岬 徹

テクノロジー分野を中心に2024年からYouTubeで約3,000本の動画を制作。登録者4万5千人超、Xフォロワー1万人超、noteフォロワー千人超。AI、半導体、PC、ゲーム業界について、一次資料やデータを基に分析を続ける。

岬 徹
米企業のAI支出が急転換。安い中国モデルとの併用が拡大

AI

米企業のAI支出が急転換。安い中国モデルとの併用が拡大

数カ月前まで、米企業はAIにいくら使ったかを競っていた。いま競っているのは、いかに安く済ませるかだ。 「ランボルギーニで牛乳を買いに行くようなもの」 AIコーディングツールCursorでフィールドCTOを務めるマイク・サークス(Mike Saeks)は、元投資銀行家だ。2カ月前にCursorに加わり、企業のAI投資効率を測る仕事をしている。 Wall Street Journalが現地時間7月24日に報じたところによれば、サークスは企業のAIコスト管理をtokenomics(トークノミクス)と呼んでいる。トークンはAIの処理単位で、消費量がそのまま請求額になる。 サークスの見立てはこうだ。日常的な処理に最高性能のモデルは要らない。高性能モデルで計画を立て、安価なモデルで実行する。Cursorが実施した実験では、ウェブブラウザをゼロから構築する際、OpenAIのGPT-5.5だけを使うと1万ドル超(約164万円)かかった。Cursorの自社モデルComposerとAnthropicのOpus 4.8を組み合わせると1,339ドル(約22万円)で済んだという。 数カ月前まで米企

Linux 7.2-rc5公開。パッチ量は膨張、中身は平穏

Linux

Linux 7.2-rc5公開。パッチ量は膨張、中身は平穏

Linuxカーネル7.2の5番目のリリース候補が公開された。前サイクルの7.1に続き、rc5としては2回連続で規模が膨らんだが、リーナス・トーバルズ(Linus Torvalds)氏は内容に懸念はないとしている。 2サイクル連続の「大きなrc5」 トーバルズ氏は現地時間7月26日、Linux 7.2-rc5のリリースを告知した。前サイクルでも同様にrc5が膨らんでおり、これが常態化しつつある。 ただし今回は事情が異なるという。ネットワーキングツリーが前週、カンファレンスの影響で作業を溜め込んでおり、今週分と合わせて一気に流れ込んだ。その結果、パッチ全体の3分の1以上がネットワーキングで占められた。大半はドライバ側の修正だ。 ドライバ全般では珍しい傾向も出ている。今回はUSB関連の変更がGPUドライバを上回った。サウンド、tty、ブロック、FireWireなどの修正も含まれ、ドライバの変更は広範囲にわたる。 ドライバ以外では、テスト基盤(selftest、perf)、ファイルシステム(SMB、Btrfs)、Rustコード、アーキテクチャ固有の修正、ドキュメントの更新が入ってい

KVM、肥大化した中核構造体を3分割。Linux 7.3向け

Linux

KVM、肥大化した中核構造体を3分割。Linux 7.3向け

KVMの仮想メモリ管理を担う構造体kvm_mmuが、3つの独立した構造体に分割される。Linux 7.3のマージウィンドウに向け、KVM.gitのnextブランチへのマージが完了した。 「god data structure」にチェーンソーを入れる KVMメンテナーのパオロ・ボンジーニ(Paolo Bonzini)氏が、kvm_mmu構造体のリファクタリングをKVM.gitのnextブランチにマージした。ブランチ名はkvm-chainsaw。Linux 7.2の安定版リリースが8月中旬から下旬に予定されており、その直後に開くLinux 7.3のマージウィンドウで提出される見通しだ。 ボンジーニ氏はコミットメッセージの中で、kvm_mmuを"god data structure"(何でもやる万能構造体)と呼んでいる。1つの構造体が3つの異なる仕事を抱えていた。ゲストページテーブルのフォーマット記述とウォーク(走査)、そしてシャドウページテーブルの構築だ。 nested_mmuという構造体がguest_mmuより先に実装され、より直感的な名前を奪ってしまった経緯もある。コード中の

