Firefox 149が「無料VPN」を搭載──ただし日本はまだ蚊帳の外
Firefoxが無料VPN、画面分割、タブメモを一挙に投入した。ブラウザ戦争で劣勢のMozillaが繰り出した大型アップデート、その中身と「見えない制約」を読み解く。
Firefoxが無料VPN、画面分割、タブメモを一挙に投入した。ブラウザ戦争で劣勢のMozillaが繰り出した大型アップデート、その中身と「見えない制約」を読み解く。
Firefox 149の無料VPN、その正体はブラウザ専用プロキシ
Firefox 149が本日(3月24日、日本時間)、安定版チャンネルで全ユーザーに向けてリリースされている。目玉は無料のブラウザ内蔵VPN機能だ。追加のダウンロードや拡張機能なしで、IPアドレスとロケーションを隠すプライバシー保護が使えるようになる。
ただし、この「VPN」という看板には注意が必要だ。正確にはブラウザトラフィックのみをプロキシ経由でルーティングする仕組みであり、デバイス全体の通信を暗号化する本来のVPNとは別物だ。メールクライアントやトレントなど、Firefox以外のアプリの通信は一切保護されない。
Mozillaは公式ブログで「無料VPNは怪しい取引でプライバシーを犠牲にすることがあるが、我々のものはデータ原則に基づいている」と述べている。
技術的にはWireGuardプロトコルをベースにしており、軽量さと接続速度では定評がある。月間データ上限は50GBで、一般的なWebブラウジングには十分だが、HD動画のストリーミングを多用すれば数日で使い切る可能性もある。CyberInsiderがこの機能の限界を整理しているが、ルーティング国の選択ができない点も制約の一つだ。
そして日本のユーザーにとって最も重要な点がある。初期提供地域はアメリカ、フランス、ドイツ、イギリスの4カ国のみで、日本は含まれていない。拡大時期も未定のため、当面は恩恵を受けられない。
有料のMozilla VPNとの混同に注意
混乱しやすいのが、既存の有料サービスであるMozilla VPNとの違いだ。
Mozilla VPNはMullvadのサーバーを利用した本格的なVPNサービスで、月額4.99ドル(約800円、年払い時)でデバイス全体の通信を暗号化する。57カ国以上にサーバーを持ち、5台まで同時接続が可能だ。ただしこちらも日本では契約できない。
一方、今回のFirefox内蔵VPNはブラウザ限定の無料プロキシであり、まったく別のプロダクトと考えたほうがいい。Mozillaも既存のMozilla VPNユーザーに対して、ツールバーからFirefox VPNのアイコンを削除するよう推奨している。両方を同時に使うと競合する可能性があるためだ。
正直なところ、この命名はわかりにくい。「Firefox VPN」と「Mozilla VPN」が別物だと気づかないユーザーは少なくないはずだ。
Split Viewとタブメモ──他ブラウザにようやく追いついた
Firefox 149は、1つのウィンドウ内で2つのWebページを左右に並べて表示できるSplit View機能を標準搭載している。タブを右クリックして「Split Viewに追加」を選ぶだけで起動し、中央の仕切りをドラッグしてペインの幅も調整できる。
資料を見ながら文章を書く、ショッピングで価格を比較する──こうした「タブを何度も行き来する煩わしさ」を解消してくれる。VivaldiやArc、さらにはChromeも同様の機能を搭載済みで、Firefoxはようやく追いついた形だ。便利だが、先進的とは言いがたい。それでも「ようやく来た」という安堵感のほうが大きいだろう。
もう一つの新機能Tab Notesは、個々のタブにメモを紐づけられる実験的機能だ。Firefox Labs経由で有効化でき、調べ物の途中でコンテキストを記録するのに便利だ。
AI機能は「選択制」を貫く
Firefox 148で導入されたAI機能のオン・オフ制御に続き、今回のアップデートでもMozillaは「選択」を強調している。以前「AI Window」と呼ばれていた機能は「Smart Window」に改名され、記事の要約や製品比較といったAIアシスタント機能を提供する。ただし現時点ではウェイトリスト制で、Firefox 149には含まれていない。
他のブラウザがAI機能を標準搭載する流れに対し、Mozillaはあくまでオプトインにこだわる。Firefox責任者のアジット・ヴァルマは「ユーザーにとって本当の力、選択肢、そして強固なプライバシー保護を、Firefoxにしかできない方法で提供する」と語っている。これがFirefoxらしさだと言えるし、機能競争で出遅れる原因だとも言える。
セキュリティ改善とSanitizer API
派手な新機能の裏で、地道ながら重要な改善も入っている。PDFの読み込みがハードウェアアクセラレーションで高速化され、SafeBrowsingが悪意ありと判定したサイトからの通知は自動ブロックされるようになった。
前バージョンのFirefox 148では、ブラウザとして世界初となる標準化されたSanitizer APIを実装している。XSS(クロスサイトスクリプティング)攻撃を根本から防ぐ仕組みで、開発者は従来の危険なinnerHTMLを新しいsetHTML()に置き換えるだけで、悪意あるHTMLが自動的に無害化される。Mozilla Hacksが技術的な詳細を公開しており、他ブラウザも追随する見通しだ。
XSSはOWASPの脆弱性ランキングで10年近くトップ3に入り続けている。Sanitizer APIはこの「Webで最もしぶとい脆弱性」に対する、プラットフォームレベルでの構造的な回答だ。
そのほか、エラーページのデザイン刷新、ツールバーへの共有ボタン追加、JPEG XLデコーダーのRust実装への置き換えなど、細かな改善が積み重ねられている。新マスコット「Kit」もブラウザ内に登場し始めた。
市場シェア約2%からの反攻は成るか
StatCounterのデータによれば、Firefoxの全プラットフォーム市場シェアは約2.2%にまで縮小している。デスクトップに限れば約4%を維持するものの、かつて3人に1人が使っていたブラウザの面影はない。
世界の推定ユーザー数は約3億人。Chromium系ブラウザの支配が続くなか、Mozillaが打ち出しているのは「機能の量ではなく、哲学で差別化する」という戦略だ。AI機能を押し付けず、プライバシーをデフォルトにし、Geckoエンジンでオープンなウェブ標準を守る。VPN、Split View、Tab Notesのいずれも他ブラウザの後追いだが、「ユーザーの選択」というフレーミングで独自色を出そうとしている。
問題は、この哲学がシェアの回復につながるかどうかだ。プライバシー重視のユーザーはすでにFirefoxを使っている可能性が高く、今回のアップデートで新規ユーザーを大量に獲得できるかは未知数だ。それでも、Chromium一強の世界でGeckoエンジンが生き残ること自体に価値がある。選択肢が一つ減るたびに、ウェブの多様性は確実に損なわれる。
Firefoxが「最高のブラウザ」になれるかはわからない。だが「必要なブラウザ」であることは、今日も変わっていない。
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