岬 徹

テクノロジー分野を中心に2024年からYouTubeで約3,000本の動画を制作。登録者4万5千人超、Xフォロワー1万人超、noteフォロワー千人超。AI、半導体、PC、ゲーム業界について、一次資料やデータを基に分析を続ける。

岬 徹
AIの脅威を認め、それでも規制しない。トランプ大統領令の意味

AI

AIの脅威を認め、それでも規制しない。トランプ大統領令の意味

AIがソフトウェアの脆弱性を自律的に発見し、攻撃コードまで書く。この現実に米政府が正面から向き合った。だが大統領令が企業に求めるのは、あくまで「任意の協力」だ。規制なき安全保障は成立するのか。 何が起きたか 現地時間2026年6月2日、トランプ大統領が大統領令「先進的AIのイノベーションと安全保障の促進」(Promoting Advanced Artificial Intelligence Innovation and Security)に署名した。連邦政府のサイバー防衛を強化し、フロンティアAIモデルの事前評価枠組みを構築し、AI犯罪の取り締まりを強化する。 この枠組みは完全に任意だ。大統領令は「対象フロンティアモデル」の開発企業に、公開の最大30日前に政府へアクセスを提供するよう求める。だが同じ文書がこうも明記する。「本令のいかなる条項も、AIモデルの開発・公開・リリース・配布に対する義務的な政府認可、事前承認、許可制度の創設を認めるものと解釈してはならない」。 規制はしない。だが安全は確保したい。大統領令はこの矛盾を抱えたまま署名された。 半年前の大統領令との落差

インド発「AI主権」論。欧州との決定的な違い

AI

インド発「AI主権」論。欧州との決定的な違い

Fable 5の全面停止から48時間。欧州では政治家たちが「主権」を叫んだ。同じ時間軸で、インドではまったく別の声が上がっていた。政治家ではなく、企業の創業者たちだ。しかも金額つきで。 提携発表の翌日に遮断された国 まず時系列だ。 6月11日、TCS(タタ・コンサルタンシー・サービシズ)がAnthropicとの大型提携を発表した。Claude専任の事業部門を新設し、5万人の社員にClaudeへのアクセスを付与する。金融、医療、公共サービスなど規制の厳しい業界向けにAIソリューションを共同展開する、という内容だった。Anthropicのダリオ・アモデイ(Dario Amodei)CEOは声明で「インドは米国に次ぐ第2の市場」と明言している。 その翌日の夜、Fable 5とMythos 5が停止された。 TCSの5万人がClaudeを学び始めた矢先に、最上位モデルが消えた。2月にはInfosysとも提携を結んでいる。インドのITサービス大手2社がAnthropicのエコシステムに深く組み込まれた直後の出来事だった。 欧州にとってFable 5停止は「自分たちが使っていたサービ

AMDがMacBook Neoに「ゲームで勝負」を挑んだが土俵がおかしい

AMD

AMDがMacBook Neoに「ゲームで勝負」を挑んだが土俵がおかしい

9万9800円のMacにゲームの互換性で噛みつくAMD。比較に持ち出したのは、自社の旧世代チップだった。IntelやQualcommがMacBook Neo対抗の新チップを投入するなか、AMDの打ち手は「Windowsならゲームが動く」という古い論法に留まっている。 旧世代チップで挑むAMD AMDが公式サイトに掲載した新しいマーケティング素材が波紋を呼んでいる。 HP OmniBook X FlipとMacBook Neoを並べ、「PCゲームの人気タイトル上位20本のうち、MacBook Neoではネイティブに動くのは5本だけ。AMD搭載機なら20本すべてが動く」と主張している。Steam、Epic Games Store、PC Game Passへのフルアクセスを前面に押し出し、「妥協なし」とうたう。 この比較には、見過ごせない事実がある。 AMDが持ち出したRyzen 5 220はHawk PointファミリーのZen 4世代プロセッサで、2025年2月の発売だ。実態としてはRyzen 5 8540U(さらに前身のRyzen 5 7545U)のリネーム品にすぎない。Z

