岬 徹

テクノロジー分野を中心に2024年からYouTubeで約3,000本の動画を制作。登録者4万5千人超、Xフォロワー1万人超、noteフォロワー千人超。AI、半導体、PC、ゲーム業界について、一次資料やデータを基に分析を続ける。

岬 徹
脳の電極で「声」を取り戻した男。ALSでもフルタイムで働く

医療テクノロジー

脳の電極で「声」を取り戻した男。ALSでもフルタイムで働く

ALSで声と身体の自由を奪われた環境活動家が、脳に埋め込んだインターフェースだけで毎分56語を話し、メールを打ち、ウェブを操作して、フルタイムの仕事を続けている。ブレイン・コンピュータ・インターフェースが研究室の実験から、一人の日常を支える「道具」に変わった。 3,800時間が証明したもの ケイシー・ハレル(Casey Harrell)氏は47歳。カリフォルニア州オークランドに住む気候変動の活動家だ。かつてブラックロックやバンガードに気候対策を迫るキャンペーンの中心にいた。 2020年、ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断された。四肢の麻痺と構音障害が進行し、娘に自分の声で話しかけることができなくなった。 2023年7月、カリフォルニア大学デイヴィス校(UC Davis)の脳神経外科医デイヴィッド・ブランドマン(David Brandman)氏がハレル氏の脳に4つのマイクロ電極アレイを埋め込んだ。場所は左中心前回。発話の運動指令を出す領域だ。256個の皮質電極が「話そうとする」ときの脳活動を拾う。AIのデコーディングアルゴリズムがそれを音素に変換し、音素から単語へ、単語から文へ

「コンテンツは王だ」と書いた男の会社が、王を潰しにかかっている

AI

「コンテンツは王だ」と書いた男の会社が、王を潰しにかかっている

1996年1月、ビル・ゲイツ(Bill Gates)氏はMicrosoftの公式サイトに短いエッセイを掲載した。タイトルは「Content is King」。冒頭の一文はこうだ。「インターネットで本当に金を生むのはコンテンツだと私は考えている。放送がそうであったように」。30年前、まだテキスト中心で回線も遅かったウェブの未来を、ゲイツ氏は正確に言い当てた。 その予言は現実になった。ブログ、ニュースサイト、動画配信、ポッドキャスト。コンテンツが検索エンジンを通じて読者に届き、広告収入でつくり手に還元される。このサイクルを土台に数十億ドル規模の産業が育ち、インターネット経済の基盤になった。 いま、そのサイクルが壊れ始めている。壊しているのは、ゲイツ氏が共同創業した会社を含む巨大テック企業群だ。 30年越しの裏切り Googleが検索結果の最上部にAI Overviewを導入したのは2024年5月。検索ページの一等地にAIが生成した要約を置き、ユーザーが元記事をクリックしなくても「答え」を得られるようにした。 影響は数字に出た。Chartbeatが2026年3月に公表したデータに

Surface新世代、性能も価格も一段上へ。Snapdragon X2搭載の代償

PC

Surface新世代、性能も価格も一段上へ。Snapdragon X2搭載の代償

2024年5月に初代Copilot+ PCとして登場したSurface ProとSurface Laptopが、2年ぶりにSnapdragon X2世代へ刷新された。GPU性能は最大58%向上し、NPUは80 TOPSに到達。だが、米国の最低価格は前世代の999ドルから1,499ドルへと500ドル跳ね上がった。日本での販売価格はSurface Proが29万1,280円から、Surface Laptopが29万1,890円から。性能向上の裏で、Surfaceはもはや「買いやすいPC」ではなくなりつつある。 Snapdragon X2で何が変わったか Microsoftが現地時間6月16日に発表したのは、Surface Pro(第12世代)とSurface Laptop(第8世代)の2機種。いずれもQualcommのSnapdragon X2 PlusとX2 Eliteを搭載し、前世代のSnapdragon X1から世代交代した。 Snapdragon X2は第3世代Oryonコアを採用した3nmプロセスのSoCで、NPUは前世代の45 TOPSから80 TOPSへ大幅に強化され

