岬 徹

テクノロジー分野を中心に2024年からYouTubeで約3,000本の動画を制作。登録者4万5千人超、Xフォロワー1万人超、noteフォロワー千人超。AI、半導体、PC、ゲーム業界について、一次資料やデータを基に分析を続ける。

岬 徹
Linux 7.1がリリース。NTFSの「復活」とAI時代の開発現場

Linux

Linux 7.1がリリース。NTFSの「復活」とAI時代の開発現場

リーナス・トーバルズ(Linus Torvalds)氏は現地時間6月14日、Linuxカーネル7.1の安定版を公開した。旅先からのリリースだった。「自宅ではまだ日曜の朝だけど、今いる場所は日曜の午後なので」と、いつもの調子で始まるリリースノートの裏に、波乱含みの開発サイクルがあった。 NTFSの「復活」。4年越しの書き換えがもたらすもの Linux 7.1最大の目玉は、NTFSファイルシステムドライバの全面刷新だ。開発を率いたのは韓国の開発者ナムジェ・ジョン(Namjae Jeon)氏。exFATドライバやカーネル内SMBサーバKSMBDを手がけた実績を持ち、4年かけて古い読み取り専用NTFSドライバを近代化し、完全な書き換えに仕上げた。 トーバルズ氏はマージ時にこれを「ntfs resurrection」(NTFSの復活)と称した。 LinuxにおけるNTFS対応は長年、継ぎ接ぎだった。カーネルに組み込まれた古いドライバは読み取り専用。書き込みが必要なユーザーはNTFS-3Gに頼ってきたが、ユーザー空間で動くFUSE実装であり、性能面の不利は避けられなかった。2021年にP

AIコーディングが見落とした脅威。jqwikとShai-Hulud

セキュリティ

AIコーディングが見落とした脅威。jqwikとShai-Hulud

Javaのテストライブラリに追加されたたった1行のプロンプトインジェクションが、AIコーディングエージェントの利用者を激怒させた。利用者側は法的措置をちらつかせ、GitHubのイシューを荒らし、開発者を「悪人」呼ばわりする騒動にまで発展した。だが同じ時期、npmとPyPIでは本物のサプライチェーンワームShai-Huludが471のパッケージに感染し、開発者の認証情報を次々と盗み出していた。AIエージェントを狙い撃ちにしたそのワームに対し、エージェント側の防御はまだ追いついていない。この非対称が、AIコーディングのいまを映し出している。 45年コードを書いてきた男の抗議 ドイツの開発者ヨハネス・リンク(Johannes Link)氏。プログラミング言語Groovyの貢献者であり、JUnit 5のプラットフォーム設計にも携わった人物だ。2017年から個人の時間を注ぎ込み、Javaのプロパティベーステストエンジン jqwik を開発してきた。テストコードに約10万行。そのほぼすべてをリンク氏がひとりで書いた。 リンク氏は2023年からAIによるコード利用を明確に拒否してきた。コント

「AIにもモデルリスクがある」。2008年危機の当事者が語った重み

AI

「AIにもモデルリスクがある」。2008年危機の当事者が語った重み

カナダのマーク・カーニー(Mark Carney)首相がFable 5停止を2008年の金融危機になぞらえた。リーマン・ショックの渦中で二国のG7中央銀行を率いた人物の警告は、ほかの誰のものとも重さが違う。G7エビアン・サミット開幕を目前に控えた発言の意味を読む。 「誰も悪くない。だが教訓を無視すれば、我々が悪くなる」 現地時間6月14日、アイルランドのウェストポートでカーニー首相が記者団に語った。Fable 5とMythos 5の停止について問われ、特定の企業や政府を批判するのではなく、構造そのものに矛先を向けた。 カーニー氏の言葉はこうだった。特定のモデルへの過度な依存で今まさに起きている事態は、少数への集中が引き起こすリスクの見本だ、と。そして「モデルリスク」という金融の専門用語を持ち出した。AIインフラの冗長性と多様性を確保すべきであり、それはリーマン・ブラザーズの破綻後に金融規制が銀行システムに求めたものと同じ原則だ、と。 この発言が異例なのは、語っている人物の経歴にある。 なぜこの人物の言葉が重いのか カーニー氏は2008年、42歳でカナダ銀行(中央銀行)総

