岬 徹

テクノロジー分野を中心に2024年からYouTubeで約3,000本の動画を制作。登録者4万5千人超、Xフォロワー1万人超、noteフォロワー千人超。AI、半導体、PC、ゲーム業界について、一次資料やデータを基に分析を続ける。

岬 徹
AIの「記憶」が間違いを正さなくなる日。メモリ機能が精度を蝕む構造

AI

AIの「記憶」が間違いを正さなくなる日。メモリ機能が精度を蝕む構造

あなたの好みや癖を覚え、使うほど賢くなる。AIアシスタントの記憶機能は、いまやどの製品でも最大のセールスポイントだ。だが、その「賢さ」には代償がある。使い手を知れば知るほど、AIは正しさよりも心地よさを選ぶようになる。企業向けAIプラットフォームを開発するWriter社が6月10日に公開した2本の論文が、その構造を数字で突きつけた。 25倍に膨らむ「追従」 AIの世界でsycophancy(追従性)と呼ばれる問題がある。ユーザーが間違っていても同調し、事実より相手の気分を優先する振る舞いだ。2025年4月、OpenAIがGPT-4oのアップデートを配信したところ追従性が過剰になり、ロールバックに追い込まれた一件は記憶に新しい。今年4月のCHI 2026では、MIT・ペンシルベニア州立大学の共同チームがメモリ機能やユーザープロファイルの蓄積が追従性を加速させることを実証している。 Writer社の研究は、この問題をさらに深い層まで掘り下げた。 同社はMIST(Memory Influence on Sycophancy Tests)というベンチマークを構築し、科学・医療・道徳推

Xboxの最高戦略責任者、有料ゲームへの広告導入を示唆。「価格を抑えるため」

Xbox

Xboxの最高戦略責任者、有料ゲームへの広告導入を示唆。「価格を抑えるため」

Xboxの最高戦略責任者(CSO)マシュー・ボール(Matthew Ball)氏が、ゲーム内広告の導入に前向きな姿勢を示した。開発費の高騰とハードウェア価格の上昇という二重苦の中、広告収入で「製品を手の届く価格に保つ」道を探りたいという。ただし業界の反応は一枚岩ではなく、Take-Twoのストラウス・ゼルニック(Strauss Zelnick)CEOは「有料ゲームに広告を入れるのは不公平だ」と明言している。 「問題はすべてに広告を詰め込めるかではない」 ボール氏は業界メディアThe Game Businessのインタビューで、ゲーム業界が抱える構造的な問題をこう整理した。開発コストは膨張し続けている。一方でハードウェアもソフトウェアもマイクロトランザクションも値上がりし、ユーザーは疲弊している。この両面を同時に解決しうる手段として、ゲーム内広告の可能性に言及した。 ボール氏が引き合いに出したのは、テレビのストリーミング業界だ。アメリカでは純増した加入者の100%超が広告付きプランに流れており、広告なしの選択肢も消えていない。この流れをゲームにも応用できないか、というのがボール氏

499ドルの「愛国スマホ」、HTCの2年前の端末と同型と判明

スマートフォン

499ドルの「愛国スマホ」、HTCの2年前の端末と同型と判明

iFixitがTrump Mobile T1を分解した。CTスキャン、基板交換、部品照合——あらゆる手段で突き合わせた結論は一つだった。この端末は、2024年にHTCが発売したミドルレンジ機「U24 Pro」と、実質的に同一の製品だ。 金色の皮を剥いだら、見慣れた基板が出てきた 修理情報で知られるiFixit(アイフィックスイット)が、NBCニュースと共同でTrump Mobile T1を分解した。結果は2026年6月11日に公開されている。 0:00 /0:04 1× 分解に先立ち、iFixitのリードエンジニア、シャフラム・モフタリ(Shahram Mokhtari)氏はT1をLumafield製の産業用CTスキャナーにかけた。レントゲン画像の段階で、内部構造はHTC U24 Proとほぼ完全に一致していた。チップの配置、ネジの位置、ケーブルの配線——すべてが同じだ。モフタリ氏は「初期のレントゲン画像だけで答えは明白だった」と記している。 物理的な分解に進んでも、結論は変わらなかった。背

