岬 徹

テクノロジー分野を中心に2024年からYouTubeで約3,000本の動画を制作。登録者4万5千人超、Xフォロワー1万人超、noteフォロワー千人超。AI、半導体、PC、ゲーム業界について、一次資料やデータを基に分析を続ける。

岬 徹
「言語が違う」。AnthropicとトランプのAI戦争、Claudeが止まった日

AI

「言語が違う」。AnthropicとトランプのAI戦争、Claudeが止まった日

AI安全性の旗手を自任するAnthropicが、最強モデルをユーザー全員から突然奪われた。停止を命じたのは政府で、引き金は技術論争ではなく「人が合わない」という話だった。 Fable 5とMythos 5が落ちた夜 現地時間2026年6月12日の午後5時21分、Anthropicにひとつの文書が届いた。送り主は米政府。内容は、Claude Fable 5とClaude Mythos 5について、すべての外国籍の人物に対するアクセスを即時停止するよう求める輸出規制の指令だった。 そこに猶予は書かれていなかった。 Anthropicの説明では、外国籍を持つ利用者を確実に排除するには全ユーザーへのアクセスを止めるしかなかったという。結果として、国籍に関係なく世界中の顧客がFable 5とMythos 5を使えなくなった。自律型コーディング、長文推論、医療研究など、Mythos級モデルに依存していた組織が一夜にして切り離された。 直接の引き金は、AmazonのCEOアンディ・ジャシー(Andy Jassy)氏が財務長官スコット・ベッセント(Scott Bessent)氏へかけた電話

Intel×NVIDIAの合体チップ、2028年前半が目標か

CPU

Intel×NVIDIAの合体チップ、2028年前半が目標か

IntelのCPUとNVIDIAのRTX GPU。PCを触ってきた人なら「別々に買って組み合わせるもの」という感覚が染みついているはずだ。その前提が、1つのチップの上で崩れようとしている。 Serpent Lakeに初めてスケジュールが付いた IntelとNVIDIAが共同開発を進めるx86 SoC。そのCPUとGPUを1パッケージに統合するチップに、具体的な時間軸が浮上した。Intelの現行ロードマップによると、2028年第1四半期 がターゲットだという。計画通りに進めばCES 2028での発表もありうる時期だ。 トルコのテック系ジャーナリスト、エルディ・オズュアー(Erdi Özüağ)氏が現地時間6月15日に投稿した情報で、複数の海外メディアが追認している。スペックや具体的な構成は明かされていない。 両社が提携を発表したのは2025年9月。NVIDIAがIntel株に50億ドルを投資し、データセンター向けのカスタムx86 CPUとPC向けのx86 RTX SoCを共同開発するという内容だった。その後、2025年12月にリーク情報として Serpent Lake のコード

Windows 11「勝手にアカウント、勝手に暗号化」問題の本質

Windows

Windows 11「勝手にアカウント、勝手に暗号化」問題の本質

PCを買って電源を入れる。画面の指示に従って進めると、Microsoftアカウントでのサインインを求められる。スキップのボタンはない。ローカルアカウントで使いたい、あるいはそもそもアカウントなど持っていないという人にとって、この画面は壁だ。ローカルアカウントの選択肢が初期セットアップから消えて久しい。Microsoftの姿勢に変化の兆しが見えたかと思えば、結局はまた同じ議論に戻ってくる。 ローカルアカウント問題、また再燃 Redditに一つの投稿が立った。「初期セットアップにローカルアカウントの選択肢を戻してほしい」。Rufusやコマンドラインを使った回避策を教えるコメントが次々と付いたが、返答は一貫していた。「回避策はいらない。Microsoftに変えてほしいだけだ」と。 Please finally bring back the local account on the OOBE already in Windows 11 by u/2025Fishy in Windows11 この反応は、単なる不満の表明ではない。問題の所在を正確に指している。 Windows