Apple、2027年秋に3製品を同時投入か。カメラAirPods・折りたたみ第2世代・20周年iPhone

Apple

Apple、2027年秋に3製品を同時投入か。カメラAirPods・折りたたみ第2世代・20周年iPhone

カメラ搭載AirPods、折りたたみiPhone第2世代、そしてiPhone 20周年記念モデル。Appleがこの3製品を2027年秋に同時投入する計画だと報じられた。実現すれば新CEO体制における過去最大規模の製品刷新となるが、3つすべてが予定通りに揃う保証はない。AI側のソフトウェア開発が、計画全体を縛っている。 「見る耳」が来る 3製品のなかで最も異質なのが、カメラ搭載AirPodsだ。開発コードネームはB798。ステム部分に小型カメラを内蔵し、装着者の周囲をSiriに「見せる」デバイスとして設計されている。写真や動画を撮るためのカメラではない。 冷蔵庫の中身を見ながら「今夜何を作れる?」とSiriに聞く。歩きながら視界に入った看板の情報を取得する。想定されている用途はそうした日常の延長線上にあり、カメラは人の「目の代わり」というより、Siriに視覚を渡すセンサーに近い。動作中であることを外部に示すLEDライトもステム外側に備わるという。 外見は現行のAirPods Proとほぼ同じだが、カメラを収めるぶんステムがやや長い。開発はすでにDVT(設計検証テスト)に達してお

KDE Plasma 6.7リリース。21年越しの悲願と、X11最後の夏

Linux

KDE Plasma 6.7リリース。21年越しの悲願と、X11最後の夏

KDEのデスクトップ環境Plasma 6.7が、現地時間6月16日にリリースされた。目玉は「画面ごとの仮想デスクトップ」。2005年にKDE 3.3.2上で提出された要望から数えて、実に21年。この機能を実装したのはKDEコミュニティの外にいたPHP開発者だった。30周年を迎えるKDEにとって節目のリリースであり、X11セッションを提供する最後のバージョンでもある。 21年、ひとりのPHP開発者が動かした 2005年6月、あるKDEユーザーがバグトラッカーに要望を出した。デュアルモニター環境で仮想デスクトップを切り替えると、両方の画面が一斉に切り替わる。片方だけ動かしたい。解像度は1280×1024が2枚。時代を感じる構成だが、問題の本質は2026年まで変わらなかった。 実装を阻んでいたのはX11の仕様だ。EWMH(拡張ウィンドウマネージャーヒント)は「アクティブな仮想デスクトップは常にひとつ」が前提で、画面ごとに別のデスクトップを表示する概念がそもそもない。2013年、当時のKWinメンテナーだったマルティン・フレーサー(Martin Flöser)氏がX11上での実装を退け

Fable 5輸出規制、G7同盟国の例外要請も拒否

テクノロジー

Fable 5輸出規制、G7同盟国の例外要請も拒否

Anthropicの最先端AIモデルが、発売わずか3日で全世界から引き上げられた。安全保障上の脅威とされたのは、たった三語のプロンプトだった可能性がある。G7の場で英国が再開を求めても、米国は首を縦に振らなかった。 発売3日で全世界停止 6月9日、AnthropicはClaude Fable 5とClaude Mythos 5を公開した。一般ユーザーに提供する初のMythosクラスモデルで、ソフトウェア工学のベンチマークSWE-Bench Proで80.3%を記録。サイバーセキュリティ関連のクエリは自動的にClaude Opus 4.8へ迂回させるセーフガードを備え、API価格は入力100万トークンあたり10ドル、出力50ドルに設定された。 3日後の6月12日、両モデルは停止した。 米商務省のハワード・ラトニック(Howard Lutnick)長官がAnthropicのCEOダリオ・アモデイ(Dario Amodei)氏宛てに書簡を送り、Fable 5とMythos 5への輸出規制を発動した。米国内外を問わず、外国籍者によるアクセスをすべて禁じる内容で、Anthropicの外

