岬 徹

テクノロジー分野を中心に2024年からYouTubeで約3,000本の動画を制作。登録者4万5千人超、Xフォロワー1万人超、noteフォロワー千人超。AI、半導体、PC、ゲーム業界について、一次資料やデータを基に分析を続ける。

岬 徹
全米で18件。AIナンバー読取カメラを悪用した警察官のストーキングが止まらない

AI

全米で18件。AIナンバー読取カメラを悪用した警察官のストーキングが止まらない

街の安全を守るはずの監視カメラが、警察官の私的な監視の道具に変わっている。 AI搭載のナンバープレート自動読取装置(ALPR)が米国で急速に普及するなか、警察官がこのシステムを交際相手や元恋人の追跡に悪用する事件が相次いでいる。公益法律団体インスティテュート・フォー・ジャスティス(Institute for Justice)の調査で、悪用事例は少なくとも18件確認された。そのほとんどが2024年以降に集中しており、氷山の一角にすぎない可能性が高い。 「捜査」の一言で、誰の居場所でも追える ALPRとは、道路脇や電柱に設置されたカメラがすべての通過車両のナンバープレートをAIで自動認識し、データベースに蓄積するシステムだ。日本でいえばNシステム(自動車ナンバー自動読取装置)に近いが、決定的に違う点がある。米国最大手のフロック・セーフティ(Flock Safety)が構築したネットワークは全米6000以上の自治体に展開され、顧客数は1万2000を超える。各自治体のカメラデータは相互共有が可能で、一人の警察官が全米規模の移動履歴にアクセスできてしまう。 検索に必要なのは、ナンバープ

キオクシア、時価総額で国内首位 メモリ市況と株価上昇を分析

AI

キオクシア、時価総額で国内首位 メモリ市況と株価上昇を分析

2024年12月、公募価格割れで上場した会社がある。初値1440円。市場の評価は冷たかった。それから1年半。その会社が6月12日、トヨタ自動車を抜いて日本の時価総額首位に立った。 キオクシアホールディングス。終値8万1200円、時価総額44兆3627億円。株価は上場時の56倍になった。 たった1年半で何が起きたのか キオクシアの前身は東芝のメモリ事業だ。2017年に分社化され、2018年に米ファンドなどへ売却。2020年には上場を試みたが、メモリ市況の悪化とコロナ禍で直前に延期した。4年の迷走を経て、ようやく2024年12月18日に東証プライムへたどり着いた。 上場時の時価総額は約8600億円。当時169位。それが45兆円を超えた。日本の株式市場でもほとんど前例のない急膨張だ。 背景にあるのはAIデータセンターの爆発的な需要拡大だ。キオクシアが手がけるNAND型フラッシュメモリは、AIサーバーでデータを長期保存する基幹部品だ。米テック大手がAI投資を競い合う中で、メモリの販売単価が急上昇した。たくさん売れたのではなく、単価が跳ね上がった。2026年3月期の売上高は2兆337

ASUSの16ピン対策ケーブルでも焼損報告 電源コネクタ問題を検証

GPU

ASUSの16ピン対策ケーブルでも焼損報告 電源コネクタ問題を検証

16ピンコネクタの焼損を防ぐはずだった約8000円のケーブルが、自ら焼けた。12V-2x6コネクタを巡る問題に、また一つ事例が加わった。 50ドルの「解決策」に溶融報告 ASUSが2026年4月に発表し、49.99ドル(約8000円)で単品販売を開始したROGイコライザーケーブルに、初のコネクタ溶融報告が上がった。中国のハードウェアフォーラムChiphellに投稿されたチャットログの写真に写っているのは、紫色のコネクタヘッドとROGブランドのケーブルコームで製品の真正性が確認できるケーブルだ。12本の電源ピンのうち少なくとも3本に焦げた痕跡があり、右上のピン周辺はプラスチックが完全に溶けていた。 どのGPUと組み合わせていたかは不明だが、16ピンコネクタの焼損報告はRTX 5090で最も多い。 ROGイコライザーはASUSが「均等電力供給」「ケーブル温度の低減」「1本あたりの電流容量を9.2Aから17Aに拡大」と銘打って投入した12V-2x6規格の上位互換ケーブルだ。ROG Thor IIIやROG Strix Platinumシリーズの電源ユニットに同梱されるほか、ATX