Corsair「105℃耐熱」アダプタが溶けた。繰り返される16ピン問題

PC

Corsair「105℃耐熱」アダプタが溶けた。繰り返される16ピン問題

GPUとケーブルの間に何かを挟めば、そこが新たな弱点になる。わかりきった話のはずだった。 Corsairの12VHPWR GPU Power Bridgeは、GPUの電源ケーブルを180°曲げて配線を整えるアダプタだ。製品ページには「最大55A」「105℃まで耐えられる」と書いてある。日本では旧型が3,680円で販売されていたが、現在は販売終了。後継の12V-2x6版が3,780円で展開されている。 そのアダプタが溶けた。 何が起きたのか あるユーザーがRTX 4090 Founders Editionにこのブリッジを取り付けていたところ、ゲーム起動直後にシステムがフリーズし、再起動を繰り返した。グラフィックカードを取り外すと、ブリッジ上列のピンが溶融していた。RTX 4090本体のプラスチック製電源コネクタも熱で変形している。 Corsair Power Bridge melted and ruined my RTX 4090 FE power plug. Can I still get help if

Fable 5停止が浮き彫りにした「AIは誰のものか」。欧州の政治家が一斉に動いた

AI

Fable 5停止が浮き彫りにした「AIは誰のものか」。欧州の政治家が一斉に動いた

米国政府がAnthropicのFable 5とMythos 5を止めてから24時間も経たないうちに、ヨーロッパの政治家たちが一斉に声を上げた。左右を問わない。現職閣僚も、野党指導者も、元首相も。口にした言葉はそれぞれ違うが、指し示す先はひとつだった。AIは国家インフラになった、そしてそのインフラを他国が握っている、と。 何が起きたか 経緯を手短に振り返る。6月9日にリリースされたFable 5は、Anthropicが一般公開した初のMythosクラスのモデルだった。リリース前に米国政府への通知は済んでおり、反対はなかった。それが6月11日木曜夜、Amazonのアンディ・ジャシー(Andy Jassy)CEOが政権幹部に電話をかけたことで状況が変わる。自社の研究者がFable 5のセーフガードを突破し、サイバー攻撃に転用可能な情報を引き出したという報告だった。少なくとも5社が追随して懸念を伝え、翌金曜の夕方にはハワード・ラトニック(Howard Lutnick)商務長官からダリオ・アモデイ(Dario Amodei)CEOへ輸出規制の書簡が届いた。同日夜、Fable 5とMytho

FBIがサイバー犯罪訓練用の「街」を建設。病院も発電所もある

セキュリティ

FBIがサイバー犯罪訓練用の「街」を建設。病院も発電所もある

アラバマ州ハンツビルの建物の中に、住宅街がある。ホテル、ガソリンスタンド、食料品店、病院、発電所、裁判所。道路には信号機まで立っている。FBIがサイバー犯罪捜査の訓練のために建設した、約2040平方メートルの模擬都市だ。 名称はKinetic Cyber Range(キネティック・サイバーレンジ)。2025年2月に運用を開始し、すでにFBI職員と他の連邦・地方機関のパートナーを含む1400人以上が訓練を受けた。 年間3兆3000億円の被害が突きつけた問い FBIがこの施設の詳細を公開したタイミングには理由がある。 FBIのIC3年次報告書(2026年4月公開)によると、2025年の米国におけるサイバー犯罪被害額は209億ドル(約3兆3000億円)に達した。前年比26%増、IC3が25年前に集計を始めて以来の最高額だ。苦情件数も100万件を初めて突破し、ランサムウェアは重要インフラに対する最大の脅威と位置づけられた。 米国サイバー犯罪 年間被害額の推移 ※ FBI Internet Crime Complaint Center(IC3)年次報告書に基

Fable 5はなぜ止まったのか。舞台裏の24時間と「事実上のライセンス制度」

AI

Fable 5はなぜ止まったのか。舞台裏の24時間と「事実上のライセンス制度」

Fable 5停止の舞台裏が見えてきた。Anthropicはリリース前に政府へ通知し、反対されていなかった。それを覆したのは、木曜夜に始まった24時間の出来事だった。 反対されなかったリリース Fable 5の6月9日のリリースに先立ち、Anthropicは政府に対してリリース計画を複数回通知していた。政府は反対しなかった。 金曜夜の規制は、「危険なモデルを止めた」だけでは説明がつかない。政府はFable 5の性能もセーフガードの仕組みも把握した上で、リリースを黙認していた。 それが変わったのは、6月11日の木曜夜だった。 木曜夜から金曜夜まで Amazonのアンディ・ジャシーCEOが、6月11日木曜夜、政権幹部に電話をかけた。自社の研究者がFable 5のセーフガードを突破し、サイバー攻撃に転用可能な情報を引き出したという報告だった。連絡先にはスコット・ベッセント財務長官も含まれていた。 Amazonだけではない。木曜夜から金曜朝にかけて、少なくとも5社が政権の複数の高官に懸念を伝えた。 金曜早朝から、政権関係者はAnthropicに対してモデルの自主撤回を繰り返