RTX Remix 1.5公開。ファイル肥大化の壁をRTX IOが崩し始めた

ゲーム

RTX Remix 1.5公開。ファイル肥大化の壁をRTX IOが崩し始めた

NVIDIAのMODプラットフォーム「RTX Remix」がバージョン1.5へ更新された。最大の変更点はRTX IOによる圧縮パッケージングの導入で、Half-Life 2 RTXデモのインストールサイズは80GBから50GBへ、Portal with RTXは25GBから17GBへ縮小している。 レイトレーシングMODが抱えていた「重さ」 RTX Remixは、DirectX 8/9世代のクラシックゲームにフルレイトレーシングを後付けするオープンソースのMODプラットフォームだ。2025年3月の正式リリース時点で、3万人以上のモッダーがツールを使い、100万人以上がリマスターされたゲームを遊んだとNVIDIAは発表している。 ただ、パストレーシングは膨大なデータを必要とする。高解像度テクスチャ、PBRマテリアル、法線マップ。これらが積み重なり、RTX Remix製のMODはインストールサイズが膨れがちだった。 Half-Life 2 RTXデモが80GB。2004年のゲームのたった2チャプター分で、だ。 RTX Remix 1.5は、この課題にRTX IOで切り込んだ。

Android 17正式版が配信開始。Geminiはまだ来ない

Android

Android 17正式版が配信開始。Geminiはまだ来ない

GoogleがAndroid 17の安定版をPixelシリーズ向けに配信開始した。6月のPixel DropとスマートウォッチのWear OS 7も同時に提供が始まっている。最大の注目を集めたGemini Intelligenceは「今夏中に一部端末から」であり、今回のアップデートには含まれていない。 4回のベータを経て、Pixel 6以降に配信 Googleは現地時間6月16日、Android 17の安定版をPixel 6以降の全サポート対象機種に配信開始した。Android 16の正式公開(2025年6月10日)から約1年。昨年に続き、従来の秋リリースではなく夏の配信となった。 対象はPixel 6/6 Pro/6aからPixel 10a、Pixel Tablet、初代Pixel Foldまで。2月のBeta 1から4回のベータテストを経た正式版で、ソースコードはAndroid Open Source Project(AOSP)にも公開される。Samsung、Xiaomi、OnePlusなど他社端末への展開は2026年後半になる見通しだ。 アップデートの容量は約3GB。設

Copilot CoworkにDeepSeek検討。AIコスト高騰が生んだ矛盾

AI

Copilot CoworkにDeepSeek検討。AIコスト高騰が生んだ矛盾

Microsoftのエンタープライズ向けAIエージェント「Copilot Cowork」が6月16日、全世界で一般提供を開始した。あわせて明らかになったのが、従量課金制への移行と、中国DeepSeekのV4モデルを低コスト選択肢として検討中であるという事実だ。ホワイトハウスがAnthropicのFable 5に輸出規制をかけた、わずか数日後の発表になる。 トークンという名の燃料費 Copilot Coworkは、Microsoft 365の業務データを横断して複数ステップのタスクを自律実行するエージェントだ。内部にはAnthropicのClaude(Opus 4.8、Sonnet 4.6)を搭載し、メールの仕分け、リサーチ、資料作成までをバックグラウンドでこなす。3月の発表以降、Fortune 500の半数以上が利用し、Microsoftの「Frontierプログラム史上最速で成長した機能」と位置づけられている。 問題はコストだ。エージェント型AIはタスクを完了するまでモデルを繰り返し呼び出す。一問一答のチャットとは消費構造が根本的に違う。MicrosoftのCopilot担当

GeForce Game Ready Driver 610.62 WHQL。公式修正と未解決の不具合まとめ

NVIDIA

GeForce Game Ready Driver 610.62 WHQL。公式修正と未解決の不具合まとめ

NVIDIAは6月16日、GeForce Game Ready Driver 610.62 WHQLを公開した。R610ブランチでは5月26日の初版610.47に続く2本目の正式WHQLドライバーとなる。610.47公開後の3週間で多数の不具合報告が集まり、NVIDIAは6月8日にホットフィックス610.52(非WHQL)で先行対処していた。610.62はその修正を正式WHQL版として取り込み、Game Ready対応タイトルとしてEmpulseが追加され、DLSS 4.5 Dynamic Multi Frame Generationをサポートする。さらに追加のバグ修正を加えている。対応OSはWindows 10 / 11の64bit版、ファイルサイズは933 MiB。 R610ブランチ ドライバー更新タイムライン 5月26日610.47 WHQL 公開R610ブランチ初版。 Smooth Motion・G-SYNC等の不具合多発6月8日610.52 ホットフィックス非WHQL。G-SYNC・EDID・スリープ復帰等を先行修正6月16日610.62