正体不明のAMD GPU「GFX1156」がドライバに出現。RDNA 3.5は終わらない

Linux

正体不明のAMD GPU「GFX1156」がドライバに出現。RDNA 3.5は終わらない

オープンソースのグラフィックスドライバに、AMDの未発表GPUを示すコードが静かにマージされた。GFX1156。RDNA 3.5系列のAPU向け内蔵GPUとみられるが、どの製品に搭載されるのかは誰にもわからない。わかっているのは、AMDがまだこのアーキテクチャを手放すつもりがないということだけだ。 ドライバコードが語る「次」 LinuxのオープンソースグラフィックスライブラリMesaの開発版(26.2)に、AMD GPUの新しい識別子「GFX1156」のサポートが6月11日付でマージされた。AMDのエンジニアが提出したマージリクエスト(!41969)はRadeonSI(OpenGL)とRADV(Vulkan)の両ドライバに初期対応を追加するもので、サミュエル・ピトワゼ(Samuel Pitoiset)氏とピエール=エリック・プルー=プレイエ(Pierre-Eric Pelloux-Prayer)氏のレビューを経てmainブランチに取り込まれた。 並行して、Linuxカーネル側でも動きがある。今月中旬に始まるLinux 7.2のマージウィンドウに向けて、DRM-Nextにはすでに

OracleのPeopleSoftに深刻度9.8のゼロデイ。100超の組織が標的に

セキュリティ

OracleのPeopleSoftに深刻度9.8のゼロデイ。100超の組織が標的に

Oracleが人事・給与管理ソフトウェアPeopleSoftの脆弱性について緊急セキュリティ勧告を公開した。認証不要でリモートからコードを実行できる脆弱性 CVE-2026-35273 が、すでに大規模な攻撃に使われている。被害組織の7割近くが大学だ。 パッチなし、認証なし、防御なし Oracleが6月10日に公開したセキュリティ勧告によると、PeopleSoft Enterprise PeopleTools(バージョン8.61および8.62)の環境管理コンポーネントに、リモートコード実行が可能な脆弱性が存在する。CVSSスコアは9.8。機密性・完全性・可用性のすべてが「高」と評価された。パスワードもユーザー操作も不要、HTTPでネットワークにアクセスできれば攻撃が成立する。 Oracleはサポート契約者向けに緩和策を案内しているが、正式なパッチが広く利用可能かどうかは不透明なままだ。サポート契約がなければ緩和策のドキュメントにすらアクセスできない。脆弱性の報告者はTrendAI Zero Day Initiative(旧Trend Micro ZDI)のボビー・グールド(Bo

Mac版OneDrive、4年越しの「重さの原因」を解消へ

macOS

Mac版OneDrive、4年越しの「重さの原因」を解消へ

MacでOneDriveを使っていて、同期が遅い、CPUが回る、ストレージを妙に食う。そんな経験がある人は少なくないはずだ。原因は2022年にMicrosoftが作った「つなぎの仕組み」にあった。6月10日、Microsoftはその仕組みを根本から作り直したNative Sync Engine(ネイティブ同期エンジン)をInsiders向けに配信開始した。 4年間、裏で何が起きていたか 話は2022年に遡る。 OneDrive for MacはこのときAppleのFile Providerプラットフォームへ移行した。macOSがクラウドストレージアプリ向けに提供するファイル同期の標準フレームワークで、iCloud Driveも同じ基盤を使っている。移行自体は正しい方向だったが、問題はその実装にあった。 Microsoftは既存の同期エンジンを書き換えるリスクを避け、File Providerとの橋渡しとして隠しキャッシュフォルダを作った。OneDriveのファイルツリーをまるごとミラーリングし、File Providerと旧同期エンジンのあいだを取り持つ。 つなぎとしては機

MetaがManusを分離 20億ドル買収後の知財・人材の扱いを検証

AI

MetaがManusを分離 20億ドル買収後の知財・人材の扱いを検証

中国発のAIエージェント企業Manusが、Metaの社内システムから完全に締め出された。6月に入り、MetaはManus従業員の社内データシステムへのアクセスを遮断し、Meta社員にもManusツールの業務利用を禁じた。社内メモにはManusを「サンセット(終了)」するとあり、進行中のプロジェクトはすべてMeta自前のシステムへ移行するよう指示が出た。 半年で築いた壁、半年で壊す 2025年12月、MetaはManusの親会社Butterfly Effectを20億ドル超(約3200億円超)で買収した。従業員の引き留め報酬5億ドルを含めると総額は約25億ドルに達するとも報じられている。わずか10日で交渉がまとまり、マーク・ザッカーバーグ氏自ら年内決着を急がせた案件だった。 Manusは2025年3月にデモ動画ひとつで世界の注目を集めた汎用AIエージェントで、発表から8カ月で年間経常収益(ARR)が1億ドルを突破していた。CEOのシャオ・ホン(Xiao Hong)氏、最高科学責任者のジー・イーチャオ(Ji Yichao)氏、CPOのチャン・タオ(Zhang Tao)氏。3人の創業

