岬 徹

テクノロジー分野を中心に2024年からYouTubeで約3,000本の動画を制作。登録者4万5千人超、Xフォロワー1万人超、noteフォロワー千人超。AI、半導体、PC、ゲーム業界について、一次資料やデータを基に分析を続ける。

岬 徹
ノートPCが「量子超越」を覆した2026年、量子コンピュータの現在地

量子コンピュータ

ノートPCが「量子超越」を覆した2026年、量子コンピュータの現在地

2026年は国連が定めた国際量子科学技術年にあたる。量子コンピュータをめぐる期待と現実の距離が、この1年半で急速に変わり始めている。 量子超越はどこへ行ったのか 2019年、Googleは量子プロセッサSycamoreが古典的なスーパーコンピュータで1万年かかる計算を200秒で終えたと発表した。量子コンピュータが古典コンピュータに対して圧倒的な計算能力を示す「量子超越(quantum supremacy)」の実証とされ、世界的なニュースになった。 ところが2026年5月、その前提を揺るがす論文がScienceに掲載された。 サイモンズ財団フラットアイアン研究所とボストン大学の研究チームが、量子コンピュータでしか解けないと主張されていた数百量子ビットの相互作用シミュレーションを、古典コンピュータで解いてみせた。テンソルネットワークと呼ばれる数学的圧縮技術と、1980年代の「ビリーフ・プロパゲーション(belief propagation)」アルゴリズムを組み合わせた手法だ。 驚くべきは、初期計算の一部が個人用のノートPCで実行されたという点にある。スーパーコンピュータですらな

トランプ氏の会見で「空の引き出し」が登場 発言の文脈を整理

トランプ

トランプ氏の会見で「空の引き出し」が登場 発言の文脈を整理

トランプ大統領が現地時間7月16日に全米向けプライムタイム演説を行い、選挙関連の機密文書を公開した。中国が2億2000万件の有権者データを取得したと主張したが、投票結果が操作された証拠は示されなかった。 一週間かけて煽り、迎えた夜 トランプ大統領は7月13日、全米向けの演説で「本当に大きなニュース」を発表すると予告した。内容は明かさなかった。「選挙に関することだ」とだけ述べ、報道機関にプライムタイムの放送枠を要請した。 現地時間7月16日(木)午後9時、ホワイトハウスのイーストルームに大統領が立った。約25分間の演説で、2020年の選挙に関する機密文書の即時解除と公開を発表し、米国の選挙インフラが「壊滅的に不十分」だと訴えた。 演説には4つの柱があった。中国による有権者データの取得、投票機の脆弱性、ミシガン州での有権者登録不正の捜査、非市民の有権者登録。トランプ大統領はいずれも自らの持論を裏付ける「衝撃の暴露」として提示した。 だが演説の数時間前、ホワイトハウスの当局者が記者向けブリーフィングで認めていた事実がある。今回公開する文書には、投票が切り替えられた、あるいは投票機

ASML、EUV装置の値上げ方針にTSMCが反発

半導体

ASML、EUV装置の値上げ方針にTSMCが反発

ASMLがEUV装置の値上げに動き、最大顧客TSMCが反発している。受注は2027年末まで売り切れ。装置の価格交渉が始まった。 生産性だけでなく「価値」に値段をつける ASMLのロジャー・ダッセン(Roger Dassen)CFOは7月15日の2026年第2四半期決算説明会で、Low-NA EUV装置の価格引き上げに言及した。 ASMLはこれまで、装置のスループット(1時間あたりの処理ウェハー枚数)が上がれば販売価格も上げるという方針を採ってきた。value-based pricing(価値に基づく価格設定)と呼ばれる考え方だ。ダッセン氏がこの場で示したのは、その枠を広げる方針だった。 スループットの向上だけでなく、イメージング精度やオーバーレイ性能の改善にも対価を求める。装置が顧客にもたらす価値を丸ごと価格に載せるという方向転換になる。 ダッセン氏は「リードタイムが長いため、価格への反映はすぐには起こらない」とも述べた。ASMLのEUV装置は2027年末まで売り切れ、2028年分も相当数が受注済みだ。今回の価格交渉が影響するのは、2028年後半以降に出荷される装置になる。