Intel Z990チップセット、ダイ縮小でも消費電力は倍増。Gen5の代償

ハードウェア

Intel Z990チップセット、ダイ縮小でも消費電力は倍増。Gen5の代償

Nova Lakeプラットフォームの輪郭が、チップセット側から固まりつつある。Computex 2026でGIGABYTEが素性を隠して展示していたマザーボードがAORUS Z990 PROだったと判明。さらにリーカーのJaykihn氏がダイ寸法と消費電力の詳細を公開、LC Tech LeaksからはPCHの実物写真も出回り、次世代チップセットの設計思想が見え始めた。 ダイは小さくなった。だが電力は増えた Jaykihn氏のリーク情報によると、Z990のPCHパッケージは25×24mm(600mm²)、ダイは11.15×6.5mm(約72.5mm²)。現行Z890のパッケージ28×23.5mm(658mm²)、ダイ約92.9mm²と比べると、パッケージは約8.8%、ダイは約22%縮小した。 Keep in mind this 14W figure assumes full chipset residency with Gen 5 devices. The

Anthropicが技術者をD.C.に飛ばした。Fable 5復旧交渉の行方

AI

Anthropicが技術者をD.C.に飛ばした。Fable 5復旧交渉の行方

Fable 5とMythos 5の全面停止から3日。Anthropicの上級技術スタッフがワシントンD.C.に入り、ホワイトハウス関係者と直接会談に臨んでいると報じられた。対立は対話の局面に移りつつある。 金曜日から続く水面下の接触 6月14日、Anthropicに近い関係者の証言として報じられた。同社の上級技術スタッフがワシントンに飛び、ホワイトハウス関係者と対面での協議に入っている。金曜日(6月12日)にトランプ政権側が最初の接触を図って以降、技術スタッフはバーチャル会議を重ねてきたという。 双方が問題解決に意欲を示しているという。 ただし、その間にも認識のずれは表面化している。政権側は「Anthropicが真剣に取り組んでいない」と主張していた。Anthropicに近い関係者は「金曜日の段階からバーチャルで対話を続けてきた」としている。技術者がD.C.に赴いたこと自体が、この認識の溝を埋めるための動きだろう。 止まった3日間で動いたもの 停止の経緯と背景についてはこれまでの記事で詳しく報じた。ここでは、この3日間で浮上した新たな事実を確認する。 停止翌日の報道で

セキュアブート証明書、期限目前に大規模配信へ

セキュリティ

セキュアブート証明書、期限目前に大規模配信へ

2011年に発行され、Windowsの起動を15年間守ってきたセキュアブート証明書が、6月24日に期限を迎える。Microsoftは6月のPatch Tuesdayで、後継となる2023年版の証明書を事実上すべてのWindows 11/10 PCへ一斉配信し始めた。多くのユーザーにとって必要な操作はゼロだが、その「何もしなくていい」には前提がある。 PCが起動しなくなる、は誤解 まず結論から入る。6月24日を過ぎても、2011年版の証明書のままのPCは普通に起動する。Windows Updateも止まらない。日常の操作は何も変わらない。 では何が起きるか。起動プロセスに対するセキュリティ更新を、今後受け取れなくなる。 具体的には、ブートマネージャーの更新、セキュアブートデータベースの失効リスト(DBX)の更新、そして新たに発見されたブートレベルの脆弱性に対する緩和策。これらがすべて届かなくなる。 この「届かなくなるもの」の中にDBXがある点が厄介だ。DBXとは、既知の悪意あるブートコンポーネントをブロックするための拒否リストで、BlackLotusブートキット(CVE-202

Amazonが初公表した水消費量と「芝生比較」の危うさ

データセンター

Amazonが初公表した水消費量と「芝生比較」の危うさ

Amazonがデータセンターの水消費量を初めて公表した。年間25億ガロン。そして「米国人が芝生に撒く水の0.075%にすぎない」と付け加えた。数字としては正しい。だが、正しい数字が正直な比較とは限らない。 初めて明かされた「25億ガロン」 AWSは2026年6月11日、データセンターの水消費データを初めて公開した。2025年の全世界での水使用量は25億ガロン(約95億リットル)。競合のGoogle、Meta、Microsoftが2020年以降すでに公表してきたデータに、最大手がようやく追いついた格好だ。 Amazon側が強調するのは効率の良さだ。1kWhあたりの水使用量は0.12リットルで、業界平均0.84リットルの7分の1以下。2021年比で52%改善したという。他社との比較では、Metaが0.19リットル(2024年)、Microsoftが0.27リットル(2025年)、Googleが1.15リットル(2024年)。いずれもAmazonのデータに基づく数字であり、測定条件の違いに留意が必要だが、相対的に少ない水で多くの計算をこなしている、というのがAmazonの主張だ。