量子コンピュータが暗号を破る日。その時計は確実に早まっている

量子コンピュータ

量子コンピュータが暗号を破る日。その時計は確実に早まっている

量子コンピュータが「いつか来る未来の技術」だった時代は終わりつつある。商用化の兆しと暗号解読の脅威が同時に加速している。問題は「来るかどうか」ではなく「いつ来るか」に移り、その「いつ」が、ここ1年で大きく前倒しされた。 「2030年までに商業利用」。楽観と冷笑のあいだで 大手テクノロジー企業、スタートアップ、各国政府が、2030年までに商業的に有用な量子コンピュータの実現に賭けている。医薬品、金融、暗号通貨に大きな影響があるとみられる一方、懐疑論者は誇大広告だと警告する。 数字は楽観を裏づけている。マッキンゼーが2026年4月に公開した第5回「Quantum Technology Monitor」によると、量子コンピューティングの導入に取り組む企業は世界で300社を超えた。量子コンピューティング企業の売上高は2025年に10億ドル(約1600億円)に達し、2028年には44億ドル(約7000億円)まで伸びると予測されている。2035年までに最大2兆7000億ドル(約430兆円)の経済価値を生むとの試算もある。スタートアップへの民間投資は2025年に126億ドル(約2兆円)を記録

Fable 5停止の裏で何が起きていたのか。政府側の言い分とAmazonの影

AI

Fable 5停止の裏で何が起きていたのか。政府側の言い分とAmazonの影

Anthropicの最新モデルFable 5とMythos 5が米政府の輸出規制で停止された問題で、新たな事実が立て続けに明らかになった。政権側の論理を語ったサックス氏の投稿、そして規制の引き金を引いたのが他ならぬAnthropicの最大の出資者だったという報道。リリースからわずか3日で止められたモデルの裏で、何が動いていたのか。 政府側が初めて語った「経緯」 大統領科学技術諮問委員会(PCAST)の共同議長であるデビッド・サックス(David Sacks)氏が6月14日、一連の経緯について長文の投稿を行った。サックス氏は3月にホワイトハウスAI・暗号通貨担当の特別顧問を退任したが、PCAST共同議長としてAI政策への関与は続いている。その立場から政府側の視点を体系的に語ったのは、これが初めてだ。 I’ve had a number of conversations with folks inside and outside government about the current situation with Anthropic, and here is what I bel

米国で約20兆円分のAIデータセンター計画が停止 住民反対の主な理由

AI

米国で約20兆円分のAIデータセンター計画が停止 住民反対の主な理由

2026年、AIの巨大インフラが全米各地で住民に拒まれている。調査会社Data Center Watch(AIセキュリティ企業10a Labs傘下)がまとめた報告によると、2026年1月から3月の3カ月間だけで、少なくとも75件、総額約1300億ドル(約20兆8000億円)相当のデータセンター計画が阻止または遅延に追い込まれた。同社が2023年に追跡を始めて以来、四半期ベースで過去最多であり、2025年の年間累計とほぼ同規模の計画がたった3カ月で止まったことになる。 電気代という導火線 住民が立ち上がる理由は、壮大な話ではない。毎月届く電気料金の請求書だ。 米エネルギー情報局(EIA)の統計によると、2020年から2026年2月までに米国の家庭用電気料金は1kWhあたり12.76セントから17.44セントへ、約36%上昇した。ファクトチェックサイトPolitiFactの検証では、データセンターが集中するワシントンD.C.では2021年3月から2026年3月までの5年間で94%、メリーランド州で74%、ニューヨーク州で58%、それぞれ家庭の電気料金が跳ね上がっている。 ローレン