Microsoft 365 Copilot、リンク1クリックで社内データが流出する脆弱性が存在した

セキュリティ

Microsoft 365 Copilot、リンク1クリックで社内データが流出する脆弱性が存在した

細工されたリンクを1回クリックするだけで、メール・予定表・OneDrive・SharePointの情報が外部に流出する。そんな脆弱性チェーンがMicrosoft 365 Copilot Enterprise Searchに存在していた。CVE-2026-42824として登録され、深刻度はCritical。Microsoftは6月初旬に修正を完了しておりユーザー側の対応は不要だが、AIが社内データの検索窓口になることのリスクを改めて突きつける事例となった。 「SearchLeak」の仕組み この脆弱性チェーンを発見したのは、データセキュリティ企業バロニス(Varonis)の研究者ドレヴ・ターレル(Dolev Taler)氏。「SearchLeak」と名付けられたこの手法は、単体では致命的にならない3つの欠陥を組み合わせることで成立する。 狙われたのは、通常のCopilotとは別のCopilot Enterprise Searchだ。コンテンツを生成する通常のCopilotに対し、Enterprise Searchは社内のメール・会議・SharePointファイル・OneDrive

GeForce Hotfix 610.52公開。G-SYNCのカクつきやモニター認識不良など8件を修正

GPU

GeForce Hotfix 610.52公開。G-SYNCのカクつきやモニター認識不良など8件を修正

5月26日にリリースされたGame Readyドライバー610.47は、NVIDIAにとって節目のバージョンだった。新ブランチR610の初回WHQL。20年続いたNVIDIAコントロールパネルの廃止。007 First Light発売日対応。しかしリリース直後から、公式フォーラムには深刻な不具合報告が相次いだ。 とくに件数が多かったのが、G-SYNCのカクつきだ。RTX 4090やRTX 4080のユーザーが次々に報告した。G-SYNCを有効にするとモニターのリフレッシュレートがVRR範囲に追従せず最大値に張り付く。フレームタイムは大きく乱れ、ゲームにならない。G-SYNCを無効にするか、596.49以前のドライバーに戻すと症状が消えることから、ドライバー起因のリグレッションとみられていた。RTX 50シリーズでは発生しておらず、Ada Lovelace世代に固有の問題だった。 NVIDIAは現地時間6月8日、GeForce Hotfix Display Driver 610.52を公開した。 8件の修正内容 610.52はGame Ready Driver 610.47をベ

Chromebook発売15周年。教室の王が外に出られない理由

Chromebook

Chromebook発売15周年。教室の王が外に出られない理由

2011年6月15日、Samsungから最初のChromebookが出荷された(Acerは翌月に続いた)。あれから15年。Googleが描いた「すべての人にシンプルなコンピューティングを」という理念は、世界中の教室を制圧するという予想外の形で実現した。そしてちょうど1か月前、Google自身がその後継を別の名前で発表した。15年の軌跡を振り返れば、問いは一つに集約される。なぜChromebookは教室の外に出られなかったのか。 ネットブックの正統後継、しかし遅すぎた進化 Chromebookが生まれた2011年は、ネットブックが「安いけど遅い」という評判を背負って沈みかけていた時期だ。Googleの回答はシンプルだった。すべてをクラウドに預ければ、非力なハードウェアでも10秒で起動し、時間が経っても遅くならない。実際、設計思想そのものは正しい。 問題は、正しい設計思想を正しい順序で実装しなかったことにある。 Google Playストアへの対応は2016年。Linuxアプリのサポートは2018年。Steamベータは2022年(しかも99タイトル限定のまま2026年1月1日に打

AMDが2026年に7年前のZen+を復活させた理由

ハードウェア

AMDが2026年に7年前のZen+を復活させた理由

Zen 5の時代に、AMDは2019年生まれのアーキテクチャで新チップを出した。Ryzen 3 3100UとRyzen 5 3501U。どちらもZen+、12nm、Picassoファミリー。スペックシートだけ見れば正気を疑う判断だが、その行き先を考えると話はそう単純ではない。 静かに追加された2つのAPU AMDが公式サイトの製品ページに、Ryzen 3000Uシリーズの新モデルを追加した。Ryzen 3 3100UとRyzen 5 3501U。ローンチ時期はQ2 2026。正式な発表やプレスリリースは出ていない。 Ryzen 3 3100Uは 2コア/2スレッド という構成で、ベースクロック1.9GHz、ブースト時最大3.2GHz。L3キャッシュは4MB、TDPは15W。ハイパースレッディングには対応せず、Picasso世代のRyzen 3としても最小構成となる。 Ryzen 5 3501Uは4コア/8スレッドで、ベース2.1GHz/ブースト3.7GHz。L3キャッシュ4MB、TDP