MicrosoftのAI投資1900億ドル 決算で注目すべき3つの論点

AI

MicrosoftのAI投資1900億ドル 決算で注目すべき3つの論点

AIに最も早く、最も大きく賭けた企業が、自らの賭けに追い詰められている。7月29日のQ4決算を前に、Microsoftの内部で何が起きているのか。 AIに賭けた3年、そして反転 3年前、サティア・ナデラ氏(Satya Nadella)はMicrosoftをAI競争の最前線に押し上げた。2023年2月、OpenAIへの早期投資を背景にAI搭載のBing検索を披露し、Googleの検索支配に宣戦布告した。同年末にOpenAIの取締役会危機を収拾すると、ビル・ガーリー氏(Bill Gurley)は「企業としての評判の劇的な転換」と評し、CNN Businessは彼を年間最優秀CEOに選んだ。 その評価が今、反転している。 Microsoftの株価は52週高値の555ドルから381ドル台まで落ち込み、12ヶ月前と比べて24%以上下落した。マグニフィセント・セブンの中で最悪の成績だ。投資家はMicrosoftの巨額AI投資が収益に結びつくのかを疑い始め、6月にはCopilotの実態とAzureの容量制約をめぐる集団訴訟も提起された。 同社が今年予定する設備投資は1900億ドル。その大

Appleスマートグラス、プライバシー懸念で発売を延期。カメラ非搭載も検討

Apple

Appleスマートグラス、プライバシー懸念で発売を延期。カメラ非搭載も検討

Metaのスマートグラスが積み上げてきた不信感が、後発のAppleの設計判断まで揺さぶっている。 Metaが残した傷跡 Appleがスマートグラスの発売を先送りにした。Bloombergのマーク・ガーマン記者が現地時間7月26日のニュースレターで報じたところによると、当初2026年末に予定されていた発表は2027年6月のWWDCに、発売は2027年末にそれぞれ延期されるという。 延期の理由は技術的な障壁ではない。Metaのスマートグラスが引き起こしたプライバシー問題が、Appleの開発方針を変えた。Visionハードウェアグループを含む開発チームは、プライバシーを最優先課題に据えているという。 Metaのスマートグラスは、小型カメラで周囲を録画できる機能が売りの一つだ。だが、録画中であることを示すLEDインジケーターは小さく、屋外では視認しにくい。LEDを隠すステッカーや、物理的に破壊するサービスまで出回っている。 2026年2月にはケニアのデータアノテーション企業で、ユーザーが撮影した極めて私的な映像を請負業者が閲覧していた実態が報じられ、3月には米国で集団訴訟が提起され

反AIオープンソース、共通の敵と内部の亀裂

AI

反AIオープンソース、共通の敵と内部の亀裂

トーバルズ発言を受けて反AI陣営が勢いづいているが、その内部は政治と倫理で分裂している。 「AIお断り」の波が止まらない リーナス・トーバルズ(Linus Torvalds)が現地時間7月15日、Linuxカーネルのメーリングリストで「Linuxは反AIプロジェクトではない」と宣言した。AIに反対する開発者には「フォークするか、立ち去れ」と告げている。 トーバルズの立場は一貫して実用主義だ。AIは便利かどうかだけで判断すべきであり、倫理や社会的な議論はカーネル開発の領分ではないという姿勢を崩していない。 この発言はAI推進派を勢いづかせた。だが同時に、Linuxカーネルが公式に「反AIではない」と線を引いたことで、反AIを掲げるプロジェクトの存在意義がかえって際立っている。 実際、ここ数カ月でAI生成コードを拒否する動きは加速している。 ヨーロッパの非営利コードホスティングCodebergは、現地時間7月22日の会員投票で利用規約を改定した。賛成358、反対144で、生成AIで書かれたコードが大半を占めるプロジェクトのホスティングを禁止した。ホストされたコードやユーザーデ

Steamの掲示板に「修正コマンド」を装う仮想通貨マイナー

Steam

Steamの掲示板に「修正コマンド」を装う仮想通貨マイナー

ゲームのトラブルに困るユーザーへの返信を装い、仮想通貨マイナーを仕込むPowerShellコマンドがSteamの掲示板に投稿されている。 「このコマンドを実行すれば直る」 Steamのディスカッションフォーラムで、ゲームのクラッシュやインベントリ消失を相談する投稿が狙われている。捨てアカウントが「修正方法」と称するPowerShellコマンドを返信する手口が報じられた。 投稿の内容は具体的だ。「Win+Rを押してpowershellと入力し、管理者として実行。以下を貼り付けて実行すれば直る」。困っているユーザーが指示に従うと、オープンソースの仮想通貨マイナーXMRigがダウンロード・実行される。PCのCPUを使って仮想通貨モネロ(Monero/XMR)を攻撃者のために採掘し続ける。 ClickFixと呼ばれるこの手法は、偽のエラー画面やCAPTCHA認証を表示してユーザー自身に悪意あるコマンドを実行させる。ユーザーが自ら操作している以上、ブラウザやセキュリティソフトの自動検知はすり抜ける。 今回は偽のWebページではなく、Steamの掲示板が使われている。困っているユーザー