Fedora 45、機密VM向けに軽量版GRUBを提案

Linux

Fedora 45、機密VM向けに軽量版GRUBを提案

クラウド上の仮想マシンが「自分のデータは誰にも見られていない」と証明するためには、ブートローダーの中身すら問題になる。その要求に正面から応える提案が、Fedora 45に向けて出された。 通常のGRUBでは「重すぎる」 Red Hatのブートローダーチームが、Fedora 45の変更提案(F45 Change Proposal)として軽量版GRUBの導入を提出した。対象は、Confidential Computingに使われる仮想マシンだ。Confidential Computingとは、クラウド上でデータを処理している最中も暗号的に保護する技術を指す。 なぜブートローダーが問題になるのか。Confidential VMはリモートアテステーション(遠隔検証)に依存している。これはVMが改ざんされていないことを外部から検証する仕組みで、その検証にはTPMのPCR値が使われる。ブートローダーが更新されるとPCR値が変わり、検証が通らなくなる。ブートローダーは小さく、モジュールは少なく、更新頻度は低いほどよい。 通常のGRUBは汎用性を重視した設計で、多数のモジュールを内蔵している

Intelが2027年前半に「Raptor Lake Next」を投入か。DDR4が手放せない時代の延命策

CPU

Intelが2027年前半に「Raptor Lake Next」を投入か。DDR4が手放せない時代の延命策

DDR5メモリの異常な高騰が、CPU業界の世代交代を巻き戻している。Intelが旧世代Raptor Lakeの3度目のリフレッシュを準備しているという情報が、Computex 2026の取材で明らかになった。 引退できないプラットフォーム Computex 2026の会場で、複数の業界関係者がIntelの計画について口を開いた。「Raptor Lake Next」と呼ばれる新たなCPUラインナップが、2027年前半の投入を目指して準備されているという。正式名称ではなく関係者の間で使われている呼称で、複数の情報筋から同じ名前が確認されている。Intelはこの件についてコメントを拒否した。 事実だとすれば、これは第13世代Raptor Lakeから数えて3回目のリフレッシュになる。第13世代(2022年)、第14世代Raptor Lake Refresh(2023年)、Core Seriesブランドでの再展開を経て、さらにもう一度。LGA 1700ソケット、DDR4/DDR5両対応というプラットフォームの基本構成はそのままだ。 LGA 1700プラットフォームのリ

ナデラ氏「自分もやめられない」。AI使い放題の時代が終わる

AI

ナデラ氏「自分もやめられない」。AI使い放題の時代が終わる

Microsoftのサティア・ナデラ(Satya Nadella)CEOが、AIの過剰利用を戒めた。「自分もトークンマキシングの中毒だ」と認めたうえで、従業員に対して高価なフロンティアモデルの安易な使用をやめるよう呼びかけている。AIを売り込む側のトップが「やめられない」と告白したこと自体が、シリコンバレー全体で進むAIコスト見直しを象徴している。 「たくさん使ってる。中毒だ」 2026年6月、ニューヨーク・タイムズのポッドキャスト「Hard Fork」の公開収録に登壇したナデラ氏は、社内でどれほどトークンマキシングが起きているかを問われ、質問が終わる前に答えた。 「たくさん。自分もトークンマキサーだ、中毒になる。でも新鮮さが薄れたら一歩引いて、自分は何を作ろうとしているのかと考えないといけない」 トークンマキシング(tokenmaxxing)。AIのトークン消費量を際限なく最大化する行為を指すネットスラングで、2026年春ごろからシリコンバレーで急速に広まった。社内リーダーボードでトークン消費量を競い合う文化が、複数のテック大手で確認されている。 ナデラ氏はさらに踏み込ん

Proton-CachyOS、DLSS専用ゲームでFSR 4を使う壁を取り払う

Linux

Proton-CachyOS、DLSS専用ゲームでFSR 4を使う壁を取り払う

AMDのGPUでLinuxゲームを遊んでいると、アップスケーリングは「対応しているかどうか」の運任せになりがちだ。NVIDIAのDLSSにしか対応していないタイトルでは、どれだけ高性能なRadeonを積んでいても恩恵を受けられない。その壁に風穴を開けてきたのがOptiScalerとProton-CachyOSの組み合わせだ。ただ、実際に使うには手間がかかった。ゲームを一度別の設定で起動して必要なDLLをダウンロードさせ、設定を戻してもう一度起動しなければならない。 6月10日にリリースされたProton-CachyOS 11.0-20260601で、この手順が消えた。 DLSSの「入口」を自動で用意する OptiScalerはコミュニティ製のツールで、ゲームが呼び出すDLSSの処理をフックし、FSR 4など別のアップスケーラーに差し替える。ゲーム側はDLSSを呼んでいるつもりでも、裏ではFSR 4が動く。ただし前提がある。ゲームのフォルダにDLSS関連のDLLファイル(nvngx_dlss.dll、nvngx_dlssd.dll、nvngx_dlssg.dll)がなければならな