Linux-libre 7.1-gnu。i486が遺したもの

Linux

Linux-libre 7.1-gnu。i486が遺したもの

Linux 7.1の安定版が公開された翌日、カーネルからプロプライエタリなコードを取り除く「自由版」Linux、GNU Linux-libreが7.1-gnuとしてリリースされた。リリースノートはいつものようにdeblob(非自由バイナリの除去)作業を報告しているが、今回はマスコットのフリードが何度も嘆いている。 i486のサポートが消えた Linux 7.1で、i486プロセッサ向けのカーネルビルドオプションが削除された。x86メンテナのインゴ・モルナー(Ingo Molnár)氏が2025年4月に提案し、約1年の議論を経て、リーナス・トーバルズ(Linus Torvalds)氏が今年4月のマージウィンドウで受け入れた。 1989年に登場したi486は、PC普及期を支えたプロセッサだ。Linuxカーネルでは2012年にi386のサポートが落とされ、それ以来i486がx86の最低ラインだった。これが消えれば、最低ラインはPentium世代になる。 トーバルズ氏自身は2022年の時点で「i486クラスのハードウェアにはもう実質的な意味がない」と述べていた。モルナー氏は提案の中で

AIヌード化ツールが子どもを飲み込む。法も学校も追いつかない現実

AI

AIヌード化ツールが子どもを飲み込む。法も学校も追いつかない現実

スマートフォンに入っている写真が1枚あれば、誰でも被害者になりうる。AIによる「ヌード化(nudify)」ツールが急速に広まり、子どもたちの間で新しいいじめの道具になっている。法整備は動き始めたが、被害の速度には追いついていない。 写真1枚で、すべてが変わる 2015年頃、ディープフェイク技術で人の服を脱がせるには数百枚から数千枚の写真が必要だった。標的になるのはもっぱら有名人だった。 それが今、たった1枚で足りる。 AIを搭載した「ヌード化」アプリは、ごく普通の写真から服を消した画像を数秒で生成する。音声なら10秒分の録音でクローンが作れる。カリフォルニア大学バークレー校のデジタルフォレンジクス教授、ハニー・ファリド(Hany Farid)氏の言葉を借りれば、かつてテイラー・スウィフトやスカーレット・ヨハンソンに限られていた脅威が、インターネット上に自分の写真が1枚でもある全ての人に広がった。若者にとって、それは事実上「全員」だと同氏は指摘する。 2026年1月、Tech Transparency Projectの調査でAppleのApp Storeに47本、Google

新しいOutlook、通知から10秒待たされる。従来版は一瞬

Microsoft

新しいOutlook、通知から10秒待たされる。従来版は一瞬

Microsoftが「未来のメール体験」として推す新しいOutlookで、基本動作の遅さが改めて浮き彫りになった。Windows 11の通知をクリックしてからメールが表示されるまで約10秒。従来のOutlookクラシックなら一瞬で終わる操作だ。 通知をクリックして10秒。手動で開く方が速い 新しいOutlookの起動速度そのものは改善されている。スタートメニューからの立ち上がりはOutlookクラシックとほぼ互角で、かつてのような目に見える遅さは消えた。問題は「通知」だ。 Windows 11で新着メールの通知バナーが表示される。クリックする。アプリが立ち上がり、受信トレイを読み込み、そこからさらに該当メールにたどり着くまで約10秒。Outlookクラシックで同じ操作をすると、ほぼ即座にそのメールが開く。 0:00 /0:18 1× 0:00 /0:04 1× もっと皮肉な話がある。通知を無視してスタートメニュ

Stanford卒業式でPichai氏の講演中に集団退席 12億ドル契約への抗議

テクノロジー

Stanford卒業式でPichai氏の講演中に集団退席 12億ドル契約への抗議

スタンフォード大学の卒業式で、約200人の卒業生がGoogle CEOのスピーチ開始直後に席を立った。標的はAIではなく、イスラエル政府との12億ドルのクラウド契約だった。 200人の背中 現地時間6月14日、スタンフォード大学の第135回卒業式。Google CEOサンダー・ピチャイ(Sundar Pichai)氏がスピーチを始めた直後、約200人の卒業生が席を立った。 パレスチナ旗を振り、「Free, free, Palestine」「Shame on you」と声を上げながらスタジアムの外へ歩いていった。ガウンの上からクーフィーヤ(パレスチナの伝統的なスカーフ)を羽織った卒業生もいた。 ピチャイ氏は抗議に直接反応しなかった。同氏は1995年にこの大学で材料工学の修士号を取得した卒業生でもある。チェンナイからシリコンバレーへ至った自身の半生を穏やかに語り始めた。「初めて雪に触れたときの柔らかさを今でも覚えている」。スピーチの言葉は温かく、個人的で、およそ政治から遠い場所にあった。 その温かさが、200人を引き留めることはなかった。 プロジェクト・ニンバスという契約