Apple、iPhoneを日本で最大11%値上げ

Apple

Apple、iPhoneを日本で最大11%値上げ

6月にMac・iPadの価格を引き上げた際、Appleが手をつけなかった製品がある。iPhoneだ。その猶予が3週間で終わった。 全モデルが対象 Appleは現地時間7月17日、日本のオンラインストアでiPhone全モデルの販売価格を引き上げた。対象はiPhone 17 Pro Max、iPhone 17 Pro、iPhone Air、iPhone 17、iPhone 17e、iPhone 16の6モデルで、値上げ幅は8%から11.3%。 各モデルの改定前後の価格は以下の通り(いずれも最小ストレージ構成)。 iPhone日本価格の改定(最小ストレージ構成) モデル改定前改定後値上げ率iPhone 17 Pro Max19万4800円21万4800円10.3%iPhone 17 Pro17万9800円19万4800円8.3%iPhone Air15万9800円17万7800円11.3%iPhone 1712万9800円14万2800円10%iPhone 17e9万9800円10万7800円8%iPhone 1611万4800円12万4800円8.7% ※2026年

ハサビスとアモデイ、規制を求めるAI企業の急転換

AI

ハサビスとアモデイ、規制を求めるAI企業の急転換

フロンティアAIを開発する企業のトップが、34日の間隔を置いて相次ぎ「自分たちを規制する制度」の設計図を発表した。 FINRA型かFAA型か Google DeepMindのデミス・ハサビス(Demis Hassabis)CEOが7月14日、個人のSubstackにエッセイ「A Framework for Frontier AI and the Dawning of a New Age」(フロンティアAIの枠組みと新時代の幕開け)を公開した。 AGIは「おそらくあと数年」で到達するとの認識を示したうえで、米国主導のAI監視機関「Frontier AI Standards Body」(フロンティアAI基準機構)の設立を提案している。 モデルにした組織はFINRA(金融業規制機構)。証券業界を自主規制するこの民間団体は、SEC(米証券取引委員会)の監督下で運営され、業界からの拠出金で成り立つ。ハサビス氏はこの仕組みをAIに持ち込もうとしている。 フロンティアモデルの開発企業がリリースの最大30日前にモデルを提出し、独立した専門家がサイバーセキュリティ、生物兵器、欺瞞行為に関する

Meta、Anthropicに計算能力を売る交渉 最大100億ドル規模

AI

Meta、Anthropicに計算能力を売る交渉 最大100億ドル規模

AnthropicがMetaにデータセンターの計算能力を借り受ける交渉を持ちかけている。2年間で最大100億ドル規模とされ、実現すればMeta Computeの最初の大型案件になる。 買い手が売り手に回る ニューヨーク・タイムズが7月17日、関係者3人の話として報じた。Anthropicが6月にMetaへ提案し、Metaが検討に入った段階だという。 月額の分割払いで途中解約の条項も含むが、交渉は初期段階であり、合意に至らない可能性もある。 Anthropic、Metaともにコメントを出していない。 金額の規模感を掴むには、AnthropicがSpaceXと5月に結んだ契約が参考になる。SpaceXのIPO申請書類で明らかになった同契約は、コロッサス1・2のデータセンターを使い、月額12億5000万ドル、3年間で最大450億ドルに達する。今回のMeta向け提案はその約3分の1にあたる。 Metaの計算資源が売り物になる理由 Metaは2026年の設備投資を1250億〜1450億ドルと見込み、その大半をAIインフラに振り向ける。昨年の722億ドルから約2倍の引き上げだ。マ

1991年のLinuxカーネルをRustで書き直した大学生の話

Linux

1991年のLinuxカーネルをRustで書き直した大学生の話

トーバルズ氏が「フォークしろ」と言った2日後、35年前のカーネルをAIで書き直したプロジェクトがHacker Newsに浮上した。実用性はゼロ。だからこそ面白い。 35年前のカーネルが動いた 北京航空航天大学(ベイハン大学)の学部生が、1991年にリリースされたLinuxカーネル0.11を丸ごとRustで書き直した。ハンドルネームは「Poseidon」。リポジトリ名はlinux-0.11-rs。 Linux 0.11は1991年12月8日に公開された初期カーネルで、初版(0.01)の公開から約3か月後にあたる。リーナス・トーバルズ(Linus Torvalds)氏がヘルシンキ大学の学生だった時代の産物だ。0.11はLinuxが初めてセルフホスティング(自分自身をコンパイルできる状態)に到達したバージョンでもある。 Poseidon版はこの0.11を、オリジナルのセマンティクス(動作仕様)を維持しながらRustで一から実装し直している。カーネル本体に加え、60以上のcoreutils(基本的なUnixコマンド群)、パイプラインや制御構文を備えたPOSIXサブセットのシェル、Ta