SpaceX、Cursorを約9.6兆円で買収。IPO直後の巨大M&A

AI

SpaceX、Cursorを約9.6兆円で買収。IPO直後の巨大M&A

SpaceXが現地時間6月16日、AIコーディングエージェントCursorの開発元Anysphereを600億ドル(約9兆6000億円)で買収すると発表した。全額SpaceX株式での取引で、4月に取得していた買収オプションを行使した。完了は2026年第3四半期の見通し。史上最大のIPOからわずか4日、イーロン・マスク(Elon Musk)氏はAIコーディング市場の最有力プレーヤーを手中に収める。 取引の全容 SEC(米証券取引委員会)に提出された8-K報告書によると、SpaceXの完全子会社X67 Inc.がAnysphereに吸収合併される。合併後、AnysphereはSpaceXの完全子会社となる。 Anysphere株主はSpaceXのクラスA普通株を受け取る。交換比率は、Anysphereの想定企業価値600億ドルと、合併完了直前7営業日のSpaceX株の出来高加重平均終値をもとに算出される。規制当局の承認を含む標準的なクロージング条件を満たした上で、第3四半期中の完了を見込む。 伏線は4月に敷かれていた。同月19日、SpaceXとAnysphereはコールオプション

Steam Machine、SteamOSでGeekbenchに再登場

ゲーム

Steam Machine、SteamOSでGeekbenchに再登場

10か月間沈黙していたSteam Machineのベンチマークが、ひっそりと更新された。しかも今回は、Windowsではない。 WindowsからSteamOSへ 6月15日、Geekbenchに「Valve Fremont」名義の新しいCPUベンチマーク結果が2件投稿された。Fremontは、Valveが開発中の据え置き型ゲーム機Steam Machineの内部コードネームだ。 注目すべきはOSの欄。2025年8月に初めてGeekbenchに登場した際はWindows 11 Proで動作していたが、今回はSteamOSに切り替わっている。ハードウェアの開発初期段階ではドライバの安定性やベンチマーク環境の都合でWindowsを使うのが一般的で、当時はまさにその状態だった。製品版のOSでテストが行われるようになった以上、開発は最終段階に入ったとみてよいだろう。 スペックの変化と変わらないもの CPUは前回と同じAMD Custom CPU 1772。Zen 4アーキテクチャの6コア/12スレッドで、L3キャッシュは16MB。Geekbench上のベース周波数は3.2GHzか

自社に脆弱性1万件。ソフトバンクとOpenAIが重要インフラ防衛へ

セキュリティ

自社に脆弱性1万件。ソフトバンクとOpenAIが重要インフラ防衛へ

ソフトバンクグループが6月16日に発表したのは、新しいサイバーセキュリティサービスだけではなかった。自社システムをAIで診断した結果、1万500件もの脆弱性が見つかったという事実だ。 「月5万回の攻撃に耐える」自信が崩れた日 ソフトバンクグループは6月16日、サイバーセキュリティサービス「Patching as a Service」(パッチング・アズ・ア・サービス)の提供開始を発表した。OpenAIが2026年5月に限定公開したサイバーセキュリティ特化モデル「GPT-5.5 Cyber」の技術と、ソフトバンクの運用ノウハウを組み合わせ、企業の脆弱性診断から修復方針の策定、実装の提案までを一気通貫で支援する。 数字だけなら、よくあるセキュリティサービスの発表に見えるかもしれない。だが、同日都内で開かれた緊急会見で孫正義氏が明かした事実が、この発表の意味を根本から変えた。 ソフトバンクは6月2日から、自社の約700システムを対象にGPT-5.5 Cyberを使った大規模な脆弱性診断を先行実施していた。同社は月に5万回のサイバー攻撃を受けても耐えてきた実績があり、セキュリティには自