Raptor Lake NextのSKU判明。無効コアのキャッシュを活かす新設計も

CPU

Raptor Lake NextのSKU判明。無効コアのキャッシュを活かす新設計も

4月のリークから2か月。Computexでの裏付けを経て、Raptor Lake Nextに具体的なSKU構成が出てきた。Core 7/5/3の3セグメント、最大20コア。旧設計の焼き直しで終わらない変更点が1つある。 Core 200ブランドで投入 Raptor Lake Nextについては既報の通り、2027年前半にLGA 1700向けのDDR4/DDR5両対応CPUとして投入される計画が明らかになっている。Computex 2026では複数のマザーボードベンダーが計画の存在を認め、Intelの公式コメントは得られていないものの、情報の確度は高い。 今回判明したのは、具体的なSKU構成だ。 Intel内部情報で実績のあるリーカーJaykihn氏が、デスクトップ向けiGPU搭載SKUの一覧をリークした。VideoCardzも独自取材で裏付けを取り、ブランド名が Core 200 シリーズになること、生産開始が 2027年1月下旬 に予定されていることを報じている。LGA 1851やLGA 1954との互換性はなく、LGA 1700専用だ。 3セグメント、4つのSKU

Fable 5停止、もう一つの理由。中国のMythosアクセス疑惑が浮上

AI

Fable 5停止、もう一つの理由。中国のMythosアクセス疑惑が浮上

Fable 5とMythos 5の全面停止から2日。ジェイルブレイクとAmazonの通報、政権との交渉決裂という経緯はすでに報じた。だがその裏に、公表されていないもう一つの理由があった可能性が浮上している。 中国と関係のあるグループがMythosにアクセスした疑いがあり、それが輸出管理の根拠の一つだったと、事情に詳しい関係者の話として報じられた。 「アクセスを求めた」から「アクセスした疑い」へ 伏線は5月にあった。 4月、シンガポールで開かれたカーネギー国際平和財団の会合で、中国のシンクタンク職員がAnthropicの関係者にMythosへのアクセスを求めたと報じられた。Anthropicは拒否し、米国家安全保障会議(NSC)にもこの接触は報告された。 あの時点では「アクセスを求めて断られた」話だった。今回の報道は一段階先に進んでいる。中国関連グループが実際にMythosにアクセスした疑いがあるというのだ。どの組織が、どのような経路でアクセスしたのかは明らかになっていない。 食い違う説明 ここで注目すべきは、Anthropic側の反応だ。 同社の広報担当者は、Fab

AIで渇望する素材を握る味の素。値上げしない理由

AI

AIで渇望する素材を握る味の素。値上げしない理由

先端半導体に不可欠な絶縁材料ABFで、ほぼ100%の世界シェアを握る味の素。AI需要の爆発で供給が追いつかないなか、同社の中村茂雄CEO(Shigeo Nakamura)は「需要があるからといって価格を引き上げるつもりはない」と語った。値上げではなく増産で応える、と。英アクティビストファンドが30%の値上げを要求した2か月余り後の発言だけに、この判断の裏側は見ておく価値がある。 ABFの開発者がCEOになった意味 味の素ビルドアップフィルム(ABF)は、半導体パッケージ基板の層間を絶縁するフィルム素材だ。CPUやGPUが載る基板の内部で、配線層の間に挟み込まれ、電気的な干渉を防ぐ。PC向けCPUの基板ではほぼ100%、AI半導体向けでも同等の支配率を維持している。 この素材を1990年代に開発したのが、現CEOの中村茂雄氏その人だ。1992年に東京工業大学大学院を修了して味の素に入社し、1996年からABFの研究に着手。2025年2月、前任の藤江太郎氏が体調不良で退任したことを受け、同社初の技術畑出身トップに就いた。自分が生み出した製品が会社の成長エンジンになった局面で、その製

