」では済まない。ASUSが台湾市場で第2四半期に最大30%の値上げを予告した。メモリ、SSD、CPUのトリプルパンチが、PC業界を直撃している。
ASUS副総経理が明かした「最大30%」の衝撃
ASUSの値上げが、新たな段階に入っている。同社の聯合科技系統事業総経理・廖逸翔氏は3月23日(日本時間)、台湾市場のPC製品を第2四半期に25〜30%以上値上げすると明言した。機種によって幅は異なるが、過去最大級の引き上げ幅だ。
台湾の経済日報が報じた内容によれば、平均単価1,000ドルのノートPCで約1万台湾ドル(約5万円)の上乗せになる計算だという。1月5日から段階的に始まっていた値上げは、第2四半期で一気に加速する。
今回の発表は台湾市場に限定された内容だが、ASUSは3月初旬の法説会で、メモリ在庫が尽きた段階で全世界の販売価格を地域ごとに調整する方針をすでに示している。日本を含む他市場への波及は時間の問題だろう。
そしてこれはASUSだけの話ではない。Acer、MSI、GIGABYTEなど台湾のPC大手が軒並み値上げに動いており、廖氏も「台湾のPCブランドすべてが値上げしている」と語った。業界全体が同じ方向を向いている。
なぜここまで上がるのか──32GBメモリが6倍に
値上げの根本にあるのは、メモリ価格の異常な高騰だ。廖氏が挙げた具体例が、この危機の規模を物語っている。昨年わずか3,000台湾ドル程度だった32GBメモリが、今年の第2四半期には2万台湾ドル近くまで跳ね上がる見通しだという。
およそ6倍。部品1つでこの上昇幅は、もはや「高騰」ではなく「別の商品」に近い。
問題はメモリだけではない。SSD価格も上昇を続け、IntelとAMDのCPUにも供給不足が発生している。両社とも中高価格帯の製品を優先的に供給しており、エントリーモデル向けの調達はさらに厳しい。
TrendForceの最新予測によれば、2026年第1四半期のDRAMコントラクト価格は前四半期比90〜95%の上昇を記録。PC向けDRAMに至っては100%超の値上がりで、過去最高の上昇率となった。
メモリ、ストレージ、プロセッサの三つが同時に逼迫する。PC業界にとって、これ以上ない最悪のシナリオが現実になっている。
AIがメモリを「食っている」構造的な問題
この危機の震源地は、AIデータセンターだ。Samsung、SK Hynix、Micronの主要メモリメーカー3社は、NVIDIAのGPUなどに使われるHBM(高帯域幅メモリ)の生産に製造ラインを振り向けている。HBMは通常のDDR5と比べてウェハー消費量が約3倍。利益率もはるかに高い。
メーカーにとっては合理的な判断だ。しかし、その「合理性」のツケを払うのは一般消費者である。HBMに回されたウェハーの分だけ、PCやスマートフォン向けのDRAMとNANDが減る。
IDCはこの構造を「ゼロサムゲーム」と表現した。AIのGPUに割り当てられたウェハー1枚は、消費者向けノートPCのメモリやSSDから奪われた1枚だ、と。これは景気循環ではない。AI向けに製造能力が構造的に再配分された結果だ。
Tom's Hardwareの価格追跡データが示す現実も厳しい。2025年10月に60〜90ドルで買えた32GB DDR4キットが、2026年1月には150〜180ドルに跳ね上がった。DDR5のスポット価格は2025年9月比で4倍に達したとの報告もある。「メモリの地殻変動」と呼ぶほかない。
消えゆく「5万円以下のPC」──市場への波及
値上げの波は、PC市場そのものを縮小させ始めている。調査会社GartnerとIDCは、2026年のPC出荷台数が前年比10〜11%減少すると予測。TrendForceも最悪シナリオで10.1%減を見込んでいる。
深刻なのはエントリー市場だ。Gartnerは、500ドル以下のエントリーPCが2028年までに市場から消滅すると警告している。手頃な価格のPCが「過去のもの」になる時代が、すぐそこまで来ている。
一方で、台湾市場では逆の動きも起きている。さらなる値上げを見越した消費者や販売店が前倒しで購入に動いており、台湾のPC市場では買い気がむしろ増温しているという。ASUSの今年上半期の台湾PC販売は前年比約10%増の見通しで、製品の平均販売価格(ASP)は第1四半期で約15%、通年では30%の上昇を見込んでいる。
廖氏は「下半期もメモリ関連部品の値上がりが続く恐れがある。買い替え需要がある消費者は早めの購入を勧める」と述べた。メーカー幹部が「早く買え」と公言する異例の事態だ。
https://x.com/jukan05/status/2021483195884241177
いつまで続くのか──出口は2027年以降
いま消費者が最も知りたいのは「いつ終わるのか」だろう。答えは厳しい。IDCは供給不足が2027年まで持続する可能性を指摘し、Team GroupのGMも本格的な改善は2027年後半以降と見ている。SK Hynixの新工場や各社の設備投資が実を結ぶまでには、まだ時間がかかる。
楽観的に見ても、2026年後半に価格上昇のペースが鈍化する程度。メモリ価格が2024年水準に戻るのは2028年以降になるとの見方が大勢だ。
ASUSの共同CEO・胡書賓氏は以前、市場環境に応じて製品構成と価格を「非常に柔軟に」調整すると述べていた。裏を返せば、メモリ容量の削減──32GBから16GB、16GBから8GBへの「スペックダウン」──も視野に入っている。Acerの陳俊聖CEOも「そのような変更はすでに起きている」と認めている。
スペックが下がって価格は上がる。消費者にとって最も受け入れがたい組み合わせだが、メーカー側にも選択肢は限られている。
消費者にできること、メーカーが見ているもの
値上げは事実であり、短期的に覆る見込みはない。ただ、すべてが暗いわけでもない。ASUSはDDR4対応マザーボードのサポートを延長し、コスト重視のユーザー向けに旧世代プラットフォームの選択肢を維持している。自作PCユーザーにとっては、最新世代を追わないという判断がかつてないほど合理的になっている。
それにしても、これは奇妙な時代だ。AIが人間の仕事を効率化すると謳われる一方で、そのAIを動かすためのメモリが、人間が使うPCから奪われている。テクノロジーの恩恵を語る前に、そのコストを誰が負担しているのか──その問いは、PCの値札を見るたびに突きつけられる。
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