ゲーミングPCが隣室からの銃弾を遮断 米国で報告された事例

PC

ゲーミングPCが隣室からの銃弾を遮断 米国で報告された事例

真夜中、大きな衝撃音とともに顔に降りかかる強化ガラスの破片で目が覚める。何が起きたのか分からないまま部屋を見回すと、デスクの上のゲーミングPCが破壊されている。壁には穴。枕の下からは、変形した弾丸が見つかった。 壁を貫いた一発 米国の掲示板Redditに投稿されたこの体験談が、PCコミュニティで大きな反響を呼んでいる。 Neighbour shot my PC through the wall by u/angelbabyzz in pcmasterrace 投稿者のangelbabyzz氏によると、深夜、轟音とガラスの破片で目を覚ました。混乱のさなか、隣人の女性が泣き崩れながら駆けつけてきた。彼女の説明は「飼い犬が誤って銃を暴発させた」というものだった。 弾丸は壁を貫通し、ゲーミングPCを直撃していた。PCはangelbabyzz氏が眠るすぐ隣に置かれていた。angelbabyzz氏によれば、警察はPCが弾道を逸らしたと説明したという。PCがなければ弾は就寝中の本人に命中していた、と。 メモリが弾丸を受け止めた 投稿された写真を見ると、被害の中心はマザーボード

九州の電気契約者1090万件の個人情報が漏洩のおそれ。SSD紛失

セキュリティ

九州の電気契約者1090万件の個人情報が漏洩のおそれ。SSD紛失

九州電力の子会社・九州電力送配電は6月8日、顧客の個人情報を保存した外付けSSD 1台が所在不明になったと発表した。離島を除く九州本土のほぼ全契約に相当する最大1090万件の情報が含まれており、暗号化もパスワードも施されていなかった。 「一時的な運用」が生んだ巨大リスク 九州電力送配電はシステムのバックアップにサーバー内蔵のストレージを使っていたが、容量が逼迫したため、保存領域の増強が完了するまでの「一時的な運用」として、USB接続の外付けSSDにデータを退避させていた。バックアップ作業は外部の1社に委託しており、月に一度実施されていた。 4月27日、委託先の従業員2人がSSDにバックアップを完了し、サーバー室内のキャビネットに保管した。ここまでは確認されている。 約1か月後の5月26日、次のバックアップ準備のために委託先の職員がキャビネットを開けたところ、SSDがなかった。 暗号化なし、施錠なし、手荷物検査なし サーバー室自体には入退室管理がある。事前申請した関係者のみが入室でき、身分証と生体認証で本人を特定する仕組みだった。しかしSSDの保管は別だった。キャビネット

GeForce NOWが年額35%オフ。GPUなしで遊ぶ時代の現在地

クラウドゲーミング

GeForce NOWが年額35%オフ。GPUなしで遊ぶ時代の現在地

GeForce NOWが年額35%オフ。GPUなしで遊ぶ時代の現在地 NVIDIAのクラウドゲーミングサービスGeForce NOWが、6月11日からサマーセールを開始した。12ヶ月プランが35%オフになり、7月8日まで、先着順で提供される。 GPUが高騰し続ける2026年。「クラウドで遊ぶ」という選択肢が年に一度もっとも安くなる、その時期が来た。 年額プランが35%オフ。月あたりの負担は大きく下がる セール対象は12ヶ月プランのみ。日本での価格はPerformanceが1万1694円(通常1万7990円)、Ultimateが 2万3394円(通常3万5990円)で、Ultimateなら月あたり約1950円だ。RTX 5080のグラフィックボード単体が実売20万円前後、搭載PCなら40万円台からという現状を考えると、1年間のセール価格はGPU1枚の約9分の1で済む。 ただしセール価格の対象は、新規会員、無料会員、月額プランからのアップグレード、Performance年額からUltimate年額へのアップグレードのいずれか。すでに年額プランを契約中なら適用されない。 2つ

