DLSS 5の陰で、NVIDIAがVRAMを85%削減する
DLSS 5の「AIスロップ」批判の裏で、NVIDIAはもうひとつの切り札を静かに切っていた。テクスチャのVRAM消費を85%以上削減する技術が、ゲーマーにとってはるかに重要かもしれない。
DLSS 5の「AIスロップ」批判の裏で、NVIDIAはもうひとつの切り札を静かに切っていた。テクスチャのVRAM消費を85%以上削減する技術が、ゲーマーにとってはるかに重要かもしれない。
テクスチャ圧縮がVRAMの壁を壊しにかかる
NVIDIAが2026年3月のGDC(Game Developers Conference)で行ったニューラルレンダリングのセッションが、GTC 2026での派手なDLSS 5発表の陰に隠れていた。だが、その技術デモの中身は地味な見た目とは裏腹に、ゲーマーにとってDLSS 5より切実なインパクトを持っている。
デモで示されたのはNTC(Neural Texture Compression)と呼ばれるテクスチャ圧縮技術だ。
トスカーナの別荘を描いたシーンで、従来のBCn圧縮テクスチャが6.5GBのVRAMを消費するのに対し、NTC適用後はわずか970MBまで縮小された。画質をほぼ維持したまま、VRAM消費が約85%減少するという数字は、8GBカードのユーザーにとって別世界の話に聞こえる。


NTCは複数のPBRテクスチャチャンネル(アルベド、法線、メタルネス、ラフネスなど最大16チャンネル)を1つのセットとして圧縮し、素材ごとに最適化された小型ニューラルネットワークでリアルタイムに解凍する仕組みだ。
ポイントは、この技術がDLSS 5のような「最終画像にAIフィルタをかける」アプローチとは根本的に異なることだ。NTCはレンダリングパイプラインの内部に入り込み、テクスチャデータそのものを効率化する。アートスタイルを変えるのではなく、同じアートスタイルをより少ないメモリで実現する。
Neural Materialsがもたらす「もうひとつの圧縮」
NTCだけではない。同じGDCセッションではNeural Materialsという関連技術も披露された。
従来のマテリアルシステムでは、ひとつの素材に対して19チャンネルのテクスチャデータと重いBRDF演算が必要だったが、Neural Materialsはこれをコンパクトな潜在表現に圧縮し、小型ネットワークで復元する。
デモでは19チャンネルが8チャンネルに削減され、1080pのテストシーンでレンダリング速度が1.4倍から最大7.7倍に向上したとNVIDIAは報告している。こちらはVRAMの節約というより、マテリアル処理の計算コストそのものを切り詰める技術だ。
テクスチャの容量を潰すNTCと、マテリアルの演算を縮めるNeural Materials。両者の組み合わせが意味するのは、「同じGPUでより多くのものを描ける」未来だ。
| NTC | Neural Materials | |
|---|---|---|
| 対象 | テクスチャデータ | マテリアル演算 |
| 従来 | 6.5GB(BCn) | 19チャンネル |
| 適用後 | 970MB | 8チャンネル |
| 効果 | VRAM 85%削減 | 最大7.7倍高速 |
DLSS 5の騒動が覆い隠したもの
NVIDIAがGTC 2026でDLSS 5を発表した直後、ゲーマーコミュニティの反応は苛烈だった。『バイオハザード レクイエム』のキャラクターモデルが「AIフィルタで塗り替えられた」ように見えるデモ映像に、批判が殺到した。「アートの魂がない」「AIスロップだ」という声が上がり、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは「ゲーマーの反応は完全に間違っている」と反論する事態にまで発展した。
https://x.com/HardwareUnboxed/status/2033712189660622967
だが、このDLSS 5の炎上がニューラルレンダリング全体の印象を歪めた側面がある。NTCやNeural Materialsは、ゲームの見た目を「AIの解釈」に置き換えるものではない。既存のアセットを、より効率的にGPUに載せるための基盤技術だ。
VideoCardzはこの件について、NVIDIAはDLSS 5よりも先にNTCのようなゲーマーに直接恩恵のある技術をアピールすべきだったと指摘している。結果論ではあるが、的を射た批判だろう。
8GBカード問題への回答になるか
NTCが現実のゲームに実装された場合の影響を考えてみよう。現代のAAAタイトルでは、テクスチャがVRAM消費の50〜70%を占めるとされる。
仮にNTCでテクスチャ消費を85%削減できれば、12GBカードの実効容量は事実上20GB以上に匹敵する計算になる。
RTX 5060やRX 9060 XTといった8GB搭載カードで高画質テクスチャが扱えない現状への、直接的な回答となりうる。NVIDIAのGitHubページによれば、NTC SDKの最低動作要件はRTX 20シリーズだが、GTX 10シリーズやAMD Radeon RX 6000シリーズ、Intel Arc A-seriesでも動作が確認されている。NVIDIA専用ではなくマルチベンダー対応の設計であり、DirectX 12のCooperative Vectors機能を通じて他社GPUでも利用可能だ。
ただし楽観は禁物だ。実際のゲームシーンでの検証はまだ限定的で、テクスチャ量が増えた場合のパフォーマンスコストは未知数のままだ。あるYouTuberによるより重いシーンでのテストでは、「Inference on Sample」モードはRTX 5090でも負荷が高すぎ、「Inference on Load」モードではVRAM削減効果が薄れたという報告もある。
テクスチャ圧縮技術は1990年代からほぼ変わっていない。NTCはこの分野における約30年ぶりの根本的な刷新であり、成熟すれば「GPUのVRAM搭載量」という議論そのものの前提を変える可能性がある。
派手な技術より、地味な技術が世界を変える
NVIDIAの戦略的判断としては理解できる。DLSS 5は「ニューラルレンダリング時代」の象徴的な旗印であり、RTX 60世代への布石でもある。だが、ゲーマーが日常的に恩恵を受けるのは、見た目を変えるAIフィルタよりも、メモリとストレージの制約を緩和する基盤技術のほうだ。
NTCが実ゲームに搭載されるまでにはまだ時間がかかる。開発者側での対応が必要であり、既存タイトルがNTC対応になることはない。それでも、DirectXの標準機能としてマルチベンダー対応が進んでいる事実は、この技術が一社の囲い込み戦略ではなく、業界全体のインフラになりうることを示している。
DLSS 5が描く「AIが画を描き替える未来」に賛否はあっていい。だが、NTCが描く「同じ画をもっと少ないリソースで描く未来」は、反対する理由がほとんどない。注目されるべきは、むしろこちらだったのかもしれない。
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