Windows 11の6月更新KB5094126で起動不能。修正が配信

Windows

Windows 11の6月更新KB5094126で起動不能。修正が配信

6月9日に配信されたWindows 11の累積更新プログラムKB5094126で、一部のPCが起動できなくなる不具合が報告されている。HP製PCを中心に、ブラックスクリーン(BSOD)やBitLocker回復画面から先に進めなくなる事例が相次いでおり、企業の情シス担当者を中心に混乱が広がっている。 史上最多のセキュリティ更新が裏目に KB5094126(ビルド26200.8655 / 26100.8655)は、Windows 11 24H2/25H2向けの2026年6月Patch Tuesdayとして配信された。約200件のセキュリティ脆弱性を修正し、うち33件が「緊急」、公開済みのゼロデイも3件を含む。過去最多の月例更新であり、待望のLow Latency Profile(CPU性能ブースト機能)まで入っている。すべてのPCに適用すべき内容のはずだった。 ところが配信直後から、更新を適用したPCが起動しなくなったという報告が上がり始めた。 Anyone getting BSOD with 0xc0430001 error with new KB5094126 update

Wine-Staging 11.11リリース。289パッチで本流を補強

Linux

Wine-Staging 11.11リリース。289パッチで本流を補強

Wineの実験版「Wine-Staging 11.11」が現地時間6月13日にリリースされた。WindowsアプリケーションをLinux上で動かすこの互換レイヤーは、前日公開の本流Wine 11.11に289のパッチを上乗せし、Linuxゲーミングの足元を支え続けている。 本流Wine 11.11の変更点 ベースとなるWine 11.11本体から見ていく。目玉は3つある。 まず、暗号ライブラリの入れ替え。Wineが内部で使っていたTomCryptに代わり、Microsoftがオープンソースで公開するSymCryptが採用された。SymCryptはWindows 10以降のすべての暗号処理を担うライブラリで、Microsoftの公式実装をWineが直接取り込んだことになる。古いWindowsインストーラーがハッシュ計算で詰まる問題の解消や、メモリリークの軽減が期待できる。 次に、Waylandドライバの強化。レイヤードウィンドウ(透過ウィンドウ)のサポートが加わった。Waylandの alpha-modifier-v1 プロトコルを利用した透過処理に加え、リサイズ不可ウィンドウ

AURマルウェア、削除完了の翌日にさらに高度な第3波が発生

Linux

AURマルウェア、削除完了の翌日にさらに高度な第3波が発生

AURマルウェア、削除完了の翌日にさらに高度な第3波が発生 Arch LinuxのAURマルウェア汚染は、まだ終わっていなかった。悪意あるコミットの削除が完了したと報告された翌日、手口をさらに高度化した新たな攻撃が確認された。検出のきっかけは、あるコミュニティメンバーがローカルで動かしていたAIモデルだった。 沈黙は24時間も続かなかった 6月12日、パッケージメンテナーのヨナタン・グローテリュッシェン(Jonathan Grotelüschen)氏が、認識しているすべての悪意あるコミットを削除したとメーリングリストで報告した。影響を受けたパッケージは1,579件。Arch Linuxは公式声明を出し、AURへの新規アカウント作成やパッケージの更新・引き取りに制限をかけた。 その制限下で、攻撃は再び起きた。 6月13日夜(UTC)、開発者のa821氏がメーリングリストに新たなリストを投稿した。約50件のパッケージに、難読化されたBunコマンドが挿入されていた。第1波のnpm、第2波の平文Bunとは異なり、今回はコマンド文字列が1文字ずつシングルクォートで分割されていた。gi

AIが恋愛を「最適化」するほど、本物の親密さは遠ざかる

AI

AIが恋愛を「最適化」するほど、本物の親密さは遠ざかる

ロンドンで開かれたフォーカスグループで、若者たちの言葉が引っかかる。Z世代の参加者たちはChatGPTを「マイ・チャッティ」と呼び、こう言った。友達に相談すると迷惑になるから、AIに話すのだと。これを聞いたHinge CEOのジャッキー・ジャントス(Jackie Jantos)氏は気づいた。それは思いやりではない。親密さを築く機会そのものを手放している、と。 「迷惑をかけること」が贈り物だった 「誰かに頼みごとをするという贈り物を、テクノロジーで代替している。迷惑をかけたくないから。でも、その迷惑こそが贈り物なんだ。親密さはそこから生まれる」。ジャントス氏はそう語った。 恋愛とAIをめぐる議論の急所を突く指摘だ。AIは摩擦を取り除く。不安も拒絶も誤解も、すべて事前にフィルタリングできる世界を約束する。だが親密さとは本来、その摩擦の中でしか育たない。 リーズ大学の哲学者、ルーク・ブラニング(Luke Brunning)氏はこのリスクを「親密さのデスキリング」と呼ぶ。職場でAIが労働者のスキルを空洞化させるのと同じことが、恋愛でも起きている。AIが介入するほど、自力で親密さを築く