Euro-Office正式リリース後、TDFがトーンを変えた理由

オープンソース

Euro-Office正式リリース後、TDFがトーンを変えた理由

「欧州主権」を掲げるEuro-Officeと、それを批判し続けてきたLibreOfficeの母体The Document Foundation(TDF)。v1.0が公開された直後、TDFが出した声明は、これまでとは明らかに違うものだった。 批判から「歓迎」へ Euro-Officeは6月9日、GitHubでバージョン1.0を正式公開した。Nextcloud Hub 26 Springに統合される形で、ウェブエディタとしての提供が始まっている。 リリース直前の6月8日、TDFのイタロ・ヴィニョーリ(Italo Vignoli)氏は公開状で「事実上のMicrosoft同盟者」と切り捨てた。「欧州初」の看板は事実ではない、OOXMLをデフォルトにする時点で主権の名に値しない。既報の通り、かなり激しい批判だった。 ところが3日後の6月11日、同じヴィニョーリ氏が発表した2度目の声明は、読み比べると驚くほどトーンが違う。 冒頭から「TDFはオープン標準が注目を集めていることを歓迎する」と書き出し、Euro-OfficeのODFサポート改善の約束を「まさに欧州の自由ソフトウェアコミュニ

SpaceXが史上最大のIPOで750億ドルを調達。その構造が問いかけるもの

宇宙

SpaceXが史上最大のIPOで750億ドルを調達。その構造が問いかけるもの

イーロン・マスク氏率いるSpaceXが6月11日、1株135ドルでIPOの価格を正式に決定した。調達額は約750億ドル(約12兆円)。2019年のサウジアラムコによる約256億ドルの記録を3倍近く塗り替え、資本市場の歴史を書き換えた。6月12日、ナスダックでティッカーシンボル「SPCX」として取引が始まる。 ただ、この記録的な数字の裏には、一般投資家が知っておくべき構造がある。 750億ドルの内訳 SpaceXは公式サイトに掲載した価格決定の発表文書で、クラスA普通株式5億5555万5555株を1株135ドルで売り出すと発表した。企業価値は約1兆7700億ドル(約284兆円)。米国上場企業のうち、初日から時価総額で7位前後に位置する計算になる。 引受団にはゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、JPモルガンの5社が主幹事として名を連ねる。さらに30日間の追加購入オプションがあり、最大8333万3333株を追加で引き受けられる。行使されれば、調達総額はさらに約112億ドル上積みされる。 需要は公募株数の4倍に達したと報じられている

RustとAIで1からX11サーバーを書き直す。yserverが問いかけるもの

Linux

RustとAIで1からX11サーバーを書き直す。yserverが問いかけるもの

X11は死んだことになっている。GNOMEは今年3月、MutterからX11バックエンドを完全に削除した。ディストリビューションは次々とWaylandをデフォルトに切り替え、X.Orgサーバーにはセキュリティパッチしか降りてこない。6月2日にも9件の脆弱性が修正されたが、うち8件はAIによる静的解析で発見されたものだった。20年以上前のコードに、機械の目がバグを見つけ続けている。 そんな状況で、一人の開発者がX11サーバーを1から書き直した。しかもRustで、しかもAIと二人三脚で。 「Xorgのクローンではない」 yserver(仮) は、Rustで1から書かれた新しいX11サーバーだ。開発したのはベルギー・アントワープ在住のエンジニア、ヨス・デハース(Jos Dehaes)氏。6月11日に公開された。 GitHub - joske/yserver at joho-todai.comA modern X11 server written from scratch in Rust. Contribute to joske/yserver development by crea

AIの「記憶」が間違いを正さなくなる日。メモリ機能が精度を蝕む構造

AI

AIの「記憶」が間違いを正さなくなる日。メモリ機能が精度を蝕む構造

あなたの好みや癖を覚え、使うほど賢くなる。AIアシスタントの記憶機能は、いまやどの製品でも最大のセールスポイントだ。だが、その「賢さ」には代償がある。使い手を知れば知るほど、AIは正しさよりも心地よさを選ぶようになる。企業向けAIプラットフォームを開発するWriter社が6月10日に公開した2本の論文が、その構造を数字で突きつけた。 25倍に膨らむ「追従」 AIの世界でsycophancy(追従性)と呼ばれる問題がある。ユーザーが間違っていても同調し、事実より相手の気分を優先する振る舞いだ。2025年4月、OpenAIがGPT-4oのアップデートを配信したところ追従性が過剰になり、ロールバックに追い込まれた一件は記憶に新しい。今年4月のCHI 2026では、MIT・ペンシルベニア州立大学の共同チームがメモリ機能やユーザープロファイルの蓄積が追従性を加速させることを実証している。 Writer社の研究は、この問題をさらに深い層まで掘り下げた。 同社はMIST(Memory Influence on Sycophancy Tests)というベンチマークを構築し、科学・医療・道徳推