Microsoft Defender経由でBitLockerを回避するゼロデイ「GreatXML」を報告

セキュリティ

Microsoft Defender経由でBitLockerを回避するゼロデイ「GreatXML」を報告

Windowsのディスク暗号化BitLockerを、Defenderのオフラインスキャンが裏切る。GreatXML。Nightmare Eclipse氏が公開した8本目のWindowsゼロデイだ。一度でもオフラインスキャンを実行した端末を、恒久的に危険な状態に置く。修正パッチはない。 守る側の機能が、破る側の道具になった 6月9日の月例パッチで、Microsoftは既報のゼロデイ3件(YellowKey、GreenPlasma、MiniPlasma)にようやくパッチを当てた。過去最多となる約200件の修正を含む大型更新だった。 その数時間後にRoguePlanet。翌日にGreatXML。パッチを当てた同じ週に、次の穴が2つ開いた。 GreatXMLはBitLockerのバイパスだが、YellowKeyとは攻撃の入口が違う。狙われたのはMicrosoft Defenderのオフラインスキャンだ。OSが起動する前にディスクを検査する機能で、マルウェア調査に使われる。 問題は、このスキャンが回復パーティションの構成を変えてしまう点にある。GreatXMLはこの変化を突く。回復パ

社員2000人のパスワードがCEOのデスクトップに。Excelファイル1つで崩れる企業

セキュリティ

社員2000人のパスワードがCEOのデスクトップに。Excelファイル1つで崩れる企業

あなたのパスワードを、会社のCEOは知っているだろうか。 知らないなら、それは正常だ。知っているなら、この記事を最後まで読んだほうがいい。 Excelファイルに2000人分の鍵 ルーク・アーウィン(Luke Irwin)氏はオーストラリアのサイバーセキュリティ企業Aegis CybersecurityでCEO兼主任コンサルタントを務め、業界歴は25年を超える。同氏が過去のコンサルティング案件で遭遇した事例が明かされた。 Every employee’s password was stored in a single Excel fileThe CEO thought this was the best way to deal with some email issuestheregisterAvram Piltch クライアントは従業員約2000人を抱える大規模施設管理会社だった。ビルの清掃、警備員の派遣、外壁の高所作業といったサービスを展開するBtoB企業である。IT企業ではない。サイバーセキュリティが本業の会社でもない。だからこそ、この話は他人事ではない。 その会社のC

xAI元エンジニア、Grokの安全性告発でIPO直前に提訴

AI

xAI元エンジニア、Grokの安全性告発でIPO直前に提訴

Grokの開発に携わったxAI元エンジニアが、AIの安全性に関する懸念を訴えたことへの報復として解雇されたと主張し、xAIとSpaceXを相手取った訴訟を起こした。SpaceXが6月12日に史上最大のIPOを控えるなかでの提訴となる。 訴訟の中身 デビン・キム(Devin Kim)氏は2024年にxAIの初期メンバーとしてGrokのポストトレーニング(モデルの出力品質を調整する工程)チームに加わり、研究ツール基盤のリーダーを務めた人物だ。訴状はカリフォルニア州サンタクララ郡上位裁判所に提出された。 訴状によると、キム氏はGrokの開発において安全性の優先順位が低すぎると繰り返し社内で警告していた。差別を助長する出力や、大量破壊兵器に関する情報が拡散するリスクを挙げていたという。 この懸念は、後に現実のものとなる。 2025年7月、Grokはシステムプロンプトの変更をきっかけに、ヒトラーを称賛し自らを「MechaHitler」と名乗る反ユダヤ主義的な投稿を約16時間にわたって生成し続けた。ADL(名誉毀損防止同盟)をはじめとする団体から強い非難を浴び、EUもXに対して正式に連

米CISA、脆弱性の修正期限を最短3日に。リスクベースの新指令を発行

セキュリティ

米CISA、脆弱性の修正期限を最短3日に。リスクベースの新指令を発行

米サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁(CISA)が6月10日、連邦政府機関向けの脆弱性管理を根本から組み替える拘束的運用指令「BOD 26-04」を発行した。すべての脆弱性を一律に扱うのをやめ、4つのリスク基準で優先順位をつけろ、という内容だ。最も危険な脆弱性には、修正期限が3日しかない。 「全部急げ」の限界を認めた指令 BOD 26-04の正式名称は「Prioritizing Security Updates Based on Risk(リスクに基づくセキュリティ更新の優先順位付け)」。2019年のBOD 19-02と2021年のBOD 22-01を統合・廃止し、新たな枠組みに一本化するものだ。 従来の指令は、脆弱性の深刻度スコア(CVSS)をベースに修正期限を定めていた。インターネットに公開されたシステムの重大な脆弱性は15日以内、高リスクは30日以内。KEVカタログ(既知の悪用された脆弱性カタログ)に載った脆弱性は、深刻度を問わず一律14日以内に修正しなければならなかった。 問題は、この枠組みが現場の実態に追いつけなくなっていたことだ。 5月公開のVeriz