Microsoft Teamsが社用Wi-Fiで出社を自動検知する新機能を展開開始、「監視ではない」とMicrosoftは主張

Microsoft

Microsoft Teamsが社用Wi-Fiで出社を自動検知する新機能を展開開始、「監視ではない」とMicrosoftは主張

Teamsに「Workplace Check-in」と呼ばれる勤務場所の自動検知機能が展開され始めた。社用Wi-Fiへの接続をきっかけに「オフィスにいる」というステータスを自動で更新する仕組みで、Microsoftは従業員監視を否定している。だが、組織の運用次第では出社管理に転用できる設計上の余地が残っており、批判が続いている。 Teamsのオンライン表示が「どこにいるか」まで拡張される Teamsにはもともと、同僚がオンラインかどうかを示すプレゼンス機能がある。緑のアイコンなら通話可能、黄色なら離席中で、会議に入ると赤に変わる。業務用チャットでは標準的な機能だ。 今回のWorkplace Check-inは、このプレゼンス機能を拡張し、「今どこで働いているか」まで表示する。Teamsデスクトップアプリ(Windows・macOS対応)が社用Wi-Fiへの接続を検知すると、勤務場所を「オフィス」や特定の建物名に自動更新する。Wi-Fiだけでなく、管理者が登録したモニターやドッキングステーションなどのデスク周辺機器への接続もトリガーになる。 Microsoftの公式ドキュメント

8GB Surface Laptopが動かなかった日

Windows11

8GB Surface Laptopが動かなかった日

Microsoftが自社のSurface Laptopを8GBで出荷した。レビューではまともに動かなかった。Windows 11の最低要件「4GB」は、もはや誰も信じていない数字だ。 Microsoftが作った8GB機を、Microsoftが動かせなかった MicrosoftはSurface Laptop 13インチの8GB/256GB構成を、949.99ドルで発売した。プロセッサはSnapdragon X Plus(8コア)。旧世代チップに、前モデルの半分のメモリ。Copilot+ PCの認定要件(16GB以上)を満たさず、Windows 11のAI機能はいずれも動かない。 この8GBモデルのレビュー。再起動直後、アプリを数本開いただけでメモリ使用量は4.2GBに達する。Teamsのビデオ通話にChromeのタブを数枚加えると、数秒間完全に止まる。Google Docsで文字を打つだけでも断続的に固まる。16GB版との差はCPUでもストレージでもなく、メモリ容量だけが原因だとレビューは結論づけている。 949.99ドルの製品が、ブラウザのタブを数枚開いただけで止まる。

豪州、AIデータセンターに「電力自給」を義務化へ

AI

豪州、AIデータセンターに「電力自給」を義務化へ

オーストラリアが、AIデータセンターに消費量と同等の発電を義務づける国家基準を策定する。水・著作権・送電網コストも対象とした包括的な法制化は世界初の試みになる。 「使った分は、自分で作れ」 オーストラリアのアンソニー・アルバニージー(Anthony Albanese)首相は現地時間7月15日、シドニー大学で演説し、「Australian Standards for AI」(オーストラリアAI基準)の策定を発表した。AIデータセンターの電力、水、送電網の接続費用、著作権保護を一つの国家フレームワークにまとめ、法的拘束力を持たせる。 柱は3つある。 第一に、大規模データセンターに対して、消費する電力と同量の新規発電を義務づける。再生可能エネルギーによる発電と調整力を自前で確保し、送電網から取り出す以上の電力を供給する「純発電者」になることを求める。送電網への接続費用も全額自己負担とし、家庭や企業の電気料金に転嫁させない。 第二に、水の使用効率を最大限に高め、追加の水インフラが必要であればその費用も事業者が負担する。オーストラリアは居住大陸のなかで最も乾燥した土地だ。 第三に、