FreeBSDの音が壊れた。メーリングリストに怒りと知恵が集まる

FreeBSD

FreeBSDの音が壊れた。メーリングリストに怒りと知恵が集まる

FreeBSDの音声サブシステムにリグレッション(以前は動作していた機能の不具合再発)が入り、最新の15.1でも治っていない。メーリングリストに立った1本のスレッドが、1週間で40件超に膨れ上がった。 「ログに何も残らない」 デスクトップユーザーのvermaden氏が現地時間7月20日、freebsd-stableメーリングリストに投稿した。件名は「Tragic State of FreeBSD Audio/Sound」、音声の悲惨な現状を訴える内容だ。 同氏の環境はThinkPad T480。2018年発売のノートPCで、FreeBSD 14.3から14.4への移行のどこかでリグレッションが発生した。 出所不明のランダムなブーンという音が鳴る。ログには何も残らず、原因がOSS(Open Sound System、FreeBSDのカーネルレベル音声基盤)にあるのかPulseAudioにあるのか切り分けられない。15.1-RELEASEに上げても改善しなかったという。 「ランダムなブーンという音は受け入れられない。どこから来ているのかすらわからない。OSSの問題なのか、Pul

マインクラフトJava版、17年ぶりに推奨RAM16GBへ引き上げ

Minecraft

マインクラフトJava版、17年ぶりに推奨RAM16GBへ引き上げ

Mojang Studiosが7月21日付でMinecraft Java Editionのシステム要件を改定した。推奨メモリは16GB、GPUにはVulkan 1.3対応が求められる。 旧要件が映す17年前のPC Minecraft Java Editionのシステム要件が前回定められたのは、ゲームがまだ初期の姿だった頃のことだ。旧推奨CPUはCore i5-4690とA10-7800、メモリは4GB、GPUはGeForce 700シリーズとRadeon RX 200シリーズ。旧最低要件にいたってはRAM 2GB、GPUにIntel HD Graphics 4000を挙げていた。 2010年代前半のミドルクラスPCで快適に動く、というのが長らくマインクラフトの看板だった。その看板が、現地時間7月21日付の公式ブログで書き換えられた。 新しい最低ラインと推奨ライン 新しい最低要件は、1080p・30fps・処理優先(Fast)が到達目標になっている。64bit OS、CPUはCore i3-10100またはRyzen 3 3100、GPUはGeForce GTX 950また

Windows 11、ファイル削除を高速化。6月予告の30%改善がInsiderに到達

Windows11

Windows 11、ファイル削除を高速化。6月予告の30%改善がInsiderに到達

エクスプローラーでの大容量ファイル削除が速くなる。最新のInsiderビルドの変更ログに、削除速度の改善が初めて記載された。6月に予告されていた高速化が、実装段階に入っている。 フラグメント化したファイルの削除が速くなる 現地時間7月20日にリリースされたWindows 11 Insider Preview Build 26300.8935(Experimentalチャンネル、実験的な新機能をテストする枠)の変更ログに、エクスプローラーの削除速度改善が載っている。 File deletion in File Explorer is now faster in certain scenarios when deleting large, fragmented files. (エクスプローラーでのファイル削除が、大きなフラグメント化ファイルを削除する特定のケースにおいて高速になった) Microsoftは6月、米国のWindows Insiderミートアップで、ファイルの一括削除が少なくとも30%速くなると予告していた。「30%」は下限であり、環境によってはそれ以上になる可能性が

イラン戦争でTruth Socialの情報発信力に限界 トランプ政権の広報戦略を分析

イラン戦争

イラン戦争でTruth Socialの情報発信力に限界 トランプ政権の広報戦略を分析

5か月前まで、トランプ大統領のSNS投稿はアメリカの報道の議題を決める力を持っていた。その力が、イラン戦争で折れつつある。 「もう一つの現実」の賞味期限 トランプ大統領は現実とは別の物語を作り、支持者にそれを受け入れさせてきた。 気に入らない報道は「フェイクニュース」と呼び、2021年1月6日の連邦議会襲撃に加わった暴徒を「被害者」と定義し直した。2020年の大統領選で不正があったと根拠なく主張し続け、2024年にはオハイオ州スプリングフィールドでハイチ移民がペットを食べているという虚偽を繰り返して地元住民への脅迫を招いている。 Truth Socialへの投稿は、かつて主要メディアの報道を左右する力を持っていた。トランプが何かを投稿すれば、それがその日のニュースになった。 2月28日にイラン戦争が始まってから、その構造が崩れ始めている。 90分で16投稿、中身はAI合成画像 4月29日の午前4時過ぎ、トランプ大統領は銃を構えた自分のAI合成画像とともに「NO MORE MR. NICE GUY!」(もういい人はやめた)と投稿した。ホルムズ海峡は封鎖されたままで、和平