AmazonのCPU売上トップ15をAMDが独占。Intelゼロの異常事態

CPU

AmazonのCPU売上トップ15をAMDが独占。Intelゼロの異常事態

AMDのマーケティング担当シニアディレクター、サシャ・マリンコヴィッチ(Saša Marinković)氏が6月11日、Amazon USのCPU売上ベストセラーランキングでトップ15すべてをAMD製品が占めたスクリーンショットを投稿した。Intelの名前は1つもない。 「15 out of 15」の中身 首位はRyzen 7 9800X3D。3D V-Cache搭載のゲーミングCPUとして、発売以来トップの座を譲っていない。日本での実売価格は6万円前後、Amazon USでは約449ドル。2位にはRyzen 5 5500が食い込んでいる。2022年発売、6コア12スレッド、米国で80〜85ドル前後という旧世代の廉価モデルだ。 この2製品が並んでいること自体が、今のCPU市場の歪みを端的に物語っている。 Ryzen 5000シリーズはDDR4とAM4ソケットで動く。マザーボードは1万円以下から揃い、メモリも比較的安い。一方、Ryzen 9000シリーズやIntelのArrow Lake世代はDDR5専用だ。そしてDDR5メモリの価格は、AI向けHBM製造にウェハが振り向けられ

カナダ、16歳未満のSNS利用を禁止する法案を提出。AIチャットボットにも安全義務

セキュリティ

カナダ、16歳未満のSNS利用を禁止する法案を提出。AIチャットボットにも安全義務

カナダ政府が6月10日、16歳未満のSNSアカウント保有を原則として禁止する法案「安全なソーシャルメディア法」(Bill C-34)を下院に提出した。プラットフォーム規制だけではない。AIチャットボットへの安全基準、独立規制機関の新設まで一本の法律に盛り込んだ、カナダ史上最大規模のデジタル安全法制だ。 「子どもが命を落としている」 法案を提出したマーク・ミラー(Marc Miller)アイデンティティ・文化大臣は、記者会見で一言こう述べた。政策文書の数字ではなく、この一文がすべてを語っていた。 背景にあるのは、2026年2月にブリティッシュ・コロンビア州タンブラーリッジの中等学校で起きた銃乱射事件だ。加害者の18歳はChatGPTと銃撃に関する会話を繰り返していた。OpenAIは社内でその危険を察知していたが、当局への通報を見送った。生徒5人と教員1人を含む8人が命を落としたこの事件は、カナダ社会に深い傷を残し、プラットフォームとAIの両方に対する法的義務を求める世論を一気に押し上げた。 Bill C-34は、自由党政権としてオンライン有害情報対策の3度目の挑戦にあたる。前身

ChatGPTがAIの敵に回る日。中国発の世論工作が狙った標的

AI

ChatGPTがAIの敵に回る日。中国発の世論工作が狙った標的

AIが世論を操る——もはや驚く話ではない。だが今回、操作の矛先がAIインフラそのものに向いたことで、構図が一段変わった。 OpenAIは2026年6月10日、中国に拠点を置くとみられる2つのアカウント群をChatGPTから排除したと発表した。米国内のデータセンター建設への反感と、トランプ政権の関税政策への批判をSNS上で煽るために、ChatGPTをコンテンツ量産の道具にしていた。 電気代を武器にする OpenAIが公開した脅威レポートによると、排除されたアカウント群は大きく2つに分かれる。 1つ目はOpenAIが「Data Center Bandwagon」と名付けたキャンペーンだ。簡体字中国語でChatGPTに指示を出し、英語の投稿文やコミック調の画像を生成させていた。主張は一貫している。「AIデータセンターの建設が電力需要を押し上げ、一般家庭の電気代を跳ね上げている」。この一点に絞って、Xの偽アカウントから投稿を繰り返した。 手口は単純だが周到だった。地方紙が報じた電力市場の容量オークション価格を取り上げ、ChatGPTにコミック調の画像を生成させる。正規の報道記事への

BingにAI回答の「キルスイッチ」。Googleの自滅を横目に、Microsoftが選んだ差別化

AI

BingにAI回答の「キルスイッチ」。Googleの自滅を横目に、Microsoftが選んだ差別化

検索結果からCopilotのAI回答を丸ごと消せるブラウザ拡張機能を、Microsoftが自らリリースした。AI検索を全力で推してきた企業が「要らない人は消していい」と認めた格好だ。Google検索のAI一辺倒に対するユーザーの反発が、検索市場の勢力図を静かに書き換え始めている。 拡張機能ひとつで、AI回答が消える Microsoftで検索部門社長を務めるジョルディ・リバス(Jordi Ribas)氏が6月初旬、Bing検索のAI回答をワンクリックで切り替えられるブラウザ拡張機能をプレビュー公開したと発表した。名称は「Microsoft Bing AI Search Choice」。ChromeウェブストアとEdgeアドオンストアの両方で配布されている。 We just shipped a preview extension in Bing that lets you toggle AI chat-like features on or off with just one click. It’s a simple but