英国が16歳未満のSNS利用を全面禁止へ。その先にある問い

テクノロジー

英国が16歳未満のSNS利用を全面禁止へ。その先にある問い

キア・スターマー(Keir Starmer)首相が現地時間6月15日、ダウニング街で記者会見を開き、16歳未満の子どもに対するSNSプラットフォームの利用を全面的に禁止すると発表した。年内に議会で規制を通し、2027年春の施行を目指す。対象はSnapchat、TikTok、YouTube、Instagram、Facebook、Xなど主要プラットフォーム。WhatsAppやSignalといったメッセージサービスは含まない。 2025年12月に世界で初めて同様の禁止法を施行したオーストラリアを超える範囲の規制を、英国は打ち出した。ゲームでの見知らぬ人物との通信やライブストリーミングの遮断、AIチャットボットの「恋愛コンパニオン」機能への18歳未満の利用制限など、SNSの外にまで網を広げる。 子どもの安全をめぐる政策として、これは間違いなく大きな一歩だ。だが、禁止の先にある問題は、まだ誰も答えを出していない。 「子どもに子ども時代を返す」という宣言 スターマー首相は会見で繰り返した。SNSは子どもを不幸にしている、いじめを助長している、精神的健康を損なっている、と。保護者の9割が1

米セキュリティ専門家40人超がFable禁止の撤回を要求

AI

米セキュリティ専門家40人超がFable禁止の撤回を要求

トランプ政権がAnthropicのFable 5とMythos 5に輸出管理指令を出してから3日。Adobe、Zoom、ソフォス、NVIDIAの幹部やセキュリティ研究者を含む40人超が、ホワイトハウスに対して禁止措置の撤回を求める公開書簡に署名した。書簡が訴えるのは一点。この措置は防御側から最良のツールを奪っただけで、攻撃側には何の影響も与えていない。 書簡が突きつける問い 公開書簡を取りまとめたのは、元Facebook最高セキュリティ責任者のアレックス・スタモス(Alex Stamos)氏。現在はAIコーディングセキュリティ企業Corridorの最高製品責任者を務める。 書簡は「防御側にAIを提供することが不可欠だ」と正面から訴える。自社や顧客のコードに潜む脆弱性を、攻撃者より先に見つけて塞ぐ。その切り札と見なされていたのがFable 5だ。 署名者にはLuta SecurityのCEOケイティ・ムスリス(Katie Moussouris)氏、SocialProof SecurityのCEOレイチェル・トバック(Rachel Tobac)氏、Veracode共同創業者のクリ

ナデラ氏が語る「トークン資本」の理想と、マイクロソフト自身が突きつける現実

AI

ナデラ氏が語る「トークン資本」の理想と、マイクロソフト自身が突きつける現実

マイクロソフトのサティア・ナデラ(Satya Nadella)CEOが現地時間6月14日、長文の投稿を公開した。AI時代における企業の生存戦略を論じたもので、核心にあるのは「人的資本」と「トークン資本」という二つの概念だ。人が持つ知識・判断力・人脈が人的資本で、企業が構築し所有するAI能力がトークン資本。両者を掛け合わせる「学習ループ」を自社で回せる企業だけが生き残る、というのがナデラ氏の主張だ。少数のフロンティアモデルに価値が集中する未来は社会が許容しない、とも警告している。 ビジョンとしては筋が通っている。問題は、それを語っているのがマイクロソフトのCEOだということだ。 「人的資本はますます価値を増す」。その裏側で ナデラ氏はこう書いた。AIが強くなるほど、人の判断力はむしろ重要になる。人の方向づけがなければ、コンピュートは空回りするだけだと。 https://t.co/vLmiBKTtX3 — Satya Nadella (@satyanadella) June 14, 2026 その言葉の重みを確かめるには、マイクロソフトがこの1年間に何をしたかを見ればいい。