Windowsゼロデイ「LegacyHive」制限付きPoCで公開

セキュリティ

Windowsゼロデイ「LegacyHive」制限付きPoCで公開

Nightmare Eclipse氏がWindowsの権限昇格ゼロデイ「LegacyHive」を公開した。公開版PoCは意図的に制限されているが、複数の研究者が管理者権限への到達を確認している。 570件のパッチを抜けて 7月14日のPatch Tuesdayで、Microsoftはセキュリティ脆弱性570件を修正した。過去最大規模の月例更新だ。 その数時間後、Nightmare Eclipse氏がWindowsの新たなゼロデイ「LegacyHive」の実証コード(PoC)をGitHubに公開した。対象はWindowsユーザープロファイルサービス(ProfSvc)。サインイン時にユーザープロファイルを読み込むコンポーネントだ。 この脆弱性を突くと、別のユーザーのレジストリハイブ(Windowsやアプリケーションの設定を格納するファイル)を不正にマウントできる。CVEは割り当てられていない。 全サポート中のWindows(デスクトップ・サーバ)で動作する。7月のパッチを当てた直後の環境でも防げない。 制限されたPoC、制限されていない本体 今回のLegacyHiveには

ナデラ氏、Fable 5を社内で「意味がない」と批判

AI

ナデラ氏、Fable 5を社内で「意味がない」と批判

Microsoftのサティア・ナデラ会長兼CEOが社内会議で、AnthropicのAIモデルFable 5のリクエスト制限を名指しで批判した。50億ドルを投じたパートナーへの異例の発言であり、背景にはモデルの「強さ」よりも「使いやすさ」へ重心を移すMicrosoftの戦略がある。 「ここまで制約された創作ツールがあっただろうか」 現地時間7月15日、ナデラ氏はCopilot AI開発チームとの会議でFable 5に言及した。 「Fableを使って、何かランダムなことを拒否されるたびに思う。ここまで編集上の制約を受けた創作ツールが、今まであっただろうか。意味がわからない」(ナデラ氏のCNBCへの発言記録) MicrosoftはAnthropicに最大50億ドルを出資し、Azure上でClaudeモデルを提供している。Copilot CoworkのエンジンにもClaudeが採用されている。出資者がパートナーの主力製品を社内で批判した形だ。 Microsoftはコメントを拒否した。Anthropicの広報担当者はコメントの求めにすぐには応じなかった。 Fable 5が背負った

Microsoft、Mythos対抗のAIセキュリティ製品を準備

AI

Microsoft、Mythos対抗のAIセキュリティ製品を準備

AIが発見する脆弱性の件数が急増するなか、Microsoftが顧客向けの対抗製品を今月にも投入するという。 「Project Perception」の輪郭 MicrosoftがAIを使った脆弱性発見の新製品を準備していることが、The Informationの報道で明らかになった。社内コードネームはProject Perception。今月中にもローンチする可能性があるという。 AnthropicのClaude Mythos Previewと同様に、ソフトウェアの脆弱性を自動で発見・修正する能力を企業に提供する。Mythos PreviewはProject Glasswingを通じて限定公開され、1万件以上の高深刻度の脆弱性を発見してきたが、運用コストの高さが課題とされている。 PerceptionはMicrosoft、OpenAI、AnthropicのAIモデルを組み合わせ、タスクごとに最適なモデルを選ぶモデルルーター方式を採用する。コストを抑えながら同等の能力を実現するのが狙いだ。 価格は未定とされている。 MDASHの延長線上にあるもの この製品がまったく新しい

RTX 50 SUPERの実物がボードパートナーに到着、販売は保留

GPU

RTX 50 SUPERの実物がボードパートナーに到着、販売は保留

NVIDIAのRTX 50 SUPERシリーズが、ボードパートナーの手元に届いた。製品として出荷できる状態にあるが、販売の許可は下りていない。3GB GDDR7メモリの価格がまだ固まらないことが理由だという。 カードは存在する、売れないだけだ 少なくとも1社のNVIDIAのボードパートナーが、RTX 50 SUPERシリーズのカードを受け取ったという。ハードウェアの準備は完了し、内部仕様やプロトタイプの段階はすでに超えている。 にもかかわらず、NVIDIAはボードパートナーに対して販売を許可していない。新たな発売日程も示されていない。 RTX 50 SUPERシリーズは、2025年夏にスペックがリークされて以来、延期と復活を繰り返してきた。CES 2026での発表が期待されたが実現せず、無期限延期が報じられ、一時は計画自体の消滅すら取り沙汰された。2026年6月に入ってリーカーのMEGAsizeGPU氏が「back on track」(軌道に戻った)と投稿し、7月上旬にはSeasonicの電源計算機にRTX 50 SUPERの3モデルが登録された(翌日削除)。 R