ChatGPTが危険物に関する手順を回答した事例 OpenAIの安全対策を検証

AI

ChatGPTが危険物に関する手順を回答した事例 OpenAIの安全対策を検証

AIが生物兵器の知識を持つ段階は、とうに過ぎた。いま問われているのは、その知識が悪意あるユーザーに渡るかどうかを、誰が、どんな権限で止めるか。 高校の生物学で実行できる手順 2025年夏、OpenAIがChatGPTの推論能力を強化した直後から、世界中の数百人のユーザーが生物兵器や毒物の製造方法を問い始めた。 WSJが現地時間7月25日に報じたところによると、ChatGPTはこれらの問いに「辛抱強く応答」し、高校レベルの生物学知識があれば実行可能な手順を出力していた。 生物学・テロリズムの専門家がChatGPTとのやり取りの記録を事後的に確認した結果、一部は致死的に正確だったと判断されたという。問い合わせの大半は毒物の調合に関するものだったとOpenAIは説明している。 OpenAIは該当するアカウントを停止したが、法執行機関には通報していない。 通報しなかったのは怠慢ではない。米国には、AIモデルに殺傷方法を問うたユーザーの情報を制限・開示するよう求める連邦法が存在しない。児童性的虐待素材の生成は禁じられているが、それ以外の線引きは各企業に委ねられている。 「おばあ

glibc 2.44リリース。設定ファイル方式のチューナブルと数学関数の最適化

glibc

glibc 2.44リリース。設定ファイル方式のチューナブルと数学関数の最適化

GNU Cライブラリ(glibc)の最新版2.44が公開された。チューナブル設定に新たな手段が加わり、数学関数の高速化や複数アーキテクチャへの最適化が進んでいる。 環境変数から設定ファイルへ 今回の注目は、/etc/tunables.confの導入にある。 glibcには「チューナブル」と呼ばれる仕組みがあり、mallocの動作やメモリ管理のパラメータを実行時に調整できる。従来はGLIBC_TUNABLES環境変数でプログラムの起動前に設定する必要があった。 新たに加わった/etc/tunables.confは、これを設定ファイルとして永続的に管理できるようにする。1行に1つのチューナブルを記述し、ldconfigを実行して適用する仕組みで、Red Hatが開発に貢献した。 この変更には背景がある。2023年10月、QualysがGLIBC_TUNABLES環境変数のパーサーにバッファオーバーフローの脆弱性を発見した。「Looney Tunables」(CVE-2023-4911)と名付けられたこの問題は、ローカルの攻撃者がroot権限を奪取できるもので、CVSSスコアは7

AI検出ツールの100%判定、裁判所が覆す。大学は「何を評価するか」を問い直す

AI検出

AI検出ツールの100%判定、裁判所が覆す。大学は「何を評価するか」を問い直す

大学が導入したAI検出ツールが「AI生成100%」と判定したエッセイをめぐり、ニューヨーク州の裁判所が不正認定を取り消した。検出ツールへの依存が法的にも揺らぎ始めている。 覆った100% 2024年秋、アデルフィ大学の1年生オリオン・ニュービー氏(Orion Newby)は、世界史の授業でエッセイを提出した。自閉スペクトラム症の診断を受けており、大学が提供する学習支援プログラム「Bridges」のチューターの助けを借りて書き上げたものだった。 教授はそのエッセイをTurnitinにかけた。返ってきた判定はAI生成スコア100%。教授は学術不正の報告書を提出し、ニュービー氏には剽窃防止ワークショップの受講が命じられた。2度目の違反があれば停学か退学もありうる処分だった。 ニュービー氏はAIの使用を否定し、別の検出ツール(Grammarly AI DetectorとzeroGPT)で同じエッセイを検査した結果を大学に提出した。両方とも「AI生成の確率0%」と判定していた。 大学はこの反証を考慮しなかった。不正認定を下した担当者と、上訴を審理した担当者が同一人物だったことも、のち