AIを売る側が「AIにはできないことがある」と言った。その重さ

AI

AIを売る側が「AIにはできないことがある」と言った。その重さ

2026年5月28日、MITの卒業式でAMD会長兼CEOのリサ・スー(Lisa Su)氏が壇上に立った。AI半導体の需要急増で四半期売上高は103億ドル(約1兆6500億円)。その経営者が卒業生に語ったのは、AIの可能性だけではなかった。 卒業式で「AI」と言えばブーイングが飛ぶ季節に 今年の米国の卒業式シーズンは異様だった。 セントラルフロリダ大学では不動産企業幹部がAIを「次の産業革命」と称した瞬間に会場からブーイングが噴出した。中部テネシー州立大学ではレコード会社CEOが「AIが制作を書き換えている」と語り、学生の怒号に対して「受け入れろ」と言い放った。アリゾナ大学では元Google CEOのエリック・シュミット(Eric Schmidt)氏がAIに触れるたびに繰り返しブーイングを浴びた。 就職市場の冷え込みとAIによる業務自動化への不安が重なるなか、卒業式でAIを礼賛するスピーカーへの拒絶反応は全米に広がっていた。スー氏がAIの話題に入った際にも、MITの公式録音では会場に同様の反応があったと報じられている。 スー氏が踏み込んだ一線 ただし、スー氏のスピーチはそ

Anthropicが「見えない性能劣化」を撤回。Fable 5のAI研究制限が炎上した理由

AI

Anthropicが「見えない性能劣化」を撤回。Fable 5のAI研究制限が炎上した理由

6月9日に一般公開されたClaude Fable 5には、Anthropicが公にしなかった安全装置がもう一つ埋まっていた。サイバーセキュリティや生物学関連のリクエストをOpus 4.8に転送する仕組みは既報のとおりだが、319ページにおよぶシステムカードの奥に、もう一つの安全装置が記されていた。フロンティアAI開発に関わるリクエストに対し、ユーザーに知らせることなく性能を落とす措置だ。リリースから数時間でAI研究コミュニティの怒りが爆発し、Anthropicは翌日に方針を撤回、謝罪に追い込まれた。 「見えないガードレール」の異質さ Fable 5の安全装置には4つのカテゴリーがある。サイバーセキュリティ、生物学・化学、モデル蒸留、そしてフロンティアLLM開発。前の3つは共通の仕組みで動く。分類器がリクエストを検知すると応答をOpus 4.8に切り替え、その旨をユーザーに通知する。誤検知は多いが、何が起きたかは見える。 4つ目だけが違った。 システムカードにはこう記されていた。サイバーセキュリティや生物学・化学、蒸留に対する介入と異なり、この安全装置はユーザーに見えない、と。

IPO直前のOpenAIが値下げを検討。Anthropicとの価格戦争が始まろうとしている

AI

IPO直前のOpenAIが値下げを検討。Anthropicとの価格戦争が始まろうとしている

OpenAIがAPIのトークン価格を大幅に引き下げる検討に入った。事情に詳しい関係者の話として報じられた。Anthropicも同様の値下げに踏み切るとの見通しが背景にあり、両社が同時にIPO準備を進めるなかで、本格的な価格戦争の号砲になりかねない。 値下げの構図 OpenAIがいま検討しているのは、AIサービスの課金単位であるトークンの単価を大幅に引き下げることだ。Anthropicに流れた顧客を取り戻す狙いがあるとされるが、関係者によれば議論はなお流動的で、最終決定には至っていない。 背景にあるのはAnthropicの急成長だ。ARR(年間経常収益)は2025年末の約90億ドル(約1兆4000億円)から、2026年5月には約470億ドル(約7兆5000億円)へと跳ね上がった。牽引役はClaude Code。ソフトウェアエンジニアの間で爆発的に広がり、年間100万ドル以上を支出するエンタープライズ顧客は1000社を超えた。5月28日に完了したSeries Hでの企業価値評価は9650億ドル(約154兆円)。OpenAIの8520億ドル(約136兆円)を初めて上